上 下
115 / 213
ミッション8 王都進出と娯楽品

295 困ったちゃん達

しおりを挟む
フィルズとしては予想通りだった。とりあえず、困惑顔のリュブランとマグナを他の少女達と一緒に外に出すことにする。

「リュブラン、マグナ。そいつら玄関ホールに連れて行ってくれ。そろそろ、教会から人が来る。気絶した奴と……こいつ以外は全員、保護してもらってくれ」
「え……っ」

こいつとフィルズが肩を叩いた相手。少し年上の二十歳くらいの女を手刀で眠らせる。崩れ落ちた女を指差してフィルズはリュブランとマグナに告げる。

「こいつもここの奴。後でロープで縛っといてくれ」
「う、うん……」
「こ、この人も……気付かなかった……」
「まあ、ここまで擬態してると無理だろうな。因みに、こいつ男」
「「「「「っ、男!?」」」」」

少女達も驚きの声を上げた。彼女達も知らなかったようだ。今度はそんな同年代の少女達に、フィルズが声をかける。

「これでここの組織の奴は居ねえ。安心しろ。お前ら、よく耐えたな」
「「「「「っ……」」」」」

誰が敵かも分からず、ずっと緊張しながら息を潜めていたのだろう。愚痴るだけで次の日に暴力を振るわれることもあったようだ。中に裏切り者がいると気付いていたが、その特定が出来ずにいた。

涙をグッと我慢する少女達。そこから目を逸らして、リュブランとマグナに指示を出す。

因みにフウマは、屋敷の外周で逃げようとする者達を捕える遊びに夢中なので、ここには居ない。まるで、哀れな獲物を追い掛けるように、飛びかかって倒しては次、起き上がって逃げ出したらまた飛びかかるというのような遊びをしているらしい。フィルズかファリマスが呼ぶまでそのままだろう。

「リュブラン、マグナ連れて行け。こいつは二人で引き摺っていけよ」
「うん。それで、運ばれて来る人たちを監視しておけばいいんだよね」
「任せてください。逃がしません」
「ああ。余裕があったら、フウマが遊び倒して弱った奴も回収しておいてくれ」

そうして、彼らがこの場を後にするのを確認してから、ファリマスと取り残された三人の姦しそうな女達に目を向けた。

「お待たせ、ばあちゃん」
「いいや。まだ裏切り者が居たとはねえ。私の勘も鈍ったか……それも男とは……っ」

女装を見破れなかったのが、一番悔しいらしい。少しばかり落ち込んでいるようだ。

「いや、こんな薄明かりの中じゃあ、確認しきれねえって……」
「リルの妻としては、悔しいんだよ!」
「変な矜持だな……」

本気で、ここまで悔しそうなファリマスを見るのはフィルズも初めてで驚いた。気持ちを切り替えて、ファリマスの前で固まる少女達を見る。

「それより、そいつらのことだが」
「っ、ああ。この困ったちゃん達、どういう経緯でここに?」

フィルズならば、とっくに調べはついているだろうとファリマスは確信していた。先ほどの女装した裏切り者も、そうした調べが付いているからこそ、反応出来たものだ。

「それぞれの家から絶縁されてる問題児だ。修道院に送られる途中で、それを反対していたこいつらの母親や祖父母が奪還しようとして、そこで拐われたみたいだな」
「……そういう事情の裏を取って人を集めてたのかい」
「そういうことだ。どうせ要らねえ人間なら、タダで使えるってな。ここの奴ら、結構頭良いぜ」

身内全てが納得して修道院送りになる者は意外にも少ない。男親が家の名誉を守るために問題児となった娘を送る場合、その母親や甘やかしている祖父母は反対している事が多い。または、第一夫人が第二夫人の娘を邪魔に思って冤罪によって貶めることもある。その場合は、男親や母親が必死になって止めようとするものだ。

そうして襲撃によって助け出す方法が最終的に取られるのだが、その時に横から掻っ攫う者達がいるのだ。そうした者達は、他国の奴隷商に売ることを目的としていたりする。

修道院に送られるような者は、大概が若い女。反省することを願って送り出される者達だ。それなりに先がある者が多い。奴隷として売るにはピッタリというわけだ。

「なら、この子らは教会の保護対象にはならないかい?」
「修道院に送り届けられるだろうからな」
「「「っ、いやよ!」」」

すかさず口を開く三人。しかし、フィルズには関係ない。

「嫌でもなんでも、お前らの場合は、貶められたとかじゃなく、逆に友人や身分が下の奴を貶めたらしいじゃないか。自業自得だ」
「ああ。そういうことしそうな顔してるねえ」
「そいつは、幼馴染に嫉妬して顔に火傷を負わせた。その幼馴染は部屋に閉じこもって弱る一方らしい」

