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ミッション9 学園と文具用品
346 幻滅したわ
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たった二日ではあったが、セイスフィア商会で様々な体験をし、多くのことを見て考えることを学んだ令嬢達は、自身の婚約者であるブラーナに対して『頭の足りない女』などと言うユゼリアを思わず睨みつけた。
「なんなの……あんな人だったなんて」
「幻滅したわ」
「ええ。まさに、わたくし達、『王子』と言う幻を追っていただけだったのですわね」
「愚かだった……ということですね。ブラーナ嬢への対応を見て、少し考えれば分かりましたのに……」
今まで、ブラーナを敵視していたことを恥ずかしいと感じ、次に、ブラーナに同情するような目を向ける。
「ブラーナ様は……あんな扱いを今後一生していくんですか……?」
「そうね……そうなるわ……」
そして、婚約者の居る者達は、ユゼリアとブラーナの関係を自分たちに当てはめ、決して他人事ではないのだと気付いた。
「フィルズ様が言った通りでしたわね……」
「ええ。言われた時はそんな事はないと否定しましたけれど……その通りだったわ……」
彼女達はフィルズと顔を合わせたのは、最初だけ。だが、クラルスやブラーナ、他の従業員達からもフィルズがどんな人なのかというのを聞き、今や彼女達の憧れの人であった。
しかし、最初の印象は最悪とも言えるものだったかもしれない。フィルズは、はっきりと彼女達へ告げたのだ。
『お前らは、王子という名のトロフィーや称号を側に置くことで多くの者から向けられる、羨望の目が欲しいだけに見える』
一体何を言われたのか、しばらく彼女達は理解できなかった。そんなはっきりと、想いを否定されたことなどなかったのだ。
「言われた時は腹が立ちましたわね」
うんうんと頷く。ユゼリアが、得意げに演説台に立つのを、彼女達は冷めた目で見つめた。
「唯一になれるなんてあり得ないと分かっているのに、もしかしてと期待して……わたくし、恥ずかしいですわ」
「不敬と言われても仕方ありませんわね。高価な宝石を見せびらかすのと、確かに考え方は同じですもの」
「着飾ることしか考えていないというのも、良くありませんわね」
本当に第一王子の『ユゼリア』という人を見ているかどうか、自分に問いかけろとフィルズは言った。
『王子じゃなくても、婚約者でも良い。立場とかは関係ない。その人が金も地位も何一つ持っていなくても側に居られるか、未来を想像してみろ』
言われて、渋々彼女達は考えてみた。とても時間がかかった。そして、しばらくしてフィルズは続けた。
『男の立場から見たら、今のお前達は、意思のないただの飾りや置き物になる未来しかない。知識がないから、中身のない何かを喋ってるだけの【奇妙な】ってのが頭に付くかもだけどな』
舞台上のユゼリアは、証拠だと言って、紙の束を見せつけている。
「本当に、なんて失礼な人と思いましたけれど……置き物かお飾りになる……それが現実だと、今なら分かりますわ」
「わたくし達『女には分からないだろうが』なんて仰っていますわよ」
「こうして、勝手に盛り上がっているのを見ると分かりますわ。わたくし達も、男性にはああ見えるのかもしれませんわね」
これも、ユゼリアへの想いが冷めたことで理解したようだ。
『置き物や飾りじゃない価値を自分達で見い出せ。その何らかの可能性を探すために学園に行くんだ』
フィルズはそう言った。彼女達にとって学園に行くのは、ただの義務でしかなかった。実際、学園の卒業資格がなければ、貴族として認められない。貴族と結婚することができないのだ。女性は結婚して、後継ぎを産み、愛されるだけで良いと思っているから、成績など両親も特に気にしない。力を入れるべきは、マナーとダンスくらいだ。他はどうでも良い。それは高位貴族の令嬢達ほど顕著だった。
「男性は大変ですわねえ。王子は特に、成績が悪いなんて許されないのでは?」
「ですから、ブラーナ嬢を押し退けてまで、こうした行動に移していますのよ」
「ところで……」
「ええ……」
令嬢達は、今や呆れた表情をユゼリアに向けていた。ユゼリアは今、証人だと言って、教師達を壇上に上げて自白させていた。しかし、その内容がおかしかった。
「証人って、普通は自身の評価を上げるとか、肯定するものですわよね? 先ほどから、下げておられませんこと?」
「……まさか……自分を卑下するなんて、殿下にあり得ますの?」
「あの顔は、マズいと思っていません?」
「今度は証人に怒り出しましたわ。味方ではありませんの?」
意味不明なことが舞台上で繰り広げられていた。
「コレは……わたくし達があまり知識を持っていなくても分かりますわね」
「ええ……自身の成績の不正を、ご自分で暴きましたわ……」
「顔色が真っ白ですわね」
ユゼリアの顔色が明らかに悪くなっている。小さな泣きぼくろが目立つほどだ。
「カリュエル様とリサーナ様の成績は下げて? ユゼリア様の成績は上げる不正……下げるのも不正なんですの?」
「不正には変わりないのでは? 手を加えているということで。まあ、普通はやりませんわ」
「考えませんわよね」
