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ミッション10 子ども達の成長

368 色々な意味で

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最初、プリンをスプーンですくって、口を開けたまま、何秒か止まる者は多かった。それほど、メルナ妃の本性には衝撃を受けたのだ。

「これが第一王妃……? 頭いかれちゃった人じゃなく? 昔の母上より酷い。あ、すみません」

セルジュから思わず本音が漏れる。

「うわあ……目が……クーちゃんママの演技で見た事ある……あのいっちゃってる感じ。クーちゃんママすごいなあ」
「リュブラン。感心するところ違うよ」

セルジュとリュブランは、早急に落ち着きを取り戻していた。二人にすると、完全に他人なのだろう。リュブランは立場的には義母になるのだが、相手にされなかったし、関わろうとも思わなかったので、彼からしたら知り合いのお母さん的な他人だった。

ラスタリュートもドン引きだ。ぶりっ子系や下心満載で男にすり寄る女に騙されない彼から見ても、メルナ妃の『清楚な王妃』の姿には騙されていたようだ。

「ヤバいわね……あの女。外で見せてる顔と全然違うじゃない……性格悪っ。あの顔を素でできる女はヤバいわよ。陛下、すごいの引き当てたわね」
「感心する所が違うっ! 私に選択の余地などほぼないわ!」
「それでも、これは……ねえ……これ見ると、メルの癇癪なんて可愛いものだったわ」

頬杖を突いて、意味ありげな視線をお茶を淹れ直して回っているフラメラに注ぐ。これに気付いて、フラメラは恥ずかしそうに喚いた。それはまるで毛を逆立てる猫のようだ。

「っ、ちょっ、比べないでくださいませ!」
「え~。でも、コレ見たらみんな言うわよ」
「失礼ですわよっ、ラスタさん!」
「やだ。いいじゃない。可愛いって言ってるんだから~」
「褒め言葉で使ってくださいっ」
「褒めてる褒めてる」
「くっ」

ラスタリュートとフラメラは、度々顔を合わせていた。気まずい対面にしかならなかったファスター王とよりも、その回数は多いだろう。

見た目が女にも見えてしまうラスタリュートは、クラルス達との女子会に混ざっていても違和感がなく、女子達の愚痴も聞いてくれる聞き上手だ。お陰で、今やフラメラはラスタリュートを親友に近い位置に置いている。気兼ねなく口喧嘩も出来る仲だった。

そして、今こうして言い合いをするのは、フラメラを蔑む言葉の数々を聞いたからだ。ラスタリュートの心遣いだとフラメラも察していた。

見ている者達からすれば、どこか女同士の悪友がじゃれてるようにしか見えず、違和感もないのが可笑しかった。

「……ねえ……今の、聞こえてしまったのですけれど……あの女、ユゼリアお兄様を『わたくしの子じゃないし』って……」
「っ……は……ははうえ……」

リサーナはこんな酷い女だとはと衝撃をうけながらも、その唇を正しく読んでいた。瞬きさえせずに見つめていたのだ。そして、ユゼリアもこれは誰だと、信じられないものを見るように呆然としていた。

一方でカリュエルは、冷静に目を細めて睨みつけるようにして見ていたのだが、リサーナと同様に、その思わず漏れたという呟きに反応していた。

「……そういえば、父上も『アレの子でさえなかったとしても』と……言いませんでしたか?」

ファスター王へ目を向けて問いかける。これに答えたのは、フィルズだ。ファスター王はギリギリと拳を握り、怒りを抑えるのに忙しそうだったのだ。

「それは、俺から説明するよ。まだ血縁判定で確定したわけではないが、ユゼリアはあの女の義妹と、とある貴族との間に生まれた子のようだ。あの女は第二王妃に盛ろうとした毒に当たって本来腹にいた子を亡くしている」
「っ、まさか、それを誤魔化すために妹の子を奪ったの!?」
「……それほどまでに、王妃の座に執着を……今まで気付けなかったとは……」

