女神なんてお断りですっ。

紫南

文字の大きさ
上 下
163 / 457
連載

267 邪魔者は退散させます

しおりを挟む
2015. 10. 26
********************************************

ザランはティアの姿を確認すると、ギルドの扉を入ろうとした所で外を振り返り、体を捻るようにして騎獣小屋の方を覗き見て言った。

「マティとフラムはどうしたんだ?」
「お留守番。会いたかったの?」
「いやいや、外にいねぇから気になっただけだっ」

ザランはどうやら、ティアが居るかどうかを、マティで判断しているらしい。それは他の冒険者も同じなようだ。

先ほどからギルドへやってくる者達が、ティアの姿を見てザランと同じ行動をとって騎獣小屋を確認し、もう一度ティアを見つめて首を傾げていた。

「そんなに慌てるなんて……まさかサラちゃんっ。マティの事をっ⁉︎」
「待てっ。お前はまた何を想像しやがったっ⁉︎」

本気で動揺するのは、ザランだけだ。周りの冒険者達は、またティアお得意の遊びが始まったと苦笑している。

「大丈夫。心配しないで。種族なんて関係ないもん。あ、因みに、マティはまだ性別が決まってないの。どっちもOKだから、でも、サラちゃんがその気なら、とっておきの魔導具を貸すから、心をしっかり女に変えてからアタックしてやって」

こうしてザランを弄る時は、冒険者達も心得たもので、ティアとザランからしっかりと距離を取るようにしている。まるで芝居を見る時の舞台と観客席の距離を思わせるその見事な引き方は、ある意味このサルバの名物だ。

「ふざけんなっ、アレだろっ、あのピンクのっ……おぞましい記憶を呼び起こさせんなっ」
「やだなぁ。かなり貴重なものなんだよ?シェリーの友達が、千年近く大切にしまってた、とっておきなんだから」

身に付けた者の心を、たちまち乙女に変えるという魔導具。目に刺激を与える程の見事なピンク色のドレスだ。それはその昔、サクヤがシェリスに送ったもの。

シェリスがティアへと猛烈にアタックする所を見たサクヤの、乙女心を理解しないシェリスへ嫌味を込めた贈り物だった。

それを、少々理由があって身に付けた事のあるザランは、その後に引き起こされる弊害を思い出し、顔を真っ青にしていた。

「だから何でそれがマスターの所にあるんだよっ」
「詐欺ギツネのひがみです」
「へ?」
「あ、シェリー」

ティアの気配を感じて部屋から出てきたシェリスが、綺麗な顔を少々歪ませてそう言った。

「なんですか、ザラン。また着たいならそう早く言いなさい。さっさとデータを取って、次の研究に役立てようと思っていたところです。すぐに持って来ましょう」
「ままま、マスターっ、違いますっ!!全然着たくないっすよっ⁉︎」

仕方がないといった表情で、シェリスが部屋へ引き返そうとする。それを、ザランが慌てて取りすがった。

ザランの必死な表情を見下ろすように見たシェリスは、ふっと表情を柔らかくする。

「ザラン……分かっていますよ。素直に本心が言えないのは、悪い事ではありませんからね」
「……っ分かってないっすよねっ⁉︎って、お前は何やってんだっ!」

シェリスを止める事に必死になっていたザランだが、ティアとの付き合いで習得せざるを得なかった特殊技能により、後ろでゴソゴソと何やらやりだしたティアに気付いた。

「うん?何って、ドレスを着たサラちゃんに似合う髪飾りとか装飾品を……ピンクのドレスなんだよね……どう思う?ユフィアお姉様」
「ピンクですか?なら、この白いイヤリングも良いかもしれませんわ」
「ザランさんが着るの?」
「……趣味は人それぞれだしな……」

真っ青になっているザランなど気にする素振りも見せず、子ども達は、この後に起きる事を知らない為、楽しくテーブルを囲んでいた。

「お待たせしました。では、着替えはあちらで」
「っ、いつの間にっ⁉︎」

ティア達を気にしていた為に、シェリスへの注意がそれていたらしい。シェリスは、いつの間にかこの場を離れ、手にピンクのドレスを持って、何食わぬ顔で戻ってきていた。

「なんだよ。ザラン。また着るのか?」
「良いんじゃねぇ?姫が帰ってきた祝いみたいなもんだ」
「あぁ、歓迎の為の一発芸か。さすが、ザランだぜ」
「おう。身のはり方が違うよなっ」

これはいつかの流れと同じだと感じたザランは、土気色になった顔のまま、堪らず外へと逃げ出した。

「やっ、やってられっかぁぁぁぁっ」
「あ、逃げられた」
「おや。根性がありませんね」
「「「……ある意味、勇者……」」」

ティアとシェリスからまんまと逃げ切ったザランの勇姿はこの先、密かに語り継がれるようになる。

「さて、邪魔者が一人消えましたね。お帰りなさい。ティア」

シェリスがティアの遊びに付き合った訳は、この言葉で明らかだった。

「ただいま、シェリー」

甘く優しい表情を浮かべたシェリスの目には、もうティアしか映っていないのだった。


************************************************
舞台裏のお話。

シアン「ほぉ~ら。いくわよぉ」

マティ《はぁ~い》

シアン「そぉれっ」

マティ《う?うわわっと》

ゲイル「……な、なんちゅう、豪速球を……」

ゼノ「み、見えんかったぞ……ボールだよな?」

シアン「うふふ、ラキアちゃんに教わった投げ方なのぉ」

マティ《……シアンママ……スゴイ!》

シアン「ふふっ、これでティアちゃんとも遊べるわよねっ?」

マティ《うん。主とも遊べるよっ。攻撃力もあるもん》

ゲイル「……こ、攻撃力?」

フラム《キュキュ?》

ゼノ「ん?フラム。どうかしたのか?」

フラム《キュ~……?》

ゲイル「おい……その凹み……」

ゼノ「……間違いないようだな……」

フラム《キュっ、キュっ》

ゲイル「そ、そっちにもあんのか……シアンの練習の跡だよな?」

ゼノ「リジットは気付いていないのか?」

ゲイル「……諦めたんじゃねぇか……?」

ゼノ「……」
フラム《キュ~……》


つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎


安全は確保していたかもしれませんが……恐ろしい遊びです……。


お久しぶりのサラちゃん遊び。
やっぱり楽しいですよね。
冒険者ギルドはこうでなくては。
今回は、シェリスも自分の為とはいえ参戦してます。
さて、キルシュ達の反応は?


では次回、また明日です。
よろしくお願いします◎
しおりを挟む
感想 122

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

側妃は捨てられましたので

なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」 現王、ランドルフが呟いた言葉。 周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。 ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。 別の女性を正妃として迎え入れた。 裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。 あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。 だが、彼を止める事は誰にも出来ず。 廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。 王妃として教育を受けて、側妃にされ 廃妃となった彼女。 その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。 実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。 それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。 屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。 ただコソコソと身を隠すつまりはない。 私を軽んじて。 捨てた彼らに自身の価値を示すため。 捨てられたのは、どちらか……。 後悔するのはどちらかを示すために。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。

重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。 あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。 よくある聖女追放ものです。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。