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16th ステージ
173 信用あらへんのな……
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国々は国際会議の後、年に二度ほど聖皇国の迷宮に集まり、進捗を確認するようになった。
冒険者達だけでなく、魔力の高い貴族達も国王達の主導とヘルナ達の脅しの下、迷宮攻略を続けている。
残す所、あと一年ほどと迫った頃。リンディエールは学園に通う歳になっていた。
「ふう……これくらいの身長なら、まあ小柄やねえと言われるくらいやな!」
「だから、レベル上げも程々にしろと言ったんだ」
リンディエールは、まだまだレベルを上げるぞと国々を回って迷宮攻略に協力しており、同年の子ども達は既に学園に入学している。そして、今日ようやく半年近く遅れて学園に通うことになったのだ。
レベルを上げることで、肉体の老化が遅くなる。この成長期に、それを止めてしまうようなものだ。だから、ヒストリアはあまり推奨していなかったのだが、リンディエールは笑っていつもかわしていた。
「ええやん。かわええやろ?」
「っ……ま、まあ……な」
ヒストリアは照れたように、頬を赤めてそっぽを向く。最近、こうして照れたり拗ねたりすることが多かった。
「似合わん?」
「っ、そんなことはないっ……似合ってる……」
「ありがとうっ」
「っ……」
うんと頷いて見せながらも、目は合わなかった。照れているのは分かっているので構わない。
「違和感がある所はございませんか?」
「大丈夫や。完璧やで!」
「それは良おございました」
グランギリアによって、制服の細かい調整を完了させたのが、つい今し方。オーダーメイドで制服を作りはするが、年齢的にサイズが変わりやすい時期だ。よって、少し大きめに作るのが主流だった。いくら貴族で、制服の買い替えなんて当然だとしても、そこは受け入れられていた。
当初、リンディエールも入学式に間に合うように戻るつもりだった。だが、攻略が滞っている国があると聞いて『それは面白そう!』と乗り込んで行ったのだ。結果、入学式をすっぽかすと言うことになってしまった。
「すごくお似合いですよ!」
「ありがとう! 悠ちゃん。何度も聞くけど、ユウちゃんも行かんで良かったん?」
異世界から聖女として召喚されてしまった天野悠。彼女は、本来ならば既に学園に通っていたはず。
「学校に行かなくて良いなら別にね。それに、学校よりもマンツーマンの家庭教師がいるようなものだし? 大体、平民は読み書き計算ができれば充分なんでしょ?」
「せやけど」
「私の青春はバスケだもん。恋愛とかいらないよ。それも、頭でっかちな貴族の男なんてゴメンだわ」
悠はこの世界に来て数年。スポーツマン少女の根本は変わっていない。今やメイドとしてかなりの能力を身につけている。根性で何でもやり切ってしまう時に熱いメイドさんだ。そして、子どもに興味はないと言って憚らない。恋愛は大人の男性とに限るとはっきり言っている。
「……ウチが言いたいことなんやけど……」
「あ、うん。リンちゃんはその辺の貴族の男に引っかかっちゃダメだよ? ないとは思うけどね。けど、それっぽい雰囲気でも出したら……ゴメン、これ以上は言えない……」
「兄ちゃん達のことやろ。そないに辛そうに首振らんでええて……」
口にできないと辛そうに目を伏せて、口を片手で覆って悲しそうに首を張ってみせる悠。小技が効いている。
「ウチが今更、同年代の子どもの相手するわけないやろ」
「うん。それは分かるんだけどね~。ほら、出会いも特にない貴族社会じゃない? 何百人といる同年代の子達と交流しても、付き合う子ってそんなにいないじゃん。女の本性とか知らずに、男は女に夢見るし、女は男に。そんな勘違いやろうばかりの所に行くんだよ?」
「……悠ちゃん、自分が行かんからって、えらい言うやん……」
「だって、貴族のイメージってそうなんだもん。それで、勘違いが勘違いを呼んで、嫉妬されて陰湿な嫌がらせされたりするんだよ?」
「っ、大丈夫やって。今の貴族はどっちか言えば、実戦主義。恋する青春より、一緒にスポーツする青春しかあらへんって」
「反則いっぱいしそうだよね」
「信用あらへんのな……」
悠にとって、貴族は不正や反則ばかりするものらしい。確かに、他力本願な所がまだまだ見られる。かなりヘルナ達によって厳しく親世代は指導を受けたが、子ども達にはまだ浸透していない。そこはまだ不安なところだ。
「とにかく、まあ、行ってみるで!」
「リン。子ども相手に、本気になるんじゃないぞ」
「リン様。口で負かすのは大丈夫ですからね?」
「リンちゃん! 加減は大事だけど、勘違いヤロウの心はきっちり折らないとダメだよ!」
「……なんで喧嘩売られるの前提やねん……」
