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14th ステージ
153 別に悪くはない
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ヒストリアとウィストラ王都地下にある迷宮にやってきたリンディエールは、先ずはと宣言する。
「ヒーちゃんが居るんやし、何があっても大丈夫やろ! 時間も気にせんでええしな! 今回は隠し部屋までしっかり見て回るで!」
ヒストリアが保護者枠として居るので、何日か帰らなくても心配されないだろうとの目論見だ。
「なんだ? リンならそこも全部把握済みだと思ったんだが?」
意外だとヒストリアは、低い位置にあるリンディエールの頭を見下ろす。
「ウチも、隠し部屋がモンスターハウスなんやったら、全部開けてんで?」
ちょっと機嫌悪げにむくれながら、ヒストリアを見上げるリンディエール。これにヒストリアは首を傾げて見せた。
「モンスターハウスじゃないのか。隠し部屋なのに?」
「せや。隠し部屋なのにモンスターハウスやないねん」
期待は裏切られたのだと、リンディエールは鼻を鳴らす。
「皇国の三層までで確認したんよ。その後も、目についた分は見たんやけど、全部モンスターハウスやなくて、謎解き系やってん」
「パズルとか、脱出系のギミック?」
「せやねん……無駄に時間がかかりおる。それも、解いた報酬はここの施設らしゅうて……ほれ」
「ん? なんだ? カード? 何のカードだ?」
リンディエールが、イケメンなホストや若い社長さんがやりそうな、指二本で挟んでカードを見せる。
「隠し部屋に初めて入ると一枚もらえるんよ。なんや、スタンプラリーみたいな感じで、ポイントが貯まるみたいでなあ」
「ん~?」
ヒストリアはカードを受け取って確認する。カードの片面にはマークが二段並んでいる。
「このマークが施設ってことか?」
「せやねん。左上から右に【厨房】【食堂】【寝室】【風呂】二段目が【トイレ】【公園】【図書室】【店舗】らしいわ」
「……意味がわからん……結局どうなるんだ?」
「皇国でもやりきってえへんから、どうなるんか謎のままや」
「……聞いてみたらどうだ?」
「なるほど……」
神に聞いてみれば良かったのだとリンディエールは今更ながらに気付いた。
「とりあえず聞いてみてくれ。その間、俺は調整も兼ねて肩慣らしする」
「お~、気張りや~」
ヒストリアは、この階層を少し回るということになった。その間、リンディエールは安全な階段の所で待機だ。
十階層毎のボスを倒すと、そこまでの十層に出た魔獣は居なくなる仕様の迷宮らしく、現在、三十階層までリンディエールが攻略を済ませたため、三十一階層からのスタートとなる。
「リンもこの階層は初なんだよな? マッピングしとくわ」
「よろ~」
背を向けて歩き出しながら、手を振ってヒストリアは進んで行った。
「さてと。これの確認だけはウチしか出来ひんからなあ」
神に直接確認できるのは、リンディエールしかいない。
そうして問い合わせた所、リンディエールは手を組み、足に両肘をつき、額で頭を支えて俯いてしまっている。
肩慣らしから戻って来たヒストリアが、何事かと思わず恐る恐る声をかけた。
「何だ……? 何かとんでもない事でも言われたのか……?」
これに、ゆっくりとリンディエールは頭を上げた。その表情はなんだか煤けていた。十代に入ったばかりの子どもができる表情ではない。
「あ~、ヒーちゃん……心配せんといて……ちょい果てしない愚痴に付き合わされただけや……」
「そ、そうか……それで? 隠し部屋の謎は解けたのか?」
ここは気持ちを切り替えさせるためにもと問いかけるヒストリア。そんな意図を察してかは分からないが、リンディエールはふうと息を一つ吐いてから答えた。
