114 / 181
11th ステージ
114 黙りなさい!
しおりを挟む
リンディエールは講堂に来ると、ここには来たこともないのに、思わず笑った。
「いや~あ、懐かしなあ~っ」
前世での体育館や講堂と見た目が同じだったのだ。
ざわざわと落ち着きない雑談の声が聞こえるため、興奮しながらも声を抑えれば生徒達には聞こえない。
「どこの世界も、学校の講堂は一緒かいっ。嬉しいやないのっ」
舞台があって、この上に演説者や司会の立つ演台がある。その演台の前面には、校章が描かれていた。
それを見て、リンディエールは少しだけ違和感を覚えた。
「わざわざ校章が描かれとるとかっ。カッコええなあ。けど、なんやろ……何かが気になったんやけど……まあ、ええかっ」
今は重要ではないだろうと直感し、頭の隅に追いやる。
「ふふふ。リン嬢はいつでも楽しそうですね」
「面倒な事とか嫌な事の前は、とりあえず勢いつけることにしとんねん。そのまま駆け抜けるんが吉や!」
「なるほど。参考にさせてもらいます」
「いや……未来の王様は、慎重さを持って欲しいねんけど……」
これはあくまで一般人の対応として聞いてほしいものだ。
マルクレースはクスクスと笑いながら手を差し出した。
「さあ、行きましょう。ここでリン嬢の紹介をしてしまった方が面白っ……やりやすそうですから」
「……そこまで言うたら、面白そうやって最後まで言いや」
「ふふっ。失礼しました。ついリン嬢の前では楽しくなってしまって」
「ええけどな……」
どうも、リンディエールと一緒にハメを外したがる人が最近多くなってきているようだった。
舞台袖に入ると、学園長がどう切り出そうかと悩んでいる様子だった。それはマルクレースも見越していたのだ。
「学園長。私に任せていただけませんか? 生徒総会としてしまえば、問題はないでしょう」
「あ、ああ……では、お願いする」
「お任せください。リン嬢。先ほどの映像を使わせていただくかもしれませんが」
「構いませんよ」
学園長達が居るため、リンディエールは口調を変えた。それに気付いてマルクレースやスレインが微笑ましそうに見つめてくるが、気にしたら負けと、何でもないように続ける。
「では、こちらをどうぞ。既に映像を流せる魔導具にセットしてありますので、あとは、この記憶玉に魔力を少し流すだけです」
「では、そちらは私が」
スレインが受け取った。
「では、始めましょう」
マルクレースとスレインが舞台に姿を現すと、ざわめきが一気に小さくなる。
「静粛に。これより、緊急の生徒総会を始めさせていただきます」
そうして始まったマルクレースの話。この学園の生徒としてあるまじきものがあったのだと説明する。
「身に覚えのある者は手を挙げてください」
しかし、手が挙がるのは少数だ。やられた貴族の子ども達ではない者も、周りを気にして手を挙げない。
「そうですか……では、証拠をお見せしましょう……これが教室の様子です」
「「「「「っ!!」」」」」
多くの生徒達が顔を青ざめさせた。バレないと思っていたのだろう。誰かが見ただけならば、家の力で口を塞げば良いと思っていたはずだ。
だが、これは映像。音声も入った確かな証拠だった。
「これは、皆さんのご両親にも是非見てもらいたいと思っております」
そうなるだろうとはリンディエールも予想していた。このままにしていては、この学園の意義を失ってしまうのだから。
何より、今だけではないだろう。彼らの父母世代も同じだった可能性がある。だからこそ、民のため、国のためと言っても素直に動けないのだ。
数年後に控えた大氾濫に対応するには、今の考え方ではいけないのだから。
「おっ、お待ちください!! これはっ、この日たまたま起きたことです!」
「そうです! わたくしも、いつもこんな事を言っているわけではありませんわっ」
「たまたま、今日はそれが目に付いたから、注意をっ。注意をしたのです!」
言い訳合戦が始まった。
舞台袖で見ていたリンディエールは、マルクレースとスレインが今にもブチギレそうになっているのが分かった。
「うわ~、これは……まったくあかんな。ほれ、よお見てみい。言い訳するんは、みっともないやろ? 『人の振り見て我が振り直せ』言う言葉があんねん。きちんと覚えときい」
「……はい……っ」
「「「……っ」」」
「「っ……」」
生徒会のメンバーだけでなく、学園長や副学長も胸を押さえた。反省しているようだ。
一方、マルクレースとスレインは我慢の限界が来ていた。
「ッ、黙りなさい!! どこまで恥を晒すつもりだ!! この学園に通う意味も理解していないのが良く分かった!」
「Aクラスの者も、他人事ではありませんよ。その様子からすると、一部の者たちは該当するでしょう。授業の時は、私や殿下が居るからと、意識しているだけのようですね」
「っ、そ、それはっ……」
「も、申し訳ありません……っ」
優等生クラスと思いきや、全部がそうとは限らないようだ。
「まあ、反省するだけ良さそうやな」
どんどんヒートアップしていくのを耳半分で聞き流しながら、落ち着くのを待つことにした。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
また来週です。
よろしくお願いします!
