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ミッション10 子ども達の成長

393 奥の院?

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ユゼリアの表情から、全てを受け入れようとしていることが分かった。ファスター王の子ではないのだと、不安に泣いていた時とは目の力が違った。

「……ファシーに確認してからだな。それに、急いで行ったところで、話も出来ないかもしれない。ある程度、体力なんかも回復してからがいいだろう」
「あっ……そうですよね……わかりました……」

今度は泣きそうな表情になって肩を落とした。明らかに落ち込んでいる。これにフィルズはきちんと補足説明する。

「大丈夫だ。会わせないなんてことにはならない。ファシーの確認も、日程的なものだ。それと、あちら側にも心の準備が必要だろう」

これに口を挟んだのはセルジュだ。

「そうだよね。お姉さん? に取り上げられた子どもに突然会えるってなったら驚くだろうし、父親の方は、これだと……子どもができたことも知らなかったかもだし」
「っ、そ、そうか……」

父親が知らない可能性は、ユゼリアも考えもしなかったようだ。

「ある程度の回復ってのは、心もだからな。どういう状況であの牢の中に居たかも分からないし、実家とはいえ、兄に監禁されていたってのも、精神的にどうなっているか分からない。だから、少し待ってやってくれ」
「はい……」

ユゼリアは納得してくれたようだ。

「それより先にユゼリアは第一王妃、メルナ妃に会わないとな」
「っ……はい……会った方がいいですか?」
「ん? 会いたくねえの?」
「……怖いというのもあります。それになんだが、別人みたいで……その……」
「本性見ちまったもんなあ」
「はい……」

複雑そうな顔をしているのは、恐らく、メルナ妃の醜態を思い出したからだろう。彼にとって、メルナ妃は優しく、慈愛に満ちた母だった。それが全部、まやかしであったと知って、何だか違う生き物のように感じてしまったのだろう。その上、本当の母親ではなかったのだ。何も信じられなくなるのは当然だ。

「けど、これを逃すと、話をすることは出来なくなる可能性は高い」
「捕まるから……ですか?」

ユゼリアも、メルナ妃に罪があることは確かだと認めていた。それを止めようとは思わないようだ。

「ああ。当然、魅了を王であるファシーにもかけていたはずだ。国王に精神的な干渉をするのは大罪。それも、メルナ妃の父親と結託していたことも幾つか証拠が上がっている。そこに、第一王子のお前を全面に押していた。そうなると、国の乗っ取りという面が出てくる」
「っ、そんなっ」
「それは大袈裟です!」

ワンザが思わずそう口にした。そんな彼に目を向けながら、フィルズは苦笑する。

「大袈裟じゃない。そう見られるだけの状況証拠がある。結果的にそうなっていたかもしれないというものではあっても、国の中枢でこれをやったというのが問題だ。責任は取らないといけない」
「うっ……申し訳ありません……」

そうかと納得はしたようだ。ここで、フィルズは気になっていた事を口にする。

「ワンザ。お前は少し物事を考えてから口にする癖をつけろ。このままだと、貴族社会は当然だが、仮に庶民の中に入っても、爪弾きに合うぞ」
「っ、な、なぜ……っ」

指摘され、真っ青になったワンザ。フィルズの責めるような視線にタジタジとしている。ワンザは、学園での不正についての問題で、父親にかなり厳しく注意を受けたらしい。次はないとも言われているのだろう。

「まだ、謝れるだけ良いが、言葉の重みをもう少し考えろ。出して後悔するような事は口にするな。それは、聞いている者を傷付ける可能性が高い上に、自分をおとしめる事にもなる」
「自分を……」
「そうだ。誰も聞いていない場所での独り言なら好きにすれば良い。吐き出すのも時には必要だ。けど、相手があって話をするなら、意識の端に常にこれを聞いて相手がどう思うかを置いておけ」

何を言って良くて、何を言っていけないのかを考える必要が、どうしても出てくるのが人付き合いだ。

「これは、学園の教師も、親も、誰も教えてくれない。幼い頃から人と交流して、周りを見て察して、自分の中で掴んでいくものだ」
「っ……」
「人によっては、こういう人だから仕方ないと思って付き合ってくれる。けど、そう言う人は稀だ。お前は、友人や恋人に気を遣われながら付き合っていきたいか?」
「友人や恋人に……っ、嫌です……」
「なら、今からでも少しずつ気を付けてみろ。人ってのはさ、たった一言で嫌いにも好きにもなれるんだ。それだけ、言葉ってのは力がある。それを正しく使えるように努力しろ」
「……はい」

今までワンザは、すぐさま第一王子であるユゼリアを褒める言葉を出さなくてはならなかった。悪く言われれば、すぐに反論しなければそれを肯定することになる。それをずっと幼い頃から続けてきた弊害だ。

「お前は、頭の回転は良い。あとは意識するだけだろう」
「っ、はい」

ワンザはすぐさま反論したり、同意したりできる。それだけ頭を働かせられるなら、努力すれば問題なくなるだろうとフィルズは感じていた。彼もきっと変われるだろう。

「話がズレたな。メルナ妃のことだが、恐らく、ハザレイド領の大修道院か、教会本部の修道院行きだろう。それも、外との交流は一切できない奥の院に入ることになる」
「奥の院? 何それ?」

セルジュが首を傾げた。

「修道院の奥には、半地下に特別な独房があるんだ。独房とは言っても、神官は出入りするし、部屋も素泊まりの宿屋よりは少し広い部屋になる。女性はその部屋で糸紡ぎか機織り、男性は紙きか木材のヤスリかけだったかな」

黙々と作業をしながらも、自分を見つめ直すようにというものだ。

「午前中はお祈りと懺悔。昼から夕方まで部屋で作業。それから夕食を自分達で作って食べて、就寝? それを死ぬまで続けるのが奥の院だ」

フィルズは、最初にこれを聞いた時、刑務所かなと思った。実際、かつて賢者が提案し、そこからずっとそれが続いているらしかった。

「人と喋らなくなるから、三月みつきもすると声も出さなくなるらしい」
「すごい所なんだね……そんなところに入るんだ……」
「ああ。それが妥当だろうな。誰かが代わりに何かをやってくれるってことがないから、貴族には堪えるらしい」
「うん。それは嫌だろうね」
「……そんなところに……」

ユゼリアも想像して嫌そうな顔をしていた。

「だから、話したいことが言えるのは、今しかない。伝えた言葉で、反省させてやってくれ。奥の院での時間は、神への懺悔の時間でもあるからな」
「神への……うん。最後になるかもしれないなら、きちんと、言いたい事をまとめてみることにする」
「それが良い」

逃げる気はもうないようだ。きちんとユゼリアはメルナに立ち向かおうと前を向いていた。









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