125 / 213
ミッション9 学園と文具用品
305 応援してるけどな
しおりを挟む
肩で息をしながら、やって来たリゼンフィアの後ろからは、学園が始まっても週末は必ずここに滞在するセルジュが顔を出す。
息が整わないリゼンフィアの代わりというように、 セルジュが口を開いた。
「メイド長が、トールさんと婚約したって報告は、フィルならもう受けてるよね」
「ああ」
「え!?」
リゼンフィアが反応するが、構わずセルジュもフィルズも会話を続ける。
「カナルがルマンに襲われてるのは?」
ルマンはメイド長の娘で、母親の幸せをずっと願っていた。
「やるだろうなとは予想してた。少し前からアピール凄かっただろ」
「あ~、うん。カナルがすごく動揺してた」
「俺は応援してるけどな」
公爵領都にある屋敷の家令であるカナルは、メイド長の婚約が成立した事で、現在、危機に陥っていた。
「うん。私も。クーちゃんが味方に付いた時点でカナルに逃げ道はないしね」
「そういうことだ。それで? 宰相さんはどうしたんだ?」
「っ……か、カナルが襲われて……大丈夫なのか?」
「ちょっと、若い女に結婚迫られてるだけだよ」
「結婚!? カナルが!?」
この頃、五十を迎えたカナルは、優秀な男だが、女性との縁がなかった。本来ならば、家令になる者には、結婚もし身辺が落ち着いているのが好ましい。だが、この国の現状では、中々難しい問題がある。
主人と夫人の関係が歪で、そのフォローに回っていると、先ず家令は婚期を逃すのだ。主人は夫人に会いたくなくて屋敷を留守がちになり、夫人は第二夫人や外にいる愛人を思って荒れる。それを宥めるのも屋敷を任されている家令の仕事。この時点で少し女性不信になるらしい。
夫婦の間を取り持つとまではいかないが、家令は雇われている使用人達を守る役目も持っている。そのために日々奔走する。
若い貴族の女性は、矜持が高く苛烈な者が多い。しかし、流石に見た目に自信がなくなる頃には、夫の気持ちにも気付き落ち着いてくる。そうして、家庭内が冷え切った頃。ふと気付けば家令達は自身の婚期を逃しているのだ。
それと同時に、結婚するならば落ち着いた女性が良いと思うようになる。よって、家令達が結婚するのはかなり遅くだ。大きな主人夫婦という子どもを育てきった後のセカンドライフ的な雰囲気がある。
そして思うのだ。もし子どもが出来ても、家令にはしないと。だから、子どもを持たない者も多い。年上の、落ち着いた女性を娶る事が多かった。
「カナルだって結婚しても良いだろ?」
世間一般からすれば、今回公爵家は比較的早く、それらの問題が片付いたと言える状況。カナルもまだ五十と若い方である。
「もちろん! え? 若い女に迫られてる!?」
「ああ。メイド長の娘のルマンに。初恋から一貫して諦めない一途な女の子って、どうよ」
「え、あ、羨ましい……っ、いや! それは怖い?」
「押してダメなら、不意打ちでも後ろからでも、押し倒せるまで当たりまくれ! って精神で頑張ってる女の子だけど」
「怖いなっ!」
「うちのメイドですけどね」
「そんなっ……」
そんなメイドが居たなんてと、リゼンフィアは少し衝撃を受けたらしい。カナルに迫っているメイドがいるなんてことは、初耳だったようだ。
「大丈夫だ。カナル以外には全く興味のないクールビューティーだから。フラれた男は星の数って言われてるくらいの」
「……大丈夫の部分がどこか分からない……」
大分混乱しているようだ。
「綺麗な人だよね」
「メイド長も美人だもんな~。けど、ルマンはどっちかって言ったら可愛い系じゃね?」
「小柄だしね」
「気が強いけどな。カナルを、年上の男を養うなら体力と生活力が必要だとか言って、休みの日に冒険者になるくらい」
「しっかり肉を食べさせるんだって言ってたね。それに、ランクも五級。女性の中では結構な実力者だよね?」
「ヴィランズ仕込みだからな」
「えっ! そうだったの!?」
「ああ。カナルに安心して寄りかかってもらえるようになるなら、騎士団長に弟子入りするくらいじゃないとダメだって」
「本当にカナルのためだけに頑張ってきたんだね……」
「そう。だから、女はルマンの味方しかいねえの」
「じゃあ、もう決まりだね」
「そういうこと」
「……き、決まりって言うのは……」
「カナルはルマンと結婚するしか道がねえ」
「結婚式は夏期の休みにお願いしようかな」
「そうだな」
「……」
カナルがルマンの手から逃れられることはないと、フィルズもセルジュも確信していた。
その夜、フィルズは、ゴルドからの連絡で、カナルがルマンとの婚約を了承したとの報告をもらった。
公爵邸では完全にお祝いムードで、フィルズの屋敷の厨房担当のクマからもお菓子を届けて祝ったらしい。
当のカナル本人には誰も何も言えないという異様な様子であったというのは、後から隠密ウサギから聞くことになる。
やはり早い内に帰る必要がありそうだ。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
息が整わないリゼンフィアの代わりというように、 セルジュが口を開いた。
「メイド長が、トールさんと婚約したって報告は、フィルならもう受けてるよね」
「ああ」
「え!?」
リゼンフィアが反応するが、構わずセルジュもフィルズも会話を続ける。
「カナルがルマンに襲われてるのは?」
ルマンはメイド長の娘で、母親の幸せをずっと願っていた。
「やるだろうなとは予想してた。少し前からアピール凄かっただろ」
「あ~、うん。カナルがすごく動揺してた」
「俺は応援してるけどな」
公爵領都にある屋敷の家令であるカナルは、メイド長の婚約が成立した事で、現在、危機に陥っていた。
「うん。私も。クーちゃんが味方に付いた時点でカナルに逃げ道はないしね」
「そういうことだ。それで? 宰相さんはどうしたんだ?」
「っ……か、カナルが襲われて……大丈夫なのか?」
「ちょっと、若い女に結婚迫られてるだけだよ」
「結婚!? カナルが!?」