「いや~あ、懐かしなあ~っ」
前世での体育館や講堂と見た目が同じだったのだ。
ざわざわと落ち着きない雑談の声が聞こえるため、興奮しながらも声を抑えれば生徒達には聞こえない。
「どこの世界も、学校の講堂は一緒かいっ。嬉しいやないのっ」
舞台があって、この上に演説者や司会の立つ演台がある。その演台の前面には、校章が描かれていた。
それを見て、リンディエールは少しだけ違和感を覚えた。
「わざわざ校章が描かれとるとかっ。カッコええなあ。けど、なんやろ……何かが気になったんやけど……まあ、ええかっ」
今は重要ではないだろうと直感し、頭の隅に追いやる。
「ふふふ。リン嬢はいつでも楽しそうですね」
「面倒な事とか嫌な事の前は、とりあえず勢いつけることにしとんねん。そのまま駆け抜けるんが吉や!」
「なるほど。参考にさせてもらいます」
「いや……未来の王様は、慎重さを持って欲しいねんけど……」
これはあくまで一般人の対応として聞いてほしいものだ。
マルクレースはクスクスと笑いながら手を差し出した。
「さあ、行きましょう。ここでリン嬢の紹介をしてしまった方が面白っ……やりやすそうですから」
「……そこまで言うたら、面白そうやって最後まで言いや」
「ふふっ。失礼しました。ついリン嬢の前では楽しくなってしまって」
「ええけどな……」
どうも、リンディエールと一緒にハメを外したがる人が最近多くなってきているようだった。
舞台袖に入ると、学園長がどう切り出そうかと悩んでいる様子だった。それはマルクレースも見越していたのだ。
「学園長。私に任せていただけませんか? 生徒総会としてしまえば、問題はないでしょう」
「あ、ああ……では、お願いする」
「お任せください。リン嬢。先ほどの映像を使わせていただくかもしれませんが」
「構いませんよ」
学園長達が居るため、リンディエールは口調を変えた。それに気付いてマルクレースやスレインが微笑ましそうに見つめてくるが、気にしたら負けと、何でもないように続ける。
「では、こちらをどうぞ。既に映像を流せる魔導具にセットしてありますので、あとは、この記憶玉に魔力を少し流すだけです」
「では、そちらは私が」
スレインが受け取った。
「では、始めましょう」
マルクレースとスレインが舞台に姿を現すと、ざわめきが一気に小さくなる。
「静粛に。これより、緊急の生徒総会を始めさせていただきます」
そうして始まったマルクレースの話。この学園の生徒としてあるまじきものがあったのだと説明する。
「身に覚えのある者は手を挙げてください」
しかし、手が挙がるのは少数だ。やられた貴族の子ども達ではない者も、周りを気にして手を挙げない。
「そうですか……では、証拠をお見せしましょう……これが教室の様子です」
「「「「「っ!!」」」」」
多くの生徒達が顔を青ざめさせた。バレないと思っていたのだろう。誰かが見ただけならば、家の力で口を塞げば良いと思っていたはずだ。
だが、これは映像。音声も入った確かな証拠だった。
「これは、皆さんのご両親にも是非見てもらいたいと思っております」
そうなるだろうとはリンディエールも予想していた。このままにしていては、この学園の意義を失ってしまうのだから。
何より、今だけではないだろう。彼らの父母世代も同じだった可能性がある。だからこそ、民のため、国のためと言っても素直に動けないのだ。
数年後に控えた大氾濫に対応するには、今の考え方ではいけないのだから。
「おっ、お待ちください!! これはっ、この日たまたま起きたことです!」
「そうです! わたくしも、いつもこんな事を言っているわけではありませんわっ」
「たまたま、今日はそれが目に付いたから、注意をっ。注意をしたのです!」
言い訳合戦が始まった。
舞台袖で見ていたリンディエールは、マルクレースとスレインが今にもブチギレそうになっているのが分かった。
「うわ~、これは……まったくあかんな。ほれ、よお見てみい。言い訳するんは、みっともないやろ? 『人の振り見て我が振り直せ』言う言葉があんねん。きちんと覚えときい」
「……はい……っ」
「「「……っ」」」
「「っ……」」
生徒会のメンバーだけでなく、学園長や副学長も胸を押さえた。反省しているようだ。
一方、マルクレースとスレインは我慢の限界が来ていた。
「ッ、黙りなさい!! どこまで恥を晒すつもりだ!! この学園に通う意味も理解していないのが良く分かった!」
「Aクラスの者も、他人事ではありませんよ。その様子からすると、一部の者たちは該当するでしょう。授業の時は、私や殿下が居るからと、意識しているだけのようですね」
「っ、そ、それはっ……」
「も、申し訳ありません……っ」
優等生クラスと思いきや、全部がそうとは限らないようだ。
「まあ、反省するだけ良さそうやな」
どんどんヒートアップしていくのを耳半分で聞き流しながら、落ち着くのを待つことにした。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
また来週です。
よろしくお願いします!
