女神なんてお断りですっ。

紫南

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閑話2-3 ビアンの休日③

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2018. 10. 27

**********

「あの……サクヤさん?」
「なぁに?」

デートらしくということで、ビアンは今一般的な平民服を着て、同じく簡素な服を着たサクヤとお洒落な喫茶店に入ったり、王都の観光スポットを回ったりした。

そうして、後はウルスヴァンへのお土産を何か、と店舗を見て回っていたのだが、唐突にサクヤに引っ張られて入った店はそういったお土産に向きそうな所ではなかった。

「その……ここは子ども服が多いようなのですが……?」

美しい色合いが目に飛び込んでくる。その服のどれもが小さい。

「そうよ? ティアに似合うのを選ぼうと思って。ねぇ、あ・な・た? あの子にはどれが良いかしら?」
「あなっ……さ、サクヤさんっ!?」

自分でも顔が熱を持つのが分かった。本当は男性だと言われても、サクヤは魅力的な女性にしか見えない。免疫のないビアンには戸惑いしかなかった。

「もぉ、ノリが悪いわねぇ。どこからどう見ても、夫婦に見えるでしょぉ?」

ここに来るまでも、女性をエスコートするという普段ならば仕事の一環としてでも出来そうなことも難しかった。それをさり気なくサクヤがフォローし、助言してくれたのだ。

そうして、ようやく慣れてきた所だったのだが……

「ふ、夫婦……っ」
「あら、ビアンさんって結婚してるの?」
「い、いいえっ!」

ブンブンと頭を振ると、サクヤは輝くように微笑んだ。

「なら、良いじゃない。楽しみましょ」
「は、はぁ……」
「ほら、この色なんてどうかしら?」

そうだ。もう楽しめばいい。ビアンの中に、何がストンと落ちた。すると、自然と笑みが零れ、サクヤが手にした服に目を向ける。

「あ、確かに……この薄いピンクは、可愛らしいですね。ただ、冒険者姿のティアお嬢さんのイメージが強くて……でも、似合いそうです」

肩から力が抜けたことで、距離も近付く。

「そうよねっ。赤いリボンがワンポイントになっててステキっ」
「確かに、赤が似合いそうです」

あの破天荒なティアの姿が頭に浮かんだのも良かったのかもしれない。

「やだ、分かってるじゃない。あの子は赤が似合うのよ。なのにっ……あの陰険エルフっ……白や緑の服をっ……下心丸見えだってぇのよっ!」

唐突にサクヤから黒い何かが溢れた。反射的に一歩下がる。

「い、陰険エルフ……それはまさか……」

浮かんだのはティアの隣に並ぶ女性と見紛うほど美しいエルフのギルドマスター。それは間違いではなかったらしい。

「ギルドマスターなんて似合わない事してるティアのストーカーよ。まったく……未だに女心が分からないなんて……だからノロっ……とっておきのドレスを送り付けてやったのにっ」

『ノロ』の付くとっておきのドレスとは何か。まさか『呪いの』てはないだろうと内心首を傾げるが、尋ねたのは違う事だった。

「あの方と……お知り合いで……?」

これに、サクヤは微妙な表情を見せた。聞くべきではなかったかと思ったが、不服そうにしながらもサクヤは答える。

「ちょっと昔、同じパーティにいたのよ。あっちも魔術師でしょ? 私は接近戦も出来るけど、ソリが合わないのよねぇ。かぶるっていうか……」
「……あ、だから少し似てっ……」
「何か言った?」
「い、いいえっ。あ、こちらのリボン、お嬢さんに似合いそうです」

思わず出てしまった印象の感想を慌てて否定して誤魔化す。

「あら、本当っ。良いわね。これも買いましょう」
「はい……やっぱり、似ているから合わないんじゃ……?」

そう思ってしまうのも無理からぬ事だった。

◆  ◇  ◆

「ただいま~☆」
「お帰りなさい。楽しかったですか?」

迎え入れたウルスヴァンは、生き生きとしたサクヤを見て良かったと笑みを浮かべ、次いで後ろで大荷物を抱えてきたビアンに驚く。

サクヤは振り返ると悪びれることなく無邪気に笑った。

「うふふっ、いっぱい買っちゃった♪」
「……買いすぎですよね……」

重かった。訓練の時よりもどっと疲れた。

これにウルスヴァンは苦笑を浮かべて手を貸してくれる。

「本当に凄い荷物ですね……一つずつはそれほど重くないですが、よく持てましたね」
「すみません。あ、こっちも軽いんでお願いします」

なにぶん、両手がきっちり塞がっているのだ。どの袋をどの指で持っているのか、自分でも分からない。ウルスヴァンに助けてもらいながら部屋に運び入れる。

「そぉ? でも、さすがに王都に次ぐ街よね。良いのが揃ってたわ」
「これまでは、買い物をしていなかったのですか?」

ウルスヴァンは意外そうに尋ねた。サクヤの今日の服装はセンスが良い。後半の服屋巡りでも分かるように、もっと普段から買っていそうだ。

「してないわね。だって、いつもは、オシャレする必要がないじゃない?」
「そうですね……そういえば、普段はその姿ではありませんしね」
「そゆこと~♪  ここまで本気で買い漁ったのは百年……二百年振り?」
「そんなに!?」

そういえば獣人族だと言っていた。それに、エルフであるギルドマスターと一緒にパーティを組んでいたというのだから、それもかなり昔のことだろう。

「確か、カルの所で買い物したのが最後ね」
「カル……え! もしかして、あの魔族の……?」
「ええ、知ってるの?」
「知っています……」

ウルスヴァンも驚いている所を見ると、あの話はしていなかったのだろう。

「ティアお嬢さんと黒晶山に行った時に助けていただきまして……」
「へぇ……あ、そういえば、ティアがそんな話してたような……」

ティアと知り合いならば、ウルスヴァンとの出会いとして話していてもおかしくはない。

「あ、違うわ。確か、カルとの通信で『ティアと旅をしたんだ』って自慢されたのよ。そうだわ、その時に今時珍しい騎士な子と、国に招待したいくらい研究好きそうな魔術師と一緒だったって聞いたわ」
「珍しい……」
「招待……」

これは、良い方に評価されたということなのだろうか。カルツォーネの姿を思い浮かべると、酷評する人には感じない。だから、良い方に受け取るべきだろう。

サクヤはおもむろにビアンに目を向けてうんうんと頷く。

「確かに最近はいなかったわね。この辺でも国の為って曖昧な忠誠だけの中身のない甘ちゃん騎士ばっかりになってたもの」
「甘ちゃん……ですか?」
「そう。ただ一人のために在ろうとする騎士がいなかったの。あなたもいるんでしょ? たった一人、死んでも守りたい。死ぬ時は傍にいたいって思える人」
「っ!?」

向けられた瞳は、全てを見透かされるようだった。

**********
読んでくださりありがとうございます◎

次回、12時投稿予定
④へつづく
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