揉める事前提で送り出されるというのも可笑しいだろうと思いながらも、リンディエールは学園へと転移門で移動した。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
冒険者達だけでなく、魔力の高い貴族達も国王達の主導とヘルナ達の脅しの下、迷宮攻略を続けている。
残す所、あと一年ほどと迫った頃。リンディエールは学園に通う歳になっていた。
「ふう……これくらいの身長なら、まあ小柄やねえと言われるくらいやな!」
「だから、レベル上げも程々にしろと言ったんだ」
リンディエールは、まだまだレベルを上げるぞと国々を回って迷宮攻略に協力しており、同年の子ども達は既に学園に入学している。そして、今日ようやく半年近く遅れて学園に通うことになったのだ。
レベルを上げることで、肉体の老化が遅くなる。この成長期に、それを止めてしまうようなものだ。だから、ヒストリアはあまり推奨していなかったのだが、リンディエールは笑っていつもかわしていた。
「ええやん。かわええやろ?」
「っ……ま、まあ……な」
ヒストリアは照れたように、頬を赤めてそっぽを向く。最近、こうして照れたり拗ねたりすることが多かった。
「似合わん?」
「っ、そんなことはないっ……似合ってる……」
「ありがとうっ」
「っ……」
うんと頷いて見せながらも、目は合わなかった。照れているのは分かっているので構わない。
「違和感がある所はございませんか?」
「大丈夫や。完璧やで!」
「それは良おございました」
グランギリアによって、制服の細かい調整を完了させたのが、つい今し方。オーダーメイドで制服を作りはするが、年齢的にサイズが変わりやすい時期だ。よって、少し大きめに作るのが主流だった。いくら貴族で、制服の買い替えなんて当然だとしても、そこは受け入れられていた。
当初、リンディエールも入学式に間に合うように戻るつもりだった。だが、攻略が滞っている国があると聞いて『それは面白そう!』と乗り込んで行ったのだ。結果、入学式をすっぽかすと言うことになってしまった。
「すごくお似合いですよ!」
「ありがとう! 悠ちゃん。何度も聞くけど、ユウちゃんも行かんで良かったん?」
異世界から聖女として召喚されてしまった天野悠。彼女は、本来ならば既に学園に通っていたはず。
「学校に行かなくて良いなら別にね。それに、学校よりもマンツーマンの家庭教師がいるようなものだし? 大体、平民は読み書き計算ができれば充分なんでしょ?」
「せやけど」
「私の青春はバスケだもん。恋愛とかいらないよ。それも、頭でっかちな貴族の男なんてゴメンだわ」
悠はこの世界に来て数年。スポーツマン少女の根本は変わっていない。今やメイドとしてかなりの能力を身につけている。根性で何でもやり切ってしまう時に熱いメイドさんだ。そして、子どもに興味はないと言って憚らない。恋愛は大人の男性とに限るとはっきり言っている。
「……ウチが言いたいことなんやけど……」
「あ、うん。リンちゃんはその辺の貴族の男に引っかかっちゃダメだよ? ないとは思うけどね。けど、それっぽい雰囲気でも出したら……ゴメン、これ以上は言えない……」
「兄ちゃん達のことやろ。そないに辛そうに首振らんでええて……」
口にできないと辛そうに目を伏せて、口を片手で覆って悲しそうに首を張ってみせる悠。小技が効いている。
「ウチが今更、同年代の子どもの相手するわけないやろ」
「うん。それは分かるんだけどね~。ほら、出会いも特にない貴族社会じゃない? 何百人といる同年代の子達と交流しても、付き合う子ってそんなにいないじゃん。女の本性とか知らずに、男は女に夢見るし、女は男に。そんな勘違いやろうばかりの所に行くんだよ?」
「……悠ちゃん、自分が行かんからって、えらい言うやん……」
「だって、貴族のイメージってそうなんだもん。それで、勘違いが勘違いを呼んで、嫉妬されて陰湿な嫌がらせされたりするんだよ?」
「っ、大丈夫やって。今の貴族はどっちか言えば、実戦主義。恋する青春より、一緒にスポーツする青春しかあらへんって」
「反則いっぱいしそうだよね」
「信用あらへんのな……」
悠にとって、貴族は不正や反則ばかりするものらしい。確かに、他力本願な所がまだまだ見られる。かなりヘルナ達によって厳しく親世代は指導を受けたが、子ども達にはまだ浸透していない。そこはまだ不安なところだ。
「とにかく、まあ、行ってみるで!」
「リン。子ども相手に、本気になるんじゃないぞ」
「リン様。口で負かすのは大丈夫ですからね?」
「リンちゃん! 加減は大事だけど、勘違いヤロウの心はきっちり折らないとダメだよ!」
「……なんで喧嘩売られるの前提やねん……」
揉める事前提で送り出されるというのも可笑しいだろうと思いながらも、リンディエールは学園へと転移門で移動した。
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