女神なんてお断りですっ。

紫南

文字の大きさ
上 下
182 / 457
連載

286 前提条件なので

しおりを挟む
2015. 11. 22
********************************************

「ダンジョン……?」

ルクスは、確認するようにそれを口にする。

「そうっ。ドキドキ、ワクワクの、冒険者として一度は行ってみたいダンジョンね。『冥土の土産としても最適』ってキャッチフレーズもあるダンジョンだよっ」
「……それは聞いた事がないんだが……」

どこの誰が考えたキャッチフレーズか知らないが、これほど良い意味に聞こえないキャッチフレーズも中々珍しい。

「うそっ。死ぬまでに一度は行っておかないと後悔するよって、有名だった筈なんだけどなぁ……」
「……」

捻り過ぎて失敗したのかと、ルクスはなんとか納得する。言いたい事は分かった。

「それで……それが何であの約束と関係あるんだ?」

ルクスがティアとした約束は、休みの一週間、ティアから離れない事だった。

「だって、ルクスがもっと動ければ、あの事態でもすぐに任せたものを済ませて、私の所へ来られたでしょ?」
「あ、あぁ……」
「今よりもっと強くなれたら、良いと思わない?」
「そ……そうだなっ」

実際、あの事態の中では別行動の方が効率が良かった。一緒に居る事は無理というよりも、別れた方が正解だったのだが、ルクスは今、一日でも早く強くなりたいと思っている。これにより、少々無茶なこじつけも、あっさりと納得してしまうのだ。

「だから、強くなる為の特訓が存分にできる場所へ行ったらどうかと思うんだ」
「それが、ダンジョンか?」
「そっ。どお?試してみない?」

ティアは、とっておきの笑みをルクスへと向ける。久し振りにこんな表情のティアを見たと、ルクスは場違いな感動を感じていた。

「いいな……」

それが何に対して出た感想だったのか。それは、本人にすら曖昧なまま、ティアが押し切る。

「でしょっ。ふふっ、なら先ず、明日から半月以内にAランク認定を受けておいてね。あそこのダンジョン、奥まで行くにはAランク以上じゃないと、面倒だから」
「……へ?」

あっさりと言われた前提条件に、ルクスの思考は一瞬止まった。

そんなルクスなどお構いなしに、ティアは更なる追い打ちをかける。

「お父様には、私の護衛の任務を少し外れる事も言っておくから、集中して頑張って。とりあえず、Aランク認定受けるまで、私とも会わないでおこう。その方が集中できるもんね」
「いや……え……?」

ティアの突然の会わない宣言に、今度こそ完全に思考が停止してしまったルクスだ。

「ティア?ルクス師匠に一体何を……」
「先生っ……ダメです。全く見えていません」
「目……開いたままなのにね……」

この時。様子がおかしいと思い、心配になって近付いてきていたエルヴァスト、キルシュ、アデルは、少し前からティアの言葉をしっかりと耳にしていた。

「ティア。会わないっていうのは……そんな事は必要ないだろう?」

エルヴァストが、なんとかルクスを救済しようとティアを説得に掛かった。だが、そんな心遣いをティアが気付くはずもない。

「だって、Aランク認定だよ?一日じゃ終わらないクエストを与えられるし、結構無茶な日程組まれるよ?いつもみたいに、私の授業が終わる時間にお迎えとか、考えてらんないからさ」

ルクスは、学園街の屋敷に滞在している間、ティア達の授業が終わる頃に学園へ迎えに行き、一緒に出掛けるというのが日課だった。

Aランクの認定試験はクエストだ。それも、三つのクエストを受ける事になる。

一つ目は、単独での討伐や素材採取のクエスト。二つ目と三つ目は、審査員となる冒険者やギルドの職員達で構成されたパーティでのクエストだ。

主に二つ目は討伐クエスト。三つ目が護衛クエストで、荷物や人を安全に目的地まで護衛する仕事になる。その為に移動が多く、何日も掛かり、国境をまたぐ事もあるのだ。

これら三つのクエストをクリアし、その中で能力は勿論、人物、人柄などの評価を受ける事になる。

審査が終わり、判定が出るのは早くて半月。遅くて半年後になる時もある。それは、審査対象になる三つのクエストが、タイミング良く発生する事が稀な為だ。

だが、王都は違う。

「サルバとか地方で受けると、クエストを手配するのに時間が掛かるけど、王都なら常に認定用のクエストはあるみたいだし、集中して取ってきて」

王都の冒険者ギルドでは、Aランクの冒険者をすぐに得られるよう、審査用のクエストの情報を、各地のギルドから集め、まとめているのだ。

これにより、少々開始から移動する事はあるが、待たされる事なく受けられる。

「ルクス。聞いてる?Aランクが絶対条件だから、しっかりね」
「お……おぉ……」

呆然としたままだったルクスに、ティアは笑顔でトドメをさした。

「師匠……またそんないい加減な返事を……」

これにより、ルクスのAランク認定試験が確定したのだった。


************************************************
舞台裏のお話。

ベル「ユフィ。寒くはないか?」

ユフィア「はい。風も心地よくて、良い天気ですね」

ベル「あぁ」

ユフィア「ベル様も混ざりたいのではありません?」

ベル「アレにか?まぁ、そうでないと言えば嘘になるな。楽しそうだ」

ユフィア「わたくしも混ざれたら良いのですが……」

ベル「いや、やめた方がいい。後、ユフィ」

ユフィア「はい」

ベル「その……母上のようになる事もない。あれは今、暴走中なんだ。手本にはしないでくれ」

ユフィア「え?そうなのですか?わたくし……楽しみにしていましたのに……」

ベル「な、何をだ?」

ユフィア「お義母様と、旦那様を守れる強い女になる花嫁修業をするお約束をしたのです」

ベル「っ……出遅れたっ……」

ユフィア「?どうなさったの?」

ベル「い、いや……その約束はどうにかする。母上の方は任せてくれ。だから、強くなる必要はない」

ユフィア「……ですが……っわたくし、ベル様を支えられる妻になりたいのですっ」

ベル「……っユフィ……」

ユフィア「あ……つ、妻だなんて、わたくし……っ」

ベル「っ……ゆ、ユフィっ。そのままで良いっ」

ユフィア「ベル様……っ」

ベル「今のままのユフィで充分だ。今でも支えてもらっている」

ユフィア「っ、本当ですの?」

ベル「ああ。側にいてくれるだけで、とても幸せだ」

ユフィア「っわ、わたくしも……っとても幸せです……っ」



つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎


ちょっと糖分の加減を間違えました……多過ぎです……。
ベル兄ちゃんは、シアン化を止める方向です。


ティアちゃんへ言質を取られる恐ろしさを、未だルクス君は理解出来ていないのでしょうか。
毎回、痛い思いをしている筈なのですが……。
ティアちゃんの無茶振りは良くある事ですが、今回もキツイ感じです。
まぁ、裏を返せば、それが出来るとティアちゃんが判断し、信頼しているという事なんですけどね。


では次回、また明日です。
よろしくお願いします◎
しおりを挟む
感想 122

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。

重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。 あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。 よくある聖女追放ものです。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。