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16th ステージ
181 逆ギレすんなや!
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それから数日。一年生達をまとめて、リンディエールは面倒を見ていた。
初日の内に、それぞれの親から手紙で叱責されたらしく、中にはリンディエールの言うことを聞かないなら勘当だと言う親達もいたようだ。
翌日は涙で目を腫らして出て来た者が多かった。そして、こんな子も当然のようにいた。
「なんかお父様が怒ってるけど、手紙に何で書いてあるのか分からない……分からないと怒られる……っ、ううっ、あなたのせいなんだから、教えなさいよ!」
「え? なにその屁理屈。聞いたこともないわ」
リンディエールでもちょっと引いた。手紙を押し付けられたので読んでみる。
「ん~、『学園での話は聞いた。学園長からも現状を確認し、お前が救いようのない愚か者であることを知った。私も把握していなかったのが悪いが、何も理解しようとしないお前には呆れる。デリエスタ嬢に指導されても理解できないならば、お前を勘当する用意がある。長期休暇も戻って来なくてよろしい。補習と補講を先生方が引き受けてくださるそうだ。それに感謝し、自分の愚かさを早く見つめ直してくれ』だって」
「……だから、どういう意味よ」
「は?」
寧ろ分からないところがリンディエールには分からなかった。だが、ふとそこで、初めて出会った頃のレングやユーゼリアを思い出したのだ。おかげで察した。
「まさか! 言葉の意味が分からんの!?」
「だから! そう言っているじゃない!!」
「逆ギレすんなや! そんなおバカたんだとは思わんやんか! 家庭教師は何してたんや!」
「そんなの、追い出したわよ!!」
「だから逆ギレするなや!! このドあほ!!」
そう。子ども達は、分かる言葉しか理解できず、それでも叱られたことがないために、怒っているという文面から滲み出る何かに怯え、泣いた。親に嫌われたと言うのは分かったようだ。だが、それだけだ。内容が入っていなかった。
これにより、座学が始まった。
「ええか? この救いようのない愚か者という所からスタートや! 救いようのないというのは分かるか? ほれ、そこの赤いリボンつけた子。救いを言い換えられたらわかりやすいはずや。別の言葉がないか先ずは考えてみい」
「あ、はい。救い……助け? 助けようがない?」
「正解や! どうにもならんっちゅうことやな!」
身も蓋もない教え方だ。しかし、これが子ども達には合ったようだ。
「愚か者というのは、良くない言い方やゆうのは分かるか? 愚かという言葉で、他にもどんな言葉があるか考えよか」
「はい! えっと、愚かしい」
「愚者って聞いたことがある! 道化? バカらしい感じの意味!」
「せやな。他には、愚鈍、鈍いやつとか、愚図なんて言葉は、使ったことがある者もあるはずや」
母親が使っていたとか、上手く動かない使用人に向けて、使う者は多い。
「お母さまが、グズねって言っているの聞いたことがある!」
「私も!」
「俺も!」
「うん。まあ、あるやろな。その行動を見下すのによく使われる言葉や。その光景を思い出してみるとええ。その相手は、何をしてそう言われた?」
そうやって、思い出させたり、想像させることもしながら、手紙を細かく解説していった。
未だにこうして晒された手紙の受け取り主である少女は、その恥ずかしさに気付いてもいない。寧ろ、教材として使われて誇らしげだ。
とはいえ、半数以上の子ども達は、そろそろ気付いている。この手紙を見せびらかしている時点で、愚者であると言うことに。
そして、更にその半分は、自分の手紙の内容を理解しだしており、心から反省していた。
ひと月後には、ようやく『勘当する』という意味を理解したらしく、担任の教師達の授業も真剣に受けるようになっていた。
「か、カンドウって……家を追い出すってこと?」
「あら。それだけじゃないわよ。勘当って、縁を切るってことって聞いたでしょう?」
「そうそう。親との縁、それは家との縁だわ。それを切られるとどうなるか考えれば分かるでしょう?」
いい加減、理解しろよとクラスの女子達によって、彼女は諭されていた。
「家との縁……?」
「そうよ。家と縁が切れるって言うことは、貴族ではなくなるってことよ」
「正確には、未成年である僕達は貴族の子どもってだけの立場しかないから、貴族だとは言い切れないんだけど、その貴族の子どもって肩書き……立場がなくなるってことさ」
見兼ねた令息達も集まってきて、丁寧に教えていく。
「そうそう。散々、君がバカにしていた平民になるってことだよ。それも、親の居ない未成年ってことで、孤児扱いかな」
「っ!! わ、わたしが、孤児っ!?」
「そうですわね。そういう扱いになると、私も思いますわ」
「……平民に……」
ようやく理解したかと、クラスメイト達は散っていく。残された彼女は、どうすればいいのかと途方に暮れていた。
「あ~らら。これは、立ち上がり方も教えなならんかなあ」
