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ミッション10 子ども達の成長
359 お気の毒ねえ
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まさか、ファスター王にユゼリアの血筋が疑われているとは知らない第一王妃は、後宮の庭にある東屋に居た。そこで穏やかに笑って、友人の夫人達とお茶を楽しんでいたのだ。
「お聞きになりましたか? メルナ様。第三王妃は今や孤児たちの母だそうですわ。化粧もせず毎日、泥だらけになっているとか」
「まあ……お気の毒ねえ」
そうして、緩やかに首を傾げて頬に片手を添える第一王妃メルナを見て、彼女に仕える侍女達や夫人達は、ほうと息を漏らす。
清楚で可憐という言葉が似合う見た目。薄い金の長い髪は結って頭の高い位置でまとまっている。そんな髪には、キラキラと光る宝石が散りばめられていた。瞳は薄い青だが、長いまつ毛が影を落としてあまりその色は印象に残らない。それもあり、儚げな美人だと貴族の中では有名だった。
「お似合いですわよ。あのような横柄で傲慢な女、着飾っても下品にしか見えませんでしたもの。孤児達も、汚しても良い者を見極められる良い目を持っているようですわ」
「そうですわね。メルナ様を前にしたら、孤児達も触れてはならないことを理解できると思いますもの」
「本当に高貴で美しい方には、無礼を働かないものですわ」
「あら。それでは、フラメラさんが高貴で美しくないと言っているようなものだわ? だめよ? 彼女を傷付けてしまうわ。ただでさえ、ここを追い出されてしまったのに……」
悲しそうに、同情するように目を伏せるメルナ王妃はまさに儚げで、美しく見えた。優しげな声も落ち着いていて耳障りが良い。そして、仕草も計算されたものだった。目元を和ませ、両手を合わせる。良い案が浮かんだというように。
「ああ、そうだわ。お見舞いのお品でも贈りましょう。何がよろしいかしら? 孤児院ですものね……食べ物とか? 服とかかしら?」
これに少し首を傾げてみせれば、その可憐な様子に憧れる夫人達は顔を赤らめていた。
「っ、泥だらけになるなら、替えの質素な服でもよろしいのではありません?」
「罪人なんですもの。服は有り難がるはずですわっ」
「まあ。罪人だなんて……やはりそうなのかしら……」
口元に手を当て、恐ろしそうに眉根を少し寄せる。そのように怯えたような様は見ていて心配になる。それは怖がらせてしまったという罪悪感を抱かせ、逆に本来の罪人と思われる側への同情心を減らした。
実際は、第三王妃フラメラは罪人ではない。確かに、嫌がらせや傲慢な態度を見せてはいたが、刑罰が必要な程の実質的な被害などほぼなかった。迷惑行為が多く、ただフラメラの好感度を落としただけ。リュブランの件も、本人達の間では謝罪も入り、和解して特に問題もない。
フラメラは拘っていた王妃という地位に価値を見出せなくなり、もはや別人レベルで内面も見た目も変わっていた。
「メルナ様っ。あれは自業自得ですわっ」
「王の妃としてありながら、それを傘に着るだけで、中身も見た目も腐っておりましたものっ」
「王の子を産んだというだけしか、アレは意味のない存在でしたわねっ」
「……」
その時、メルナの表情が一瞬強張ったのだが、誰もそれには気付かない。
「その王子も、大怪我をして死んだと聞きましたけれど? オーガと戦ったのですって。間違いなくあの女のせいでしょうっ」
リュブランは教会の保護を受けることで、情報の規制がかかっていた。それも裏への働きかけとして、フィルズが隠密ウサギを使っているのだ。王妃の周りにはまずその情報が入らないように徹底していた。
今のリュブランを見たところで、王宮で隠れるようにして暮らしていた彼と同一人物だとは思われないだろう。お陰で、そう苦労することなく隠せていた。
