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ミッション8 王都進出と娯楽品

287 手触りが自慢

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ファリマスとはこの後、休憩しながら、リーリルと過ごすということで食堂で別れた。

フィルズは執務室で二人の元警護員と契約を結び、家族がいるらしいので、新たな土地に建てる社宅も紹介しておく。二つ返事でそちらに入るとのことで、そちらも契約しておいた。

「それじゃあ、ドルカール、センザート、これからよろしく。従業員の登録と説明は……ダイナ」
《はい》
「「「「「っ!?」」」」」

部屋の隅に控えていたクマ。従業員の管理、指導を任せているダイナだ。淡い橙色の毛皮を使っている。小さな白のシルクハットの髪飾りを付け、真っ白い燕尾服を着ている。シルクハットに付いているリボンは橙色だ。

この屋敷で表の管理業務を行うクマ達は、皆色違いのこの格好をしていた。

今まで動かなかったクマが突然動き、返事をした事にキラーリ達は目を丸くする。

「これは、魔導人形のダイナだ。うちでは、何体かの魔導人形が従業員達と同じように働いている。その中でも、このダイナは従業員のシフト管理、健康管理、相談などを受けるお前達の上司だ」
《上司とは言われましても、お気軽に分からないこと、気になったことがあれば、ご相談くださいな》
「「は、はい……」」
《ふふっ。驚きますよね。少しずつ慣れていってください。では、お二人には施設のご案内をいたします。ついて来てください》
「「はい!」」

そうして、ダイナに連れられて二人は執務室を出ていった。またキラキラした目に戻っていたから大丈夫だろう。

ダイナの性格的には、子ども達の世話を焼くお母さんというものに近い。穏やかで頼りになる存在になっている。

執務室に残ったキラーリとその護衛二人。

まだクマの衝撃から立ち直っていないらしい。扉の方を気にしている。

「お~い。そろそろ落ち着いてくれ」
「「「はっ!」」」

正気に戻ったようだ。向かいのソファーに座ったフィルズに顔を向ける。

そして、キラーリが口を開いた。若干震えながらなので、まだ衝撃は殺しきれていないようだ。

「ま、魔導人形……っ、まさか、賢者の遺物っ」
「いや。魔導人形を作った賢者の人形は、人型、メイドさんばっかりだったらしい。アレは、その知識を使って俺が改良して作ったやつ。人型はちょっと抵抗があってさ」

照れくさそうに頬を指で掻くフィルズ。

「出来なくはないけど、人形とはいえ体を作るのはな~、それもメイドさん。俺、一応は年頃の男の子だし?」
「っ……そ、そうだな……」

お人形遊びはちょっと抵抗がある。

「それに、仮とはいえ、なんか隷属させてるみたいでさ。奴隷とか、俺苦手なんだよ。奴隷制ある国じゃなくて良かったって思うくらい」
「なるほど……確かに、人形となれば……奴隷のように見えるかもしれないな……」

まだ魔獣型だからそれほど表情を作るのに複雑ではないが、これが人型となると難しいだろう。

「賢者も、人の細かい表情とかまでは再現できなかったらしいし、無表情なメイドさん達引き連れてるような感じだったんだろうな」
「それは……あまり良い気はしないな」
「だろ? けど、あいつらは愛嬌もあるし、公爵領都では大人気なんだぜ? 大人にも子どもにもなっ。あと、手触りが自慢」
「毛皮か?」
「そう。さっきのダイナは、フレイモンカの毛皮」
「っ、最高級の毛皮の一つではないかっ。高ランクのっ」

モモンガのような見た目で、雑食。森の奥深い場所で空から強襲してくる赤い悪魔だと言われている。

「向こうから襲ってくるやつは倒しやすくて良いよなっ。で、森の奥にいる奴の方が、手触り独特なのが多い」
「……まさか、手触りで決めているのか?」
「そうだけど? それに、凶悪なやつの方が、毛皮が劣化し辛いんだよ。魔力の通りも良いし」
「……わからなくはないが……命知らずな……」

そこで、護衛の者達が気付いた。

「まさか、自分で取って来てるのか?」
「そんな言い方だよな? けど、まさか……」

顔を見合わせながら、その考えを否定する。しかし、フィルズはなんて事ないように答える。ついでに冒険者ギルドカードも見せた。

「俺、一応は四級の冒険者。ここが落ち着いたら、三級の試験を受けることになってるんだ。王都に来た目的の一つがそれでさ」
「「「はあ!?」」」

いい加減、王都で試験を受けて来いと言われたのが二ヶ月前。だが、ついでがないと、どうも行きたいと思えなかった。なので、今回は良い機会だったと言える。

「ならば、素材も自分で……」
「そうだな。ほぼ俺か、従業員で取ってくる。取って来た魔獣の解体を任せる部署もあるから、ギルドに仲介料も取られない。だから、商業ギルドを敵に回そうと、その辺の商会や貴族が敵に回ろうと、関係ないんだ」
「……そういうことか……」

商業ギルドでも強気だった理由。教会が後ろ盾になっているとはいえ、商売につきものの仕入れが、ほぼ全て身内で出来てしまうのがセイスフィア商会だ。

「食品も、畑を持ってるしな」
「ああ、そういえば、農地改革をしていると言っていたな……それは、ギルドが手を出したくてもできないな……」
「まあ、だから、しょぼい嫌がらせしかやれねえんだよ」
「……」
「「うわ~……」」

もう最強じゃんと護衛達は嫌そうな顔をした。

「旦那、やり合わなくて良かったっすね」
「手え出してたら、俺ら逃げてたわ」
「……お前達……」
「面白れえ兄ちゃん達だなあ」

この二人、忠誠心は薄そうだ。

「まあ、商業ギルドに喧嘩売ったのには、理由があってさ。あんたはもう大丈夫そうだから教えてやるよ」
「……なんだ?」
「商業ギルドの統括と公爵領都の商業ギルド長からの依頼でさ。王都の商業ギルドの監査をしやすいように煽るのが目的なんだよ」
「っ……監査……本部が……動くと?」
「ああ。もうギルドの部隊は王都入りしてるよ。こっちを囮としてるから、やりやすいって喜んでたぜ。ウチからも手伝いに調査部隊を派遣してるしな」
「っ……わざわざ囮に……」

王都の商業ギルド長は、あの後、セイスフィア商会と関係を断つことを王都の商会や商人達に通達していた。キラーリは加護のことで忙しくしていたから、特に気にしなかったが、他の商会は、後ろ盾になっている貴族達にも、妨害をお願いしているようだ。

それが、自分たちの首を絞めることになるとも知らずに。

「商業ギルドは、かつて、賢者の作り上げたものを貴族達から守れなかったことを今でも悔いてる。職人達を守り、二度と文化を衰退をせないことが商業ギルドの最も大切にしている理念だ」
「……そう……そうだった……」

キラーリは愕然とした。なぜ今まで忘れていたのだろうかと。それが、商人が一番はじめに教えられること。

「まあ、ウチの場合は、商売の痛手になるようなことはできねえし、暴力沙汰は、ばあちゃんがどうにか出来る。俺も出ればまず問題ない」
「いや、それでも……っ、そうだ! 貧民街の、ハグレ者達が雇われるはずだ。そうなると、嫌がらせでは済まなくなるっ」

成果がないのは、ここ数日で確認したはず。そうなると、次はそこの者達に処理を依頼するだろうとのことだ。









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読んでくださりありがとうございます◎



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