失敗や叱責を知らずに今まで生きてきた貴族の子ども達は、挫折をした後の立ち上がり方を知らなかった。まだまだリンディエールは苦労しそうだ。
************
読んでくださりありがとうございます◎
初日の内に、それぞれの親から手紙で叱責されたらしく、中にはリンディエールの言うことを聞かないなら勘当だと言う親達もいたようだ。
翌日は涙で目を腫らして出て来た者が多かった。そして、こんな子も当然のようにいた。
「なんかお父様が怒ってるけど、手紙に何で書いてあるのか分からない……分からないと怒られる……っ、ううっ、あなたのせいなんだから、教えなさいよ!」
「え? なにその屁理屈。聞いたこともないわ」
リンディエールでもちょっと引いた。手紙を押し付けられたので読んでみる。
「ん~、『学園での話は聞いた。学園長からも現状を確認し、お前が救いようのない愚か者であることを知った。私も把握していなかったのが悪いが、何も理解しようとしないお前には呆れる。デリエスタ嬢に指導されても理解できないならば、お前を勘当する用意がある。長期休暇も戻って来なくてよろしい。補習と補講を先生方が引き受けてくださるそうだ。それに感謝し、自分の愚かさを早く見つめ直してくれ』だって」
「……だから、どういう意味よ」
「は?」
寧ろ分からないところがリンディエールには分からなかった。だが、ふとそこで、初めて出会った頃のレングやユーゼリアを思い出したのだ。おかげで察した。
「まさか! 言葉の意味が分からんの!?」
「だから! そう言っているじゃない!!」
「逆ギレすんなや! そんなおバカたんだとは思わんやんか! 家庭教師は何してたんや!」
「そんなの、追い出したわよ!!」
「だから逆ギレするなや!! このドあほ!!」
そう。子ども達は、分かる言葉しか理解できず、それでも叱られたことがないために、怒っているという文面から滲み出る何かに怯え、泣いた。親に嫌われたと言うのは分かったようだ。だが、それだけだ。内容が入っていなかった。
これにより、座学が始まった。
「ええか? この救いようのない愚か者という所からスタートや! 救いようのないというのは分かるか? ほれ、そこの赤いリボンつけた子。救いを言い換えられたらわかりやすいはずや。別の言葉がないか先ずは考えてみい」
「あ、はい。救い……助け? 助けようがない?」
「正解や! どうにもならんっちゅうことやな!」
身も蓋もない教え方だ。しかし、これが子ども達には合ったようだ。
「愚か者というのは、良くない言い方やゆうのは分かるか? 愚かという言葉で、他にもどんな言葉があるか考えよか」
「はい! えっと、愚かしい」
「愚者って聞いたことがある! 道化? バカらしい感じの意味!」
「せやな。他には、愚鈍、鈍いやつとか、愚図なんて言葉は、使ったことがある者もあるはずや」
母親が使っていたとか、上手く動かない使用人に向けて、使う者は多い。
「お母さまが、グズねって言っているの聞いたことがある!」
「私も!」
「俺も!」
「うん。まあ、あるやろな。その行動を見下すのによく使われる言葉や。その光景を思い出してみるとええ。その相手は、何をしてそう言われた?」
そうやって、思い出させたり、想像させることもしながら、手紙を細かく解説していった。
未だにこうして晒された手紙の受け取り主である少女は、その恥ずかしさに気付いてもいない。寧ろ、教材として使われて誇らしげだ。
とはいえ、半数以上の子ども達は、そろそろ気付いている。この手紙を見せびらかしている時点で、愚者であると言うことに。
そして、更にその半分は、自分の手紙の内容を理解しだしており、心から反省していた。
ひと月後には、ようやく『勘当する』という意味を理解したらしく、担任の教師達の授業も真剣に受けるようになっていた。
「か、カンドウって……家を追い出すってこと?」
「あら。それだけじゃないわよ。勘当って、縁を切るってことって聞いたでしょう?」
「そうそう。親との縁、それは家との縁だわ。それを切られるとどうなるか考えれば分かるでしょう?」
いい加減、理解しろよとクラスの女子達によって、彼女は諭されていた。
「家との縁……?」
「そうよ。家と縁が切れるって言うことは、貴族ではなくなるってことよ」
「正確には、未成年である僕達は貴族の子どもってだけの立場しかないから、貴族だとは言い切れないんだけど、その貴族の子どもって肩書き……立場がなくなるってことさ」
見兼ねた令息達も集まってきて、丁寧に教えていく。
「そうそう。散々、君がバカにしていた平民になるってことだよ。それも、親の居ない未成年ってことで、孤児扱いかな」
「っ!! わ、わたしが、孤児っ!?」
「そうですわね。そういう扱いになると、私も思いますわ」
「……平民に……」
ようやく理解したかと、クラスメイト達は散っていく。残された彼女は、どうすればいいのかと途方に暮れていた。
「あ~らら。これは、立ち上がり方も教えなならんかなあ」
失敗や叱責を知らずに今まで生きてきた貴族の子ども達は、挫折をした後の立ち上がり方を知らなかった。まだまだリンディエールは苦労しそうだ。
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