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ミッション8 王都進出と娯楽品

296 だから言ったのに

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フィルズは数日前に、ここの情報を既にまとめ終えていた。

測量部隊を早くから王都の地図を作る為にも派遣していたこともあり、情報はそれ以前から集まっていたのだ。

もちろん、測量部隊として雇った者達も何人かはこの組織の人間でもあったというのも大きい。

彼らを使う上で、彼らが所属していた場所は潰しておくべきだというのもある。雇うと決めたからには、面倒な事になる前に色々と処理しておくべきだ。

この周りの環境を整えるついでに、新しい人生として、あらたな生き方をし始めた彼らが負い目を感じる事なく働ける状況をなるべく作ってやろうと考えたのだ。

そうしていると、この組織についての情報が自然と集まってきた。

「ここの組織の幹部は散々貴族に使い潰されて、切り捨てられたってのを経験してきたんだろうな。だから、貴族の仕事を一つ受けるのでも契約した証拠を残すんだ」
「は? それじゃあ、自分たちがやったって証拠にもなるじゃないのさ」

どんな仕事でも、契約書としてその記録を残す。裏の者達にすれば馬鹿げたものだ。

「どのみち、失敗したら後がないんだ。依頼人に裏切られて堕ちるなら、一緒に道連れにしてやるって考えたんだよ」
「ははっ。考えそうなことだねえ。それも、証拠があるから逆に脅すこともできそうだ」
「ああ。こっちに不都合な事をしてきた場合、使えるだろ?」
「仮に、依頼した貴族の奴らが、その証拠を隠滅しようと討伐に動いても、暴露して引き摺り下ろせるということか」

大きな組織だ。情報収集能力もそれなりに持っている。動き出そうとした時点で返り討ちに合うだろう。

三人の気絶した少女の内、二人の襟首を持って引き摺りながら玄関ホールに向かうファリマス。その隣でフィルズも一人引き摺っている。

話をしながらファリマスは、なぜこの組織が放置され続けてきたのか、ラスタリュートがショックを受けたのか、理由に気付いた。

「ん? そうかっ。依頼したことのある貴族が牽制しあって、結果的に守られてきたんだね? 一人の裏切りで芋蔓式にバレちまうから」
「そういうこと。ここに根城を構える前からこの国で仕事してたらしくてさ。二世代前くらいからの記録がたっぷりと出てきたんだよ。あれ精査すんの大変だぜ?」
「下手に城に上げようものなら、証拠隠滅を図ってくるのも居るだろうしねえ。はっはっはっ。こりゃあ、大仕事だっ」
「だから言ったのに」
「それ、ラスタに言ってやるんじゃないよ?」
「残念。もう言った」
「あははははっ。それは、かわいそうにねえっ」

同情しながらもファリマスは面白がっている。破滅する貴族が居るのは自業自得で、ファリマスとしてはあまり貴族は好きではないため、少しざまあみろと思っているようだ。ラスタリュートには悪いが、一緒に右往左往する貴族が居ると知れば笑ってしまう。

そうして玄関ホールに着くと、そのタイミングでラスタリュートが二階から叫んだ。

「フィル君っ。とりあえず全部の書類、預かって!!」
「え~」

見上げながらフィルズは嫌そうな顔をする。対するラスタリュートは泣きそうな顔をしていた。手摺りに縋り付き、必死で言い募る。

「あんなの王宮に持って行ったら、一日しない内に処分されちゃうっ。ただでさえ、一日でなんて確認しきれない量なのよ!? せっかくの証拠品が消えるのは嫌よ!!」
「あははっ。苦労して運んだ先で燃やされたりしたら泣けるよな~。その犯人も有耶無耶にされて? タダ働きでおしまいかな。あ、責任取れとか言われたり?」
「絶対イヤ!!」

証拠品の消滅は、誰かが責任を取ることになるだろう。内部の犯行だと分かっていても、きっと本当の下手人は出てこない。

「まあ、最初からうちで回収しようとはしてたし? 当初の予定通りではあるんだけどなっ」
「酷いっ」

ちょっとラスタリュートを揶揄っただけだ。元々、こちらで回収するつもりだった。

「情報の精査は神官も交えてゆっくりやってもらうつもりだったし。ってか、付いてきたラスタが悪いよ。見たらどうにかしないとって思うだろ」
「見ちゃったんだものっ」
「だから付いて来なければ良かったんだよ」
「無理っ。あの流れでは無理ぃぃぃ」
「わがままだな~」

