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ミッション9 学園と文具用品
345 バカな質問をするな
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ブラーナはずっと、ユゼリアから自分に向けられている視線の意味に気付いていた。
「今日は強めですわね……」
マイクから二歩ほど離れている。今は演説台の前にいる生徒会長が話していた。今年度の生徒会長は、男爵家の令息だ。副会長も男爵家の令嬢、しかし、二人とも今回のテストでは学年一位だった。テスト結果は、男女別になるので、この場合はわかりやすい。
下位の爵位の家の子ほど、現実を見て真面目に勉強をする。初年度は素地のある者達に追いつけないが、二年、三年ともなれば、しっかりと実力が付き、上位の成績を取れるようになるという訳だ。
彼らが一位になったのは、今年が初めてだ。今まで、結果が正しく発表されずにいた不正の被害者だった。だからこそ、これははっきりとさせたいと願っていた。
『今回のテストの結果について、多くの方々が今までとは違うことに気付き、学園の方へ抗議があったようです。それについて……』
そこで、ユゼリアが声を上げた。
「それについて、私の方からも報告がある!」
『……なんでしょうか』
「不正の当事者が説明するのは辛かろう。私がそれについて説明しよう」
そう言って、ユゼリアは当然のようにワンザと共に壇上へ上がった。しかし、そこで、ブラーナがその前に立つ。
「殿下。勝手な発言は困ります。質問や意見については、総会の最後に時間を取るものです。今はお戻りください」
進行上そうなっている。何より、そうなっている理由としては、内容を理解せず、野次を飛ばして進行をめちゃくちゃにされたことがあったからだ。王族が学園に居ない時期もある。そうなれば、位を気にして口を噤むことがなく、思い通りにならないからと癇癪を起こして文句を言う者も出る。そうして、ただの口汚く罵り合う場になることもあったのだ。
「不敬だぞ。私の婚約者としての立場を傘に着るなど、浅ましい奴だ」
「っ……」
「なにか文句があるのか? はっきり言ってみるがいい」
「……ご自分の言動に責任を持ってくださるなら構いません。これより、全てのお言葉を記録いたします」
「好きにするがいい」
ふんと鼻を鳴らして、ブラーナの前を通って行った。そして、生徒会長とその後ろに控えていた副会長へ告げる。
「お前達はそこに居れ。反省してもらわねばならんからな」
「……」
「……」
二人は目配せ合い、静かに数歩下がって堂々と背筋を伸ばす。そして、ブラーナへと視線を向け、頷いて見せた。
自分にこの場の全ての視線が集まっていることに気をよくしたユゼリアは、演説台のマイクに向かい、口を開いた。
『今回からのテストの結果について、不審な点が多くあった。私は、不正があったのではないかと考え、今日まで調査してきた。その結果をこの場で公開しよう!』
喜んだ顔をしているのは、不正をしていた者達だろう。大変わかりやすいというのが、ブラーナや生徒会長達の感想だ。
そんな中で、戸惑うように周りを見回す女生徒達は多かった。彼女達は、昨日までセイスフィア商会で社会科見学をしていた者達だ。
「これは……さすがは会長……効果はしっかりとあったようですね」
ブラーナは嬉しくて笑ってしまいそうになる表情を引き締め、自身がやるべきことを理解した。
『お待ちください』
『……なんだ』
ユゼリアがはっきりと不快だという顔を向けてくるが、ブラーナは気にしなかった。今回の事は、予めエンリアントから報告を受けていた。だから、生徒会長と副会長も、取り乱す事なく言うことを聞いている。
こんな機会は早々ないのだ。できれば致命傷になるほど、トラウマになるほどのものにしたい。そのためには、言質は必要だ。
『これは、ご自身のためですか? それとも……』
『不正に苦しむ者達のためだ! 当然だろう! 私は悪者になってでも、正しい方に導かねばならない! それが王族として生まれた者の責務だ!』
『……そうですか……』
『それ以外になにがあると言うのか。頭の足りない女が、バカな質問をするな』
『……』