右端の女を指差してそう説明する。全く悪気の無い顔をしているのが、救いようが無い。

「真ん中のは、婚約者と話をしたってだけで数人の女達を脅して追い詰めて、一人自殺してる。他も精神的に参っているらしい」

ふんっと鼻を鳴らすだけで、反省してはいないようだ。どうしようもないなとため息混じりにフィルズは、最後の一人を指差した。

「そんでこいつは、自分の誘いに乗らなかったからって、気に入った男の家族を家ごと燃やしたらしいぜ。生き残ったのは、その男と妹だけだ。火傷が酷くて教会に預けられてる」

ファリマスは息を呑んだ後、ゆっくりと息を吐いて確認する。

「それ……修道院送りじゃ緩くないかい?」
「俺もそう思う」

完全に犯罪者じゃないかとファリマスが珍しくドン引きしているのが分かった。それが女達にも感じられたのだろう。すかさず言い訳を並べた。

「わ、私は悪くないわ! 男に媚を売るあの女が悪いのよ!」
「私の婚約者に色目を使うなんて、卑しい奴らはみんな消えれば良いのよ!」
「目をかけてやったのにっ。裏切ったあいつが悪いわ! 私より家族が大事なんて、許せるわけないじゃない!」
「「……ダメだな、こいつら……」」

醜いにもほどがある。

「このまま、ここの奴らと一緒に、犯罪者として兵に引き渡した方が良くはないかい?」
「そうだなあ。その方が、被害者も安心だよなあ」
「っ、なっ」
「そ、そんな事、お父様が許すはずない!」
「私が犯罪者ですって!?」

納得しない顔をするのは考えなくても予想できた。ファリマスはため息を吐きながら拳を握って鳩尾に一撃ずつ入れた。

「ぐえっ」
「うぐっ」
「げえっ」
「ふんっ。まったく、手間をかけさせる」
「……ばあちゃん、怒ってるじゃん……手刀じゃなくて鳩尾とか……」
「こっちの方が、目が覚めてからも動き辛いからね。これくらいの罰はあっても良いだろう?」

わざわざそちらにしたのは、その後の痛みも考えての事だったようだ。フィルズはそれもそうかと頷いた。

「だな。これも自業自得だ」
「そういうこった。そういえば、ラスタはどうしたんだい?」
「上でショック受けてる」
「ん?」

ラスタリュートは、執務室らしき場所にあった証拠書類を見て膝から崩れ落ちていたので、そのまま置いてきたのだ。

「ここの奴らが、長年国で追ってた『ブラックロード』の支部だって知ったのと、なんでこんな近くに根城があるのに、見つけられなかったかって理由が分かったからな。だから、止めとけばよかったのに」
「付いて来るのを止めた理由かい」
「そう。こうなると思ったからさ~」

王国騎士団長としては、許せないものだったのだ。








**********
読んでくださりありがとうございます◎

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

【完結】要らない私は消えます

かずきりり
恋愛
虐げてくる義母、義妹 会わない父と兄 浮気ばかりの婚約者 どうして私なの? どうして どうして どうして 妃教育が進むにつれ、自分に詰め込まれる情報の重要性。 もう戻れないのだと知る。 ……ならば…… ◇ HOT&人気ランキング一位 ありがとうございます((。´・ω・)。´_ _))ペコリ  ※こちらの作品はカクヨムにも掲載しています

【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?

つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。 彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。 次の婚約者は恋人であるアリス。 アリスはキャサリンの義妹。 愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。 同じ高位貴族。 少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。 八番目の教育係も辞めていく。 王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。 だが、エドワードは知らなかった事がある。 彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。 他サイトにも公開中。

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

ここは私の邸です。そろそろ出て行ってくれます?

藍川みいな
恋愛
「マリッサ、すまないが婚約は破棄させてもらう。俺は、運命の人を見つけたんだ!」 9年間婚約していた、デリオル様に婚約を破棄されました。運命の人とは、私の義妹のロクサーヌのようです。 そもそもデリオル様に好意を持っていないので、婚約破棄はかまいませんが、あなたには莫大な慰謝料を請求させていただきますし、借金の全額返済もしていただきます。それに、あなたが選んだロクサーヌは、令嬢ではありません。 幼い頃に両親を亡くした私は、8歳で侯爵になった。この国では、爵位を継いだ者には18歳まで後見人が必要で、ロクサーヌの父で私の叔父ドナルドが後見人として侯爵代理になった。 叔父は私を冷遇し、自分が侯爵のように振る舞って来ましたが、もうすぐ私は18歳。全てを返していただきます! 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。

別に構いませんよ、離縁するので。

杉本凪咲
恋愛
父親から告げられたのは「出ていけ」という冷たい言葉。 他の家族もそれに賛同しているようで、どうやら私は捨てられてしまうらしい。 まあいいですけどね。私はこっそりと笑顔を浮かべた。

とある婚約破棄の顛末

瀬織董李
ファンタジー
男爵令嬢に入れあげ生徒会の仕事を疎かにした挙げ句、婚約者の公爵令嬢に婚約破棄を告げた王太子。 あっさりと受け入れられて拍子抜けするが、それには理由があった。 まあ、なおざりにされたら心は離れるよね。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。