「なんや、ラスボス倒してからしか効果が出えへんらしいわ。だから、ボスまで倒して、全部の階層で魔獣が消えてから、改めて隠し部屋を回った方がええんやと。それも、なんやったらそれこそスタンプラリー感覚で、人海戦術を使った方がええらしい」
「ほお……気になるが……まあ、ボスまでは楽しめるんだ。それで良いだろ」
「せやな。隠し部屋探したりする意識も全部、殲滅する方に向けられるで、構わんわ。ただ……なんや完全攻略にならへんのが気持ちよおないけどなあ」
歩いていない場所があるのに次の階層に行くというのは、リンディエール的には気持ち悪いのだ。
「リンは意外と、最初から全部丁寧に穴埋めしたい派なんだな……」
「意外とはなんやねん。どこが意外やねん」
心外だとリンディエールはむくれて見せる。だが、ヒストリアは当然の事だというように告げた。
「大雑把な所があるだろ。感覚派だし」
「……脳筋や言いたいん?」
「……筋肉ないけどな」
ヒストリアは一拍置いて、リンディエールの姿を改めて確認してから断言した。これに、お約束だというように大きな声を上げるリンディエール。
「ぺったんこのチビたんで悪かったなあっ」
「いや、ぺったんこなのもチビたんなのも可愛いから別に悪くはない」
「……」
真面目な顔で返され、リンディエールは言葉を失う。
「ん?」
どうしたのかと首を傾げて見せるヒストリア。この人は本当にとリンディエールは内心頭を抱えた。天然だなと思うしかない。
「ヒーちゃんのそういうとこ……好きやわ」
「……そ、そうか……っ」
好きという言葉に素直に反応して照れるヒストリアを見て、リンディエールはほっとする。
「……ツンデレほどキュンとはけえへんけど、ほっこりできるんはええなあ」
これを独り占めかと思えば、どんな不満も吹き飛ぶわと笑って片手で拳を握る。それを振り上げて気合いを入れた。
「そんじゃっ、ボスに向かって出発や!!」
「おおっ!」
ノリも良くリンディエールとヒストリアは次の階層に向かって歩き出した。
こうして百階層あったこの迷宮は、三日と経たずに攻略されたのだ。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
「ヒーちゃんが居るんやし、何があっても大丈夫やろ! 時間も気にせんでええしな! 今回は隠し部屋までしっかり見て回るで!」
ヒストリアが保護者枠として居るので、何日か帰らなくても心配されないだろうとの目論見だ。
「なんだ? リンならそこも全部把握済みだと思ったんだが?」
意外だとヒストリアは、低い位置にあるリンディエールの頭を見下ろす。
「ウチも、隠し部屋がモンスターハウスなんやったら、全部開けてんで?」
ちょっと機嫌悪げにむくれながら、ヒストリアを見上げるリンディエール。これにヒストリアは首を傾げて見せた。
「モンスターハウスじゃないのか。隠し部屋なのに?」
「せや。隠し部屋なのにモンスターハウスやないねん」
期待は裏切られたのだと、リンディエールは鼻を鳴らす。
「皇国の三層までで確認したんよ。その後も、目についた分は見たんやけど、全部モンスターハウスやなくて、謎解き系やってん」
「パズルとか、脱出系のギミック?」
「せやねん……無駄に時間がかかりおる。それも、解いた報酬はここの施設らしゅうて……ほれ」
「ん? なんだ? カード? 何のカードだ?」
リンディエールが、イケメンなホストや若い社長さんがやりそうな、指二本で挟んでカードを見せる。
「隠し部屋に初めて入ると一枚もらえるんよ。なんや、スタンプラリーみたいな感じで、ポイントが貯まるみたいでなあ」
「ん~?」
ヒストリアはカードを受け取って確認する。カードの片面にはマークが二段並んでいる。
「このマークが施設ってことか?」
「せやねん。左上から右に【厨房】【食堂】【寝室】【風呂】二段目が【トイレ】【公園】【図書室】【店舗】らしいわ」
「……意味がわからん……結局どうなるんだ?」