クラルスに協力してもらい、貴族の噂話の広がり方を加味した上で情報を流したのだ。怪我をしていたというのは本当だし、オーガと戦ったのも本当だ。その後姿が見えないということで亡くなったという話になったのは、情報操作が上手くいった証拠だろう。
「母親でありながら、子を死地に追いやるだなんて、それだけでも罪人としても仕方ありませんわよね?」
侍女達はメルナの貼り付けた様な表情の変化に気付かなかった。
「……そうですわね……」
メルナの小さな同意の声を聞き、夫人達は話を続ける。
「そういえば、先日、ユゼリア殿下のお話を聞きましたわっ。なんでも、不正をしていた教師と生徒を断罪されたとかっ。素晴らしいことですわねえ」
「わたくしも聞きましたわ。生徒総会で、大勢の前でそれを暴かれたとか。なんと勇敢で正義感溢れる行いでしょう」
「まあ……そんな」
メルナは曖昧に答える。それを周りは謙遜と取った。メルナとしては、聞いていないという動揺を隠しただけだ。
「きっと清廉なメルナ様に似たのでしょうね」
「高潔な王族として相応しい行動ですわ」
これに、メルナは花が咲くように笑い、礼を言う。
「ありがとう。あの子もようやく立場を自覚したようで嬉しいわ」
その後もユゼリアが学園で優秀な成績を残しているのはすごいことだとか、令嬢達が放っておかないだとか、褒め倒していた。それをメルナは微笑みを浮かべて聞いていた。
「あら、日が影ってきたわね。そろそろお開きにしましょうか」
「まあ。長くお邪魔してしまいましたわ」
「メルナ様とお話できるのは、楽しくていけませんわ。時間を忘れてしまいます」
「わたくしも、皆さまとお話できるのは、楽しいですわ。またいらしてくださいね」
「「「はいっ。失礼いたしますっ」」」
動揺を見せないように立ち上がったメルナは、そのままいつもの表情を見せながら部屋へと向かった。
何も話さずに部屋に到着すると、メルナは穏やかな口調で侍女達に告げた。
「少し疲れてしまったみたい。一人になりたいわ」
「承知いたしました。何かありましたらお呼びください。お夕食の時間になりましたら一度お声がけさせていただきます」
「ええ。お願いね」
そうして部屋に一人になったメルナは、表情を崩した。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
「お聞きになりましたか? メルナ様。第三王妃は今や孤児たちの母だそうですわ。化粧もせず毎日、泥だらけになっているとか」
「まあ……お気の毒ねえ」
そうして、緩やかに首を傾げて頬に片手を添える第一王妃メルナを見て、彼女に仕える侍女達や夫人達は、ほうと息を漏らす。
清楚で可憐という言葉が似合う見た目。薄い金の長い髪は結って頭の高い位置でまとまっている。そんな髪には、キラキラと光る宝石が散りばめられていた。瞳は薄い青だが、長いまつ毛が影を落としてあまりその色は印象に残らない。それもあり、儚げな美人だと貴族の中では有名だった。
「お似合いですわよ。あのような横柄で傲慢な女、着飾っても下品にしか見えませんでしたもの。孤児達も、汚しても良い者を見極められる良い目を持っているようですわ」
「そうですわね。メルナ様を前にしたら、孤児達も触れてはならないことを理解できると思いますもの」
「本当に高貴で美しい方には、無礼を働かないものですわ」
「あら。それでは、フラメラさんが高貴で美しくないと言っているようなものだわ? だめよ? 彼女を傷付けてしまうわ。ただでさえ、ここを追い出されてしまったのに……」
悲しそうに、同情するように目を伏せるメルナ王妃はまさに儚げで、美しく見えた。優しげな声も落ち着いていて耳障りが良い。そして、仕草も計算されたものだった。目元を和ませ、両手を合わせる。良い案が浮かんだというように。
「ああ、そうだわ。お見舞いのお品でも贈りましょう。何がよろしいかしら? 孤児院ですものね……食べ物とか? 服とかかしら?」
これに少し首を傾げてみせれば、その可憐な様子に憧れる夫人達は顔を赤らめていた。
「っ、泥だらけになるなら、替えの質素な服でもよろしいのではありません?」