ここで、大半の女生徒達の目の色が変わったことに、ユゼリアは気付かなかった。つい先日まで、媚びるように、憧れの人を見るようにキラキラと輝いていた瞳には、今や侮蔑の色が浮かんでいた。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
「今日は強めですわね……」
マイクから二歩ほど離れている。今は演説台の前にいる生徒会長が話していた。今年度の生徒会長は、男爵家の令息だ。副会長も男爵家の令嬢、しかし、二人とも今回のテストでは学年一位だった。テスト結果は、男女別になるので、この場合はわかりやすい。
下位の爵位の家の子ほど、現実を見て真面目に勉強をする。初年度は素地のある者達に追いつけないが、二年、三年ともなれば、しっかりと実力が付き、上位の成績を取れるようになるという訳だ。
彼らが一位になったのは、今年が初めてだ。今まで、結果が正しく発表されずにいた不正の被害者だった。だからこそ、これははっきりとさせたいと願っていた。
『今回のテストの結果について、多くの方々が今までとは違うことに気付き、学園の方へ抗議があったようです。それについて……』
そこで、ユゼリアが声を上げた。
「それについて、私の方からも報告がある!」
『……なんでしょうか』
「不正の当事者が説明するのは辛かろう。私がそれについて説明しよう」
そう言って、ユゼリアは当然のようにワンザと共に壇上へ上がった。しかし、そこで、ブラーナがその前に立つ。
「殿下。勝手な発言は困ります。質問や意見については、総会の最後に時間を取るものです。今はお戻りください」
進行上そうなっている。何より、そうなっている理由としては、内容を理解せず、野次を飛ばして進行をめちゃくちゃにされたことがあったからだ。王族が学園に居ない時期もある。そうなれば、位を気にして口を噤むことがなく、思い通りにならないからと癇癪を起こして文句を言う者も出る。そうして、ただの口汚く罵り合う場になることもあったのだ。
「不敬だぞ。私の婚約者としての立場を傘に着るなど、浅ましい奴だ」
「っ……」
「なにか文句があるのか? はっきり言ってみるがいい」
「……ご自分の言動に責任を持ってくださるなら構いません。これより、全てのお言葉を記録いたします」
「好きにするがいい」
ふんと鼻を鳴らして、ブラーナの前を通って行った。そして、生徒会長とその後ろに控えていた副会長へ告げる。
「お前達はそこに居れ。反省してもらわねばならんからな」
「……」
「……」
二人は目配せ合い、静かに数歩下がって堂々と背筋を伸ばす。そして、ブラーナへと視線を向け、頷いて見せた。
自分にこの場の全ての視線が集まっていることに気をよくしたユゼリアは、演説台のマイクに向かい、口を開いた。
『今回からのテストの結果について、不審な点が多くあった。私は、不正があったのではないかと考え、今日まで調査してきた。その結果をこの場で公開しよう!』
喜んだ顔をしているのは、不正をしていた者達だろう。大変わかりやすいというのが、ブラーナや生徒会長達の感想だ。
そんな中で、戸惑うように周りを見回す女生徒達は多かった。彼女達は、昨日までセイスフィア商会で社会科見学をしていた者達だ。
「これは……さすがは会長……効果はしっかりとあったようですね」
ブラーナは嬉しくて笑ってしまいそうになる表情を引き締め、自身がやるべきことを理解した。
『お待ちください』
『……なんだ』
ユゼリアがはっきりと不快だという顔を向けてくるが、ブラーナは気にしなかった。今回の事は、予めエンリアントから報告を受けていた。だから、生徒会長と副会長も、取り乱す事なく言うことを聞いている。
こんな機会は早々ないのだ。できれば致命傷になるほど、トラウマになるほどのものにしたい。そのためには、言質は必要だ。
『これは、ご自身のためですか? それとも……』
『不正に苦しむ者達のためだ! 当然だろう! 私は悪者になってでも、正しい方に導かねばならない! それが王族として生まれた者の責務だ!』
『……そうですか……』
『それ以外になにがあると言うのか。頭の足りない女が、バカな質問をするな』
『……』
ここで、大半の女生徒達の目の色が変わったことに、ユゼリアは気付かなかった。つい先日まで、媚びるように、憧れの人を見るようにキラキラと輝いていた瞳には、今や侮蔑の色が浮かんでいた。
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