「もしかして、それだけユゼリア様の元の成績が……」
「「「「「……」」」」」
令嬢達の目は更に冷え切っていった。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
「なんなの……あんな人だったなんて」
「幻滅したわ」
「ええ。まさに、わたくし達、『王子』と言う幻を追っていただけだったのですわね」
「愚かだった……ということですね。ブラーナ嬢への対応を見て、少し考えれば分かりましたのに……」
今まで、ブラーナを敵視していたことを恥ずかしいと感じ、次に、ブラーナに同情するような目を向ける。
「ブラーナ様は……あんな扱いを今後一生していくんですか……?」
「そうね……そうなるわ……」
そして、婚約者の居る者達は、ユゼリアとブラーナの関係を自分たちに当てはめ、決して他人事ではないのだと気付いた。
「フィルズ様が言った通りでしたわね……」
「ええ。言われた時はそんな事はないと否定しましたけれど……その通りだったわ……」
彼女達はフィルズと顔を合わせたのは、最初だけ。だが、クラルスやブラーナ、他の従業員達からもフィルズがどんな人なのかというのを聞き、今や彼女達の憧れの人であった。
しかし、最初の印象は最悪とも言えるものだったかもしれない。フィルズは、はっきりと彼女達へ告げたのだ。
『お前らは、王子という名のトロフィーや称号を側に置くことで多くの者から向けられる、羨望の目が欲しいだけに見える』
一体何を言われたのか、しばらく彼女達は理解できなかった。そんなはっきりと、想いを否定されたことなどなかったのだ。
「言われた時は腹が立ちましたわね」
うんうんと頷く。ユゼリアが、得意げに演説台に立つのを、彼女達は冷めた目で見つめた。
「唯一になれるなんてあり得ないと分かっているのに、もしかしてと期待して……わたくし、恥ずかしいですわ」
「不敬と言われても仕方ありませんわね。高価な宝石を見せびらかすのと、確かに考え方は同じですもの」
「着飾ることしか考えていないというのも、良くありませんわね」
本当に第一王子の『ユゼリア』という人を見ているかどうか、自分に問いかけろとフィルズは言った。
『王子じゃなくても、婚約者でも良い。立場とかは関係ない。その人が金も地位も何一つ持っていなくても側に居られるか、未来を想像してみろ』
言われて、渋々彼女達は考えてみた。とても時間がかかった。そして、しばらくしてフィルズは続けた。
『男の立場から見たら、今のお前達は、意思のないただの飾りや置き物になる未来しかない。知識がないから、中身のない何かを喋ってるだけの【奇妙な】ってのが頭に付くかもだけどな』
舞台上のユゼリアは、証拠だと言って、紙の束を見せつけている。
「本当に、なんて失礼な人と思いましたけれど……置き物かお飾りになる……それが現実だと、今なら分かりますわ」
「わたくし達『女には分からないだろうが』なんて仰っていますわよ」
「こうして、勝手に盛り上がっているのを見ると分かりますわ。わたくし達も、男性にはああ見えるのかもしれませんわね」
これも、ユゼリアへの想いが冷めたことで理解したようだ。
『置き物や飾りじゃない価値を自分達で見い出せ。その何らかの可能性を探すために学園に行くんだ』
フィルズはそう言った。彼女達にとって学園に行くのは、ただの義務でしかなかった。実際、学園の卒業資格がなければ、貴族として認められない。貴族と結婚することができないのだ。女性は結婚して、後継ぎを産み、愛されるだけで良いと思っているから、成績など両親も特に気にしない。力を入れるべきは、マナーとダンスくらいだ。他はどうでも良い。それは高位貴族の令嬢達ほど顕著だった。
「男性は大変ですわねえ。王子は特に、成績が悪いなんて許されないのでは?」
「ですから、ブラーナ嬢を押し退けてまで、こうした行動に移していますのよ」
「ところで……」
「ええ……」
令嬢達は、今や呆れた表情をユゼリアに向けていた。ユゼリアは今、証人だと言って、教師達を壇上に上げて自白させていた。しかし、その内容がおかしかった。
「証人って、普通は自身の評価を上げるとか、肯定するものですわよね? 先ほどから、下げておられませんこと?」
「……まさか……自分を卑下するなんて、殿下にあり得ますの?」
「あの顔は、マズいと思っていません?」
「今度は証人に怒り出しましたわ。味方ではありませんの?」
意味不明なことが舞台上で繰り広げられていた。
「コレは……わたくし達があまり知識を持っていなくても分かりますわね」
「ええ……自身の成績の不正を、ご自分で暴きましたわ……」
「顔色が真っ白ですわね」
ユゼリアの顔色が明らかに悪くなっている。小さな泣きぼくろが目立つほどだ。
「カリュエル様とリサーナ様の成績は下げて? ユゼリア様の成績は上げる不正……下げるのも不正なんですの?」
「不正には変わりないのでは? 手を加えているということで。まあ、普通はやりませんわ」
「考えませんわよね」
「もしかして、それだけユゼリア様の元の成績が……」
「「「「「……」」」」」
令嬢達の目は更に冷え切っていった。
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