「罪人なんですもの。服は有り難がるはずですわっ」
「まあ。罪人だなんて……やはりそうなのかしら……」
口元に手を当て、恐ろしそうに眉根を少し寄せる。そのように怯えたような様は見ていて心配になる。それは怖がらせてしまったという罪悪感を抱かせ、逆に本来の罪人と思われる側への同情心を減らした。
実際は、第三王妃フラメラは罪人ではない。確かに、嫌がらせや傲慢な態度を見せてはいたが、刑罰が必要な程の実質的な被害などほぼなかった。迷惑行為が多く、ただフラメラの好感度を落としただけ。リュブランの件も、本人達の間では謝罪も入り、和解して特に問題もない。
フラメラは拘っていた王妃という地位に価値を見出せなくなり、もはや別人レベルで内面も見た目も変わっていた。
「メルナ様っ。あれは自業自得ですわっ」
「王の妃としてありながら、それを傘に着るだけで、中身も見た目も腐っておりましたものっ」
「王の子を産んだというだけしか、アレは意味のない存在でしたわねっ」
「……」
その時、メルナの表情が一瞬強張ったのだが、誰もそれには気付かない。
「その王子も、大怪我をして死んだと聞きましたけれど? オーガと戦ったのですって。間違いなくあの女のせいでしょうっ」
リュブランは教会の保護を受けることで、情報の規制がかかっていた。それも裏への働きかけとして、フィルズが隠密ウサギを使っているのだ。王妃の周りにはまずその情報が入らないように徹底していた。
今のリュブランを見たところで、王宮で隠れるようにして暮らしていた彼と同一人物だとは思われないだろう。お陰で、そう苦労することなく隠せていた。
クラルスに協力してもらい、貴族の噂話の広がり方を加味した上で情報を流したのだ。怪我をしていたというのは本当だし、オーガと戦ったのも本当だ。その後姿が見えないということで亡くなったという話になったのは、情報操作が上手くいった証拠だろう。
「母親でありながら、子を死地に追いやるだなんて、それだけでも罪人としても仕方ありませんわよね?」
侍女達はメルナの貼り付けた様な表情の変化に気付かなかった。
「……そうですわね……」
メルナの小さな同意の声を聞き、夫人達は話を続ける。
「そういえば、先日、ユゼリア殿下のお話を聞きましたわっ。なんでも、不正をしていた教師と生徒を断罪されたとかっ。素晴らしいことですわねえ」
「わたくしも聞きましたわ。生徒総会で、大勢の前でそれを暴かれたとか。なんと勇敢で正義感溢れる行いでしょう」
「まあ……そんな」
メルナは曖昧に答える。それを周りは謙遜と取った。メルナとしては、聞いていないという動揺を隠しただけだ。
「きっと清廉なメルナ様に似たのでしょうね」
「高潔な王族として相応しい行動ですわ」
これに、メルナは花が咲くように笑い、礼を言う。
「ありがとう。あの子もようやく立場を自覚したようで嬉しいわ」
その後もユゼリアが学園で優秀な成績を残しているのはすごいことだとか、令嬢達が放っておかないだとか、褒め倒していた。それをメルナは微笑みを浮かべて聞いていた。
「あら、日が影ってきたわね。そろそろお開きにしましょうか」
「まあ。長くお邪魔してしまいましたわ」
「メルナ様とお話できるのは、楽しくていけませんわ。時間を忘れてしまいます」
「わたくしも、皆さまとお話できるのは、楽しいですわ。またいらしてくださいね」
「「「はいっ。失礼いたしますっ」」」
動揺を見せないように立ち上がったメルナは、そのままいつもの表情を見せながら部屋へと向かった。
何も話さずに部屋に到着すると、メルナは穏やかな口調で侍女達に告げた。
「少し疲れてしまったみたい。一人になりたいわ」
「承知いたしました。何かありましたらお呼びください。お夕食の時間になりましたら一度お声がけさせていただきます」
「ええ。お願いね」
そうして部屋に一人になったメルナは、表情を崩した。
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