リサーナは相変わらずプンスカと怒っている。だが、カリュエルはその執着心を感じ取り、不快感を示していた。

「それでだな。呼ばれたお茶会だが……ユゼリア、その顔を取り繕えるか?」
「え……あ……は、ははうえと……お茶……っ」

少し震えていた。そした、面白いくらい顔色が変わっていく。

「うん。まあ、今のままだと無理だな。リサ、カリュ、お茶会の日取りを延ばせるか?」
「それは……そうね……ユゼリアお兄様の調子が悪いことにすれば、学園もありますし十日くらいまでは……可能かしら? どう思います? お兄様」
「そうだね。父上の方から、兄上を確かな所で療養させると伝えていただければ、ここで匿えるならだけど」
「問題ない。勉強も見てやるさ」
「うむ……いいだろう。私から上手く伝える……」

ファスター王は何かに耐えるようにそう告げた。内心は大荒れだろう。

「ファシー。フライング断罪はダメだからな」
「っ……私もここに泊まりたい……」
「意志が弱すぎだろ……いや、まあ、気持ちは分からんでもない……」

愛した女性を殺した真犯人。それも、本人に反省の色はカケラもないのだ。顔を合わせたら手が出そうになるのも仕方がないだろう。

「じいちゃんか母さんに演技指導してもらってから帰るように。今日は泊まっても良いぞ。二人とも、今日は早めに帰ってくるしな」
「……分かった……」

これで、お茶会までの時間は稼げる。だが、お茶会に出席しないということにはできない。王妃であるメルナを避け続ける事はできないのだ。

「けど、フィル。これは酷じゃない? 心の整理する時間は必要だけど……」

セルジュが、ユゼリアに同情的な目を向ける。

「私から見ても、陛下より遥かに打たれ強くないんじゃないかなって」

ユゼリアの顔色は分かりやすいほど悪い。リュブランも同意する。

「私もそう思うよ。この前、父親が実は違ったって夫婦の喧嘩の仲裁したけど。その時の子どもとは、目の力が違うし」
「え? なに? リュブラン、そんなことしてたの!? 危ないよ」
「でもね? 凄かったんだよ。仲裁の意味なくてね。あ、ちょっと過剰に手を上げていたから、それだけは止めたんだけどね?」
「そんなっ。やっぱり危ないじゃないかっ。大人の男を相手にするなんて」

リュブランが強くなっていることは知っているが、心配なものは心配なのだろう。しかし、セルジュの心配を、リュブランは微笑みで返した。

「大丈夫だよ。父親や母親を殴ってたのはその子どもだから」
「ん?」
「あの子はフィル君と同い年だって聞いたけど、不倫してた母親に一発くらわせて、教会に引き摺って行って、ここで自分の罪を懺悔して、ちょっと口が利けなくなるくらい反省できるまで使ってくれとか言って、神官達に任せて家に帰ってね? 家に帰ったら帰ったらで泣いて蹲ってた父親の胸ぐら掴んで、凄い勢いでお説教しながら頬を何度か張ってたんだよ。暴力とは無縁のお父さんだったみたいで、口の中凄い切ってた」
「……フィル君みたいな子だね」
「おい」
「うん。下町の子達って強いんだよ」
「おい……」

セルジュとリュブランはフィルズを丸っと無視した。

「それに比べて……」

リュブランはユゼリアへ目を向ける。それにセルジュも釣られて見る。

「あ、うん……」

精神的に強くは見えないねと、セルジュは頷いた。

「ユゼリア兄上は、これだけ酷い女の人でも、引き摺り倒せないよね?」
「ひっ、引きっ!?」
「冒険者や騎士はね。犯罪者なら、女であっても殴るし、引き摺り倒せるんだよ。あの人は、フィル君の調べでも、第二王妃様を真に殺した人だよ。犯罪者だ。私が兄上の立場なら一発殴ると思う。色々な意味で」
「なぐっ……」

リュブランがグッと拳を握って見せれば、ユゼリアはまた目を丸くしていた。しかし、これにはカリュエルとリサーナも賛成らしい。

「ああ、私もやるなあ。あの自慢の顔に一発。ちょっとアザにでもなればいい」
「わたくしもね。ふふっ。ファリマス様仕込みの強力なのを、力一杯お見舞いするわ! あの自慢の顔の形を変えてやるのよ!」
「「っ、リサ、本気でやったらダメだよ!」」

セルジュとカリュエルが本気で注意する傍らで、リュブランは冷静に分析していた。









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読んでくださりありがとうございます◎

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