「皇国でもやりきってえへんから、どうなるんか謎のままや」
「……聞いてみたらどうだ?」
「なるほど……」
神に聞いてみれば良かったのだとリンディエールは今更ながらに気付いた。
「とりあえず聞いてみてくれ。その間、俺は調整も兼ねて肩慣らしする」
「お~、気張りや~」
ヒストリアは、この階層を少し回るということになった。その間、リンディエールは安全な階段の所で待機だ。
十階層毎のボスを倒すと、そこまでの十層に出た魔獣は居なくなる仕様の迷宮らしく、現在、三十階層までリンディエールが攻略を済ませたため、三十一階層からのスタートとなる。
「リンもこの階層は初なんだよな? マッピングしとくわ」
「よろ~」
背を向けて歩き出しながら、手を振ってヒストリアは進んで行った。
「さてと。これの確認だけはウチしか出来ひんからなあ」
神に直接確認できるのは、リンディエールしかいない。
そうして問い合わせた所、リンディエールは手を組み、足に両肘をつき、額で頭を支えて俯いてしまっている。
肩慣らしから戻って来たヒストリアが、何事かと思わず恐る恐る声をかけた。
「何だ……? 何かとんでもない事でも言われたのか……?」
これに、ゆっくりとリンディエールは頭を上げた。その表情はなんだか煤けていた。十代に入ったばかりの子どもができる表情ではない。
「あ~、ヒーちゃん……心配せんといて……ちょい果てしない愚痴に付き合わされただけや……」
「そ、そうか……それで? 隠し部屋の謎は解けたのか?」
ここは気持ちを切り替えさせるためにもと問いかけるヒストリア。そんな意図を察してかは分からないが、リンディエールはふうと息を一つ吐いてから答えた。
「なんや、ラスボス倒してからしか効果が出えへんらしいわ。だから、ボスまで倒して、全部の階層で魔獣が消えてから、改めて隠し部屋を回った方がええんやと。それも、なんやったらそれこそスタンプラリー感覚で、人海戦術を使った方がええらしい」
「ほお……気になるが……まあ、ボスまでは楽しめるんだ。それで良いだろ」
「せやな。隠し部屋探したりする意識も全部、殲滅する方に向けられるで、構わんわ。ただ……なんや完全攻略にならへんのが気持ちよおないけどなあ」
歩いていない場所があるのに次の階層に行くというのは、リンディエール的には気持ち悪いのだ。
「リンは意外と、最初から全部丁寧に穴埋めしたい派なんだな……」
「意外とはなんやねん。どこが意外やねん」
心外だとリンディエールはむくれて見せる。だが、ヒストリアは当然の事だというように告げた。
「大雑把な所があるだろ。感覚派だし」
「……脳筋や言いたいん?」
「……筋肉ないけどな」
ヒストリアは一拍置いて、リンディエールの姿を改めて確認してから断言した。これに、お約束だというように大きな声を上げるリンディエール。
「ぺったんこのチビたんで悪かったなあっ」
「いや、ぺったんこなのもチビたんなのも可愛いから別に悪くはない」
「……」
真面目な顔で返され、リンディエールは言葉を失う。
「ん?」
どうしたのかと首を傾げて見せるヒストリア。この人は本当にとリンディエールは内心頭を抱えた。天然だなと思うしかない。
「ヒーちゃんのそういうとこ……好きやわ」
「……そ、そうか……っ」
好きという言葉に素直に反応して照れるヒストリアを見て、リンディエールはほっとする。
「……ツンデレほどキュンとはけえへんけど、ほっこりできるんはええなあ」
これを独り占めかと思えば、どんな不満も吹き飛ぶわと笑って片手で拳を握る。それを振り上げて気合いを入れた。
「そんじゃっ、ボスに向かって出発や!!」
「おおっ!」
ノリも良くリンディエールとヒストリアは次の階層に向かって歩き出した。
こうして百階層あったこの迷宮は、三日と経たずに攻略されたのだ。
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