フィルズは笑いながら隠密ウサギに指示を出した。

「第三と第四部隊で証拠品の回収を始めてくれ。第五は屋敷の捜索を隅々まで頼むぞ」
《第三部隊セクター了解》
《第四部隊ブランド了解》
《第五部隊フラット了解》

どこかから、幼さを感じる声が響いて了解を告げた。

「よし、後は倒した奴らを集めて縛り上げたら、順番に外に用意してある護送車に放り込んでくれ」

ペルタがホワイトベアー型の大きなクマに籠車を引っ張らせて、屋敷の前にやってきている。

同時に、神官が馬車でやって来ており、そちらにリュブランとマグナが少女達を引き渡している所だ。励まし合い、ほっとしながら馬車へ乗り込んでいく少女達を見て、フィルズは呟く。

「あいつらも、どうするかな……」

彼女達がここに流れ着いた事情もフィルズは調べて知っている。

「しばらくは神官達に任せるか……」

面倒ごとを抱え過ぎている今の状態では、とても彼女達のことまで手が回らないと判断した。頭を切り替えて、未だ二階に居るラスタリュートを見上げる。

「ラスタ、気晴らしに散歩がてら、先に兵舎に行って事情説明しといてくれ」
「ううっ。下町の兵舎じゃなくて、城の方にしてっ。馬は……」
「ビズに乗っていけ。じいちゃんが乗って来たみたいだからさ」
「へ?」
「え? リル!?」

ファリマスが反応した。

神官と共にリーリルが屋敷に入ってくる。今日も月明かりがとてもよく似合う。

「どうしたんだい、リルっ」
「ファリマスが遅いから気になって……そうしたら、神官さんが呼ばれたって聞いてね。ビズちゃんが護衛してくれたんだよ」
「はあ……ダメだよ。夜に街中を出歩いちゃ。ビズちゃんに感謝だね」
「うん。ビズちゃんとの夜のお散歩、素敵だったよ」

心から嬉しそうに笑うリーリルを見て、意識が戻り、縛り上げられていた者達も陶然とする。最後の抵抗をしようとしていたようだが、大人しくなる。集まってきた測量部隊の面々も男女関係なく顔を赤らめていた。

「夜にじいちゃんは見せられないな……」

月明かりの下で微笑むリーリルは、特に危険だ。ラスタリュートも惚けてしまっており、それに気付いてフィルズは、注意を引くように口の横に手を立てて声を掛ける。

「おーい。ラスタ~。動け~」
「っ、はっ! リーリル様最強!」
「そういうの良いから。早いとこ行ってくれ」
「わ、分かったわ! って……これ、私……もしかして、明日休み返上……?」
「いや~あ、ザンネンだな~。せっかく部屋用意したのにな~」
「いやぁぁぁっ。フィル君、こうなるって知ってたわね!?」

分かりやすくフィルズは目を逸らす。

「ナンノコトカナ」
「どうせ計画通りなんでしょ!! うわぁんっ。お泊まり楽しみにしてたのにぃぃぃっ」
「ははっ。ドンマイ」
「フィル君のいじわるぅぅぅぅっ」
「心外だ。まあ、でも、計画通り」

間違いなく、ラスタリュートが付いてきていてもいなくても兵舎には走ってもらうはずだったので、結局は同じ結末になっていた。ラスタリュートは泊まれなかっただろう。だからこそ、早くから来たのも文句を言わなかったのだ。

泣きながら渋々屋敷を出ていくラスタリュートの背中を見送り、フィルズは改めて屋敷を見回す。

「さてと、屋敷の捜索にあと一日。そしたら壊すか。ま~た変なのが住み着いたら堪らないからな」

回収できるものは全てして、さっさと取り壊そうと決める。

「ここのことは大工のじいちゃん達に任せて……あのギルド長をとことんまで追い詰める仕上げに入るとするか」

フィルズはすかさず次の計画を練るのだった。








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読んでくださりありがとうございます◎


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