この頃、五十を迎えたカナルは、優秀な男だが、女性との縁がなかった。本来ならば、家令になる者には、結婚もし身辺が落ち着いているのが好ましい。だが、この国の現状では、中々難しい問題がある。
主人と夫人の関係が歪で、そのフォローに回っていると、先ず家令は婚期を逃すのだ。主人は夫人に会いたくなくて屋敷を留守がちになり、夫人は第二夫人や外にいる愛人を思って荒れる。それを宥めるのも屋敷を任されている家令の仕事。この時点で少し女性不信になるらしい。
夫婦の間を取り持つとまではいかないが、家令は雇われている使用人達を守る役目も持っている。そのために日々奔走する。
若い貴族の女性は、矜持が高く苛烈な者が多い。しかし、流石に見た目に自信がなくなる頃には、夫の気持ちにも気付き落ち着いてくる。そうして、家庭内が冷え切った頃。ふと気付けば家令達は自身の婚期を逃しているのだ。
それと同時に、結婚するならば落ち着いた女性が良いと思うようになる。よって、家令達が結婚するのはかなり遅くだ。大きな主人夫婦という子どもを育てきった後のセカンドライフ的な雰囲気がある。
そして思うのだ。もし子どもが出来ても、家令にはしないと。だから、子どもを持たない者も多い。年上の、落ち着いた女性を娶る事が多かった。
「カナルだって結婚しても良いだろ?」
世間一般からすれば、今回公爵家は比較的早く、それらの問題が片付いたと言える状況。カナルもまだ五十と若い方である。
「もちろん! え? 若い女に迫られてる!?」
「ああ。メイド長の娘のルマンに。初恋から一貫して諦めない一途な女の子って、どうよ」
「え、あ、羨ましい……っ、いや! それは怖い?」
「押してダメなら、不意打ちでも後ろからでも、押し倒せるまで当たりまくれ! って精神で頑張ってる女の子だけど」
「怖いなっ!」
「うちのメイドですけどね」
「そんなっ……」
そんなメイドが居たなんてと、リゼンフィアは少し衝撃を受けたらしい。カナルに迫っているメイドがいるなんてことは、初耳だったようだ。
「大丈夫だ。カナル以外には全く興味のないクールビューティーだから。フラれた男は星の数って言われてるくらいの」
「……大丈夫の部分がどこか分からない……」
大分混乱しているようだ。
「綺麗な人だよね」
「メイド長も美人だもんな~。けど、ルマンはどっちかって言ったら可愛い系じゃね?」
「小柄だしね」
「気が強いけどな。カナルを、年上の男を養うなら体力と生活力が必要だとか言って、休みの日に冒険者になるくらい」
「しっかり肉を食べさせるんだって言ってたね。それに、ランクも五級。女性の中では結構な実力者だよね?」
「ヴィランズ仕込みだからな」
「えっ! そうだったの!?」
「ああ。カナルに安心して寄りかかってもらえるようになるなら、騎士団長に弟子入りするくらいじゃないとダメだって」
「本当にカナルのためだけに頑張ってきたんだね……」
「そう。だから、女はルマンの味方しかいねえの」
「じゃあ、もう決まりだね」
「そういうこと」
「……き、決まりって言うのは……」
「カナルはルマンと結婚するしか道がねえ」
「結婚式は夏期の休みにお願いしようかな」
「そうだな」
「……」
カナルがルマンの手から逃れられることはないと、フィルズもセルジュも確信していた。
その夜、フィルズは、ゴルドからの連絡で、カナルがルマンとの婚約を了承したとの報告をもらった。
公爵邸では完全にお祝いムードで、フィルズの屋敷の厨房担当のクマからもお菓子を届けて祝ったらしい。
当のカナル本人には誰も何も言えないという異様な様子であったというのは、後から隠密ウサギから聞くことになる。
やはり早い内に帰る必要がありそうだ。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
1,499
お気に入りに追加
14,292
あなたにおすすめの小説
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
【完結】要らない私は消えます
かずきりり
恋愛
虐げてくる義母、義妹
会わない父と兄
浮気ばかりの婚約者
どうして私なの?
どうして
どうして
どうして
妃教育が進むにつれ、自分に詰め込まれる情報の重要性。
もう戻れないのだと知る。
……ならば……
◇
HOT&人気ランキング一位
ありがとうございます((。´・ω・)。´_ _))ペコリ
※こちらの作品はカクヨムにも掲載しています
【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?
つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。
彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。
次の婚約者は恋人であるアリス。
アリスはキャサリンの義妹。
愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。
同じ高位貴族。
少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。
八番目の教育係も辞めていく。
王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。
だが、エドワードは知らなかった事がある。
彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。
他サイトにも公開中。
【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断
Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。
23歳の公爵家当主ジークヴァルト。
年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。
ただの女友達だと彼は言う。
だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。
彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。
また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。
エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。
覆す事は出来ない。
溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。
そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。
二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。
これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。
エルネスティーネは限界だった。
一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。
初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。
だから愛する男の前で死を選ぶ。
永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。
矛盾した想いを抱え彼女は今――――。
長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。
センシティブな所へ触れるかもしれません。
これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。
【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。
くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」
「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」
いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。
「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と……
私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。
「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」
「はい、お父様、お母様」
「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」
「……はい」
「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」
「はい、わかりました」
パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、
兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。
誰も私の言葉を聞いてくれない。
誰も私を見てくれない。
そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。
ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。
「……なんか、馬鹿みたいだわ!」
もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる!
ふるゆわ設定です。
※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい!
※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ!
追加文
番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。
ここは私の邸です。そろそろ出て行ってくれます?
藍川みいな
恋愛
「マリッサ、すまないが婚約は破棄させてもらう。俺は、運命の人を見つけたんだ!」
9年間婚約していた、デリオル様に婚約を破棄されました。運命の人とは、私の義妹のロクサーヌのようです。
そもそもデリオル様に好意を持っていないので、婚約破棄はかまいませんが、あなたには莫大な慰謝料を請求させていただきますし、借金の全額返済もしていただきます。それに、あなたが選んだロクサーヌは、令嬢ではありません。
幼い頃に両親を亡くした私は、8歳で侯爵になった。この国では、爵位を継いだ者には18歳まで後見人が必要で、ロクサーヌの父で私の叔父ドナルドが後見人として侯爵代理になった。
叔父は私を冷遇し、自分が侯爵のように振る舞って来ましたが、もうすぐ私は18歳。全てを返していただきます!
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
別に構いませんよ、離縁するので。
杉本凪咲
恋愛
父親から告げられたのは「出ていけ」という冷たい言葉。
他の家族もそれに賛同しているようで、どうやら私は捨てられてしまうらしい。
まあいいですけどね。私はこっそりと笑顔を浮かべた。
とある婚約破棄の顛末
瀬織董李
ファンタジー
男爵令嬢に入れあげ生徒会の仕事を疎かにした挙げ句、婚約者の公爵令嬢に婚約破棄を告げた王太子。
あっさりと受け入れられて拍子抜けするが、それには理由があった。
まあ、なおざりにされたら心は離れるよね。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。