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13th ステージ
141 照れるわっ
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この時代のこの大陸では、竜人族に出会ったことのある人はほぼ居ない。
王侯貴族であっても、その存在は伝説上のものではないかという認識。
よって、初めて見るドラゴンの姿に、目を丸くして微動だにしなくなるのは仕方がない。自分たちは踏み潰されてしまう可能性があるほど大きな存在であり、生態も分からないのだ。
身を守るための防衛本能として、誰もが目を離すことを恐れていた。
それを分かってはいるが、リンディエールにとってヒストリアは誰よりも大事な親友だ。それも、固まっているのは、こちらもリンディエールの友人達。警戒し続けてほしくはない。
なので、いつもの調子で声をかける。
「ちょいちょいっ。瞬きせんと、目が乾くやん。替えのきかん二つしかない目や。大事にせんと」
「「「「「っ……………いやいやいやいやっ」」」」」
それを指摘されるとは思っていなかったため、止まっていた思考が動き出したらしい。固定されていた首も動き、リンディエールの方を揃って見た。
王子達まで、しっかり反応を返したのには、リンディエールも少し感動する。
「ええツッコミやんっ。その調子で頼むで~♪」
「「「「「……はあ…………」」」」」
程よく肩の力も抜けたらしい。
そこで、こちらで先に来てお茶会をしていた面々が、飲食スペースから声をかける。
「あら~あ、懐かしいっ。久しぶりだわっ」
「おーいっ。バーグナーっ!」
ヘルナとファルビーラが椅子から立ち上がって、手を振りながら駆けてくる。
これを見て、バーグナー王も再会に喜ぶ。
「おおっ。ヘルナにファルっ。何年振りだっ? っていうか、お前ら変わってないなあ。ん? なんでファルは足があるんだ? おかしいだろっ。俺が斬ったんだぞ!?」
「「あ……」」
ファルビーラは二十数年前、古傷が化膿し治療が上手くいかず足を斬るしかなかった。その時、調子の悪かったファルビーラを見舞ったバーグナー王に斬ってもらったと後で聞く事になる。
「あ……っ、じゃねえのよ! あんな嫌な思いさせといてっ。説明しやがれ!」
「「え~……」」
「その顔っ。その嫌そうな顔っ。面倒くさっていう顔っ。懐かしっ! 二人揃って同じ顔するとこっ。相変わらずだな!!」
「あら。やだわ~。若い時のまま変わらないだなんてっ」
「相変わらず仲が良いとか照れるぜ……」
誤魔化しにかかっていた。そして、これもいつも通りなのだろう。バーグナー王が地団駄を踏む。
「そうじゃねえのよっ! 褒めてないっ。良いとも思ってねえの! 誤魔化されんからな!? 説明しろっ!」
「「え~……」」
「だからその顔やめろってのっ」
二対一では負けるようだ。
リンディエールはこれを見て物欲しそうな顔をする。
「なんやこの楽しいやり取りっ。めちゃくちゃ羨ましっ!」
《……リンも良くやるだろうに……》
ヒストリアが呆れた様子で指摘する。
「うちは一人で相手するやんかっ。誰かと一緒にやりたいんや!」
《……リンの場合は一人で充分だろ……》
「っ!! そんなっ。うち一人の威力が強いやなんて……っ、照れるわっ」
《うん。言ってない》
「「「「……」」」」
あの祖父母の孫で間違いないと、聞いていた誰もが納得した。
《ヘルナ。ファル。その辺にして、客人をそちらに案内してくれ》
「「は~い」」
「くっ……もうっ、マジで変わってねえっ……ってか、二人が素直に言うこと聞いた!?」
《……それほど驚くことか……》
ヒストリアは本気でバーグナー王に同情した。
そして、これらのやり取りのお陰で、すっかりヒストリアへの警戒は解かれたようだ。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
王侯貴族であっても、その存在は伝説上のものではないかという認識。
よって、初めて見るドラゴンの姿に、目を丸くして微動だにしなくなるのは仕方がない。自分たちは踏み潰されてしまう可能性があるほど大きな存在であり、生態も分からないのだ。
身を守るための防衛本能として、誰もが目を離すことを恐れていた。
それを分かってはいるが、リンディエールにとってヒストリアは誰よりも大事な親友だ。それも、固まっているのは、こちらもリンディエールの友人達。警戒し続けてほしくはない。
なので、いつもの調子で声をかける。
「ちょいちょいっ。瞬きせんと、目が乾くやん。替えのきかん二つしかない目や。大事にせんと」
「「「「「っ……………いやいやいやいやっ」」」」」
それを指摘されるとは思っていなかったため、止まっていた思考が動き出したらしい。固定されていた首も動き、リンディエールの方を揃って見た。
王子達まで、しっかり反応を返したのには、リンディエールも少し感動する。
「ええツッコミやんっ。その調子で頼むで~♪」
「「「「「……はあ…………」」」」」
程よく肩の力も抜けたらしい。
そこで、こちらで先に来てお茶会をしていた面々が、飲食スペースから声をかける。
「あら~あ、懐かしいっ。久しぶりだわっ」
「おーいっ。バーグナーっ!」
ヘルナとファルビーラが椅子から立ち上がって、手を振りながら駆けてくる。
これを見て、バーグナー王も再会に喜ぶ。
「おおっ。ヘルナにファルっ。何年振りだっ? っていうか、お前ら変わってないなあ。ん? なんでファルは足があるんだ? おかしいだろっ。俺が斬ったんだぞ!?」
「「あ……」」
ファルビーラは二十数年前、古傷が化膿し治療が上手くいかず足を斬るしかなかった。その時、調子の悪かったファルビーラを見舞ったバーグナー王に斬ってもらったと後で聞く事になる。
「あ……っ、じゃねえのよ! あんな嫌な思いさせといてっ。説明しやがれ!」
「「え~……」」
「その顔っ。その嫌そうな顔っ。面倒くさっていう顔っ。懐かしっ! 二人揃って同じ顔するとこっ。相変わらずだな!!」
「あら。やだわ~。若い時のまま変わらないだなんてっ」
「相変わらず仲が良いとか照れるぜ……」
誤魔化しにかかっていた。そして、これもいつも通りなのだろう。バーグナー王が地団駄を踏む。
「そうじゃねえのよっ! 褒めてないっ。良いとも思ってねえの! 誤魔化されんからな!? 説明しろっ!」
「「え~……」」
「だからその顔やめろってのっ」
二対一では負けるようだ。
リンディエールはこれを見て物欲しそうな顔をする。
「なんやこの楽しいやり取りっ。めちゃくちゃ羨ましっ!」
《……リンも良くやるだろうに……》
ヒストリアが呆れた様子で指摘する。
「うちは一人で相手するやんかっ。誰かと一緒にやりたいんや!」
《……リンの場合は一人で充分だろ……》
「っ!! そんなっ。うち一人の威力が強いやなんて……っ、照れるわっ」
《うん。言ってない》
「「「「……」」」」
あの祖父母の孫で間違いないと、聞いていた誰もが納得した。
《ヘルナ。ファル。その辺にして、客人をそちらに案内してくれ》
「「は~い」」
「くっ……もうっ、マジで変わってねえっ……ってか、二人が素直に言うこと聞いた!?」
《……それほど驚くことか……》
ヒストリアは本気でバーグナー王に同情した。
そして、これらのやり取りのお陰で、すっかりヒストリアへの警戒は解かれたようだ。
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