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ミッション10 子ども達の成長

373 人選外さないなあ

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この日、王宮には、全ての家門の当主や当主代理の者達、そして、その夫人達が召集されていた。それだけではなく、先代の当主夫妻も可能な限り参加するようにと通達が出ており、動きづらくなった体に鞭打ってやって来た者も多い。

「一体、何があったのだろうなあ。国の一大事であると手紙には書かれていたが……」
「そうですなあ。あ、ところで……その手紙なのですが、不思議なことがありまして」
「おお。卿もお気づきになられたか」
「何です?」
「これですよ」

そう言って、二人の初老の男達が胸ポケットに忍ばせていた国からの書状を広げる。

「今回の招待状ですなあ。内容も全く……家に来たものと同じ」
「そうでしょう? これを……」

その二つの手紙を重ねて光に透かして見せた。

「っ……お、同じ?」
「全く同じ!? そんな事が!?」

どれだけ多くても、内容が同じでも、手書きであることは当然である。だからこそ、筆跡や文字の大きさも全く同じなどあり得ない。

「ああっ。私も持ってきておりますよ。筆跡が陛下のものにそっくりでして、気になりましてなあ」
「「「「「えっ!?」」」」」
「へ、陛下の直筆……っ」
「しかし、そこまで同じというのは……私のものとも合わせてみてもらえますかな?」
「「お願いします!」」

そうして、三枚を合わせた。

「「「「「……」」」」」
「同じですなあ……」
「こ、こんなことが……」

そこに現れたのは、学園長だ。彼は伯爵家の三男だが、学園長となることで、爵位を貰っている。今のところ結婚する気もないので、その爵位は誰にも引き継がせるつもりはない。男爵位では立場的に不安があるため、新たに与えられた伯爵位を持っていた。

「お話中失礼しますよ」
「っ、ん? 貴殿は……ルクエ卿。貴殿も来られたのですね。しかし……会議室の方でなくて良いのですか?」

舞踏会ほどではないが、それなりに着飾り、現在の当主以外は、このホールに集められている。当主達は全員、会議室だった。本来ならば、学園長である彼も当主として会議室に居るはずである。

「ええ。陛下より、こちらでのんびり待っていてくれと言われておりましてね。それと、このように手紙の事で気付いた者達に説明する役割りも担っておるのですよ」
「っ、こ、この手紙の事ですかな?」
「そうです。さあ、お時間もありますので、ご説明させていただきましょう!」

学園長は、ノリノリだ。今日ここで、印刷機である【転写機】を、貴族達の前でプレゼンして欲しいとフィルズに頼まれていたのだ。

彼が前の方に進み出ると、トランクケースにしか見えない【転写機】を載せた台を、マグナが押してきた。この場で、マグナを知る者はいない。彼はフィルズの下で、誰かをサポートすることに重きを置いて動けるようになっていた。

つい先日まで、公爵領都に居たのだが、今回の公開審判もあるからと呼び寄せていた。

ぽっちゃりだったマグナの体は、筋肉に置き換わり、ガッチリとしながらもしっかりと引き締まったことで、大柄だが精悍な青年に変身を遂げていた。まだ少年と言われる年齢ではあるが、顔付きも変わったことで、見た目の年齢は二十歳と言っても頷けるものになっていた。お陰で、仮にかつてのマグナを知っていたとしても、同一人物とは思えないだろう。

それを見越して、今回王宮に行かせていた。リュブランと並べば、立派な王子の護衛に見えるだろう。

この場では、学園長の補佐で護衛というわけだ。

「さて、多くの方々がお気付きになったようです。こちらの手紙」

手紙を掲げて見せる。まるでマジシャンがショーをするようなノリだ。

「これが二枚でも、三枚でも、四枚でも……」

マグナは、高い位置に固定されたライトを台に用意して、その光を少しだけ下に向けた角度に調整してから、同じ手紙を一枚ずつ学園長に手渡していく。これを重ねてライトの前に持ち、見せていく学園長。それが十枚になった所で止める。

気になった者達が前のめりになって、目を凝らしていた。

「全て同じ筆跡であることが分かるかと思います。今回のこの手紙は、陛下が書かれたものです。ただし、一枚だけ」
「「「「「っ……」」」」」
「その一枚は、王宮で保管されております。ですので、皆さまの手元に届いたものは、すべて、その元となるものを写し取られたものなのです!」
「っ、そんなことが……っ」
「あ、印だけは後で確認として押されたものですよ」
「そ、そうだとしても、すごいことでは?」
「はい! それを可能とするのが、こちら!! 【転写機】になります!」

両手を広げて、前にあるトランクケースを、笑顔で示した。

「「「「「おおっ~!」」」」」

男性達は誰もがそれに目を輝かせていた。女性達にはその有用性は分からないだろう。そこで、学園長は少しばかり声を落として告げる。

「ご婦人方も考えてみてください。お茶会の招待状、アレを書いたかどうか……なんて不安になったり、口論になった記憶はございませんか?」
「「「っ……」」」
「……あるわ……」

あの招待客には書いたけど、こちらには書いてないなんてことも少なからずある。それを意図的にすることもなくはないが、本当に不注意でそうなってしまったのかどうかなど相手には分かりはしない。それによって、その後の関係性が変わってしまったことだってある。

「手元に、送ったものの確かな控えがあったらなんて……思った事はございませんか?」

手書きである以上、それを写し書く人員を集めたりする。さすがに何十人と全員分一人で書く夫人はいない。よって、そこからの確認にも手がかかる。それでも人が確認するのだから、間違いもなくいつも完璧というわけにもいかなかった。

「これを使えば、一枚だけ! 一枚だけ書いていただければ良いのです! 心を込めてたった一枚! それで何十人分という全く同じ文面の手紙がものの数秒で出来上がってしまうのです!!」
「「「「「っ、なんてことっ」」」」」
「すごいわっ」
「そして、原本となったものは、手元に残せます! これで書いた、書いていないという証拠がきちんと確保できるのです!」
「「「「「わぁぁぁぁっ」」」」」

盛り上がりは、既に最高潮に達しようとしていた。

そんな中、マグナはライトをさり気なく避けながらも苦笑気味に呟いた。

「……クーちゃんママ並みの営業力……フィルさんって人選外さないなあ……この後、大丈夫かなあ……」

心より感心しながらも、苦笑するのは、この後に注文が殺到する予感を感じているからだった。

「みんな、早く来て……」

リュブランやカリュエル、リサーナ達は、会議室のセッティングと、その後の様子をしばらく見てからこちらに合流することになっている。それを心待ちにしてしまうのは、前のめりになる貴族達の目が怖いからだ。

大半が、既にこの【転写機】の有用性を確信し、好奇心の込もっていた目から、是非とも手に入れたいという獲物を狙うような目に変わっている。

そんなことになっているとは夢にも思わないリュブラン達は、今まさに始まろうとする緊張感ある会議室で、ファスター王とリゼンフィアがやって来るのを静かに待っていた。










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読んでくださりありがとうございます◎


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