160
お気に入りに追加
2,404
あなたにおすすめの小説
成人したのであなたから卒業させていただきます。
ぽんぽこ狸
恋愛
フィオナはデビュタント用に仕立てた可愛いドレスを婚約者であるメルヴィンに見せた。
すると彼は、とても怒った顔をしてフィオナのドレスを引き裂いた。
メルヴィンは自由に仕立てていいとは言ったが、それは流行にのっとった範囲でなのだから、こんなドレスは着させられないという事を言う。
しかしフィオナから見れば若い令嬢たちは皆愛らしい色合いのドレスに身を包んでいるし、彼の言葉に正当性を感じない。
それでも子供なのだから言う事を聞けと年上の彼に言われてしまうとこれ以上文句も言えない、そんな鬱屈とした気持ちを抱えていた。
そんな中、ある日、王宮でのお茶会で変わり者の王子に出会い、その素直な言葉に、フィオナの価値観はがらりと変わっていくのだった。
変わり者の王子と大人になりたい主人公のお話です。
結婚記念日をスルーされたので、離婚しても良いですか?
秋月一花
恋愛
本日、結婚記念日を迎えた。三周年のお祝いに、料理長が腕を振るってくれた。私は夫であるマハロを待っていた。……いつまで経っても帰ってこない、彼を。
……結婚記念日を過ぎてから帰って来た彼は、私との結婚記念日を覚えていないようだった。身体が弱いという幼馴染の見舞いに行って、そのまま食事をして戻って来たみたいだ。
彼と結婚してからずっとそう。私がデートをしてみたい、と言えば了承してくれるものの、当日幼馴染の女性が体調を崩して「後で埋め合わせするから」と彼女の元へ向かってしまう。埋め合わせなんて、この三年一度もされたことがありませんが?
もう我慢の限界というものです。
「離婚してください」
「一体何を言っているんだ、君は……そんなこと、出来るはずないだろう?」
白い結婚のため、可能ですよ? 知らないのですか?
あなたと離婚して、私は第二の人生を歩みます。
※カクヨム様にも投稿しています。
正妃である私を追い出し、王子は平民の女性と結婚してしまいました。…ですが、後になって後悔してももう遅いですよ?
久遠りも
恋愛
正妃である私を追い出し、王子は平民の女性と結婚してしまいました。…ですが、後になって後悔してももう遅いですよ?
※一話完結です。
ゆるゆる設定です。
完】異端の治癒能力を持つ令嬢は婚約破棄をされ、王宮の侍女として静かに暮らす事を望んだ。なのに!王子、私は侍女ですよ!言い寄られたら困ります!
仰木 あん
恋愛
マリアはエネローワ王国のライオネル伯爵の長女である。
ある日、婚約者のハルト=リッチに呼び出され、婚約破棄を告げられる。
理由はマリアの義理の妹、ソフィアに心変わりしたからだそうだ。
ハルトとソフィアは互いに惹かれ、『真実の愛』に気付いたとのこと…。
マリアは色々な物を継母の連れ子である、ソフィアに奪われてきたが、今度は婚約者か…と、気落ちをして、実家に帰る。
自室にて、過去の母の言葉を思い出す。
マリアには、王国において、異端とされるドルイダスの異能があり、強力な治癒能力で、人を癒すことが出来る事を…
しかしそれは、この国では迫害される恐れがあるため、内緒にするようにと強く言われていた。
そんな母が亡くなり、継母がソフィアを連れて屋敷に入ると、マリアの生活は一変した。
ハルトという婚約者を得て、家を折角出たのに、この始末……。
マリアは父親に願い出る。
家族に邪魔されず、一人で静かに王宮の侍女として働いて生きるため、再び家を出るのだが………
この話はフィクションです。
名前等は実際のものとなんら関係はありません。
夫の隠し子を見付けたので、溺愛してみた。
辺野夏子
恋愛
セファイア王国王女アリエノールは八歳の時、王命を受けエメレット伯爵家に嫁いだ。それから十年、ずっと仮面夫婦のままだ。アリエノールは先天性の病のため、残りの寿命はあとわずか。日々を穏やかに過ごしているけれど、このままでは生きた証がないまま短い命を散らしてしまう。そんなある日、アリエノールの元に一人の子供が現れた。夫であるカシウスに生き写しな見た目の子供は「この家の子供になりにきた」と宣言する。これは夫の隠し子に間違いないと、アリエノールは継母としてその子を育てることにするのだが……堅物で不器用な夫と、余命わずかで卑屈になっていた妻がお互いの真実に気が付くまでの話。
兄を溺愛する母に捨てられたので私は家族を捨てる事にします!
ユウ
恋愛
幼い頃から兄を溺愛する母。
自由奔放で独身貴族を貫いていた兄がようやく結婚を決めた。
しかし、兄の結婚で全てが崩壊する事になった。
「今すぐこの邸から出て行ってくれる?遺産相続も放棄して」
「は?」
母の我儘に振り回され同居し世話をして来たのに理不尽な理由で邸から追い出されることになったマリーは自分勝手な母に愛想が尽きた。
「もう縁を切ろう」
「マリー」
家族は夫だけだと思い領地を離れることにしたそんな中。
義母から同居を願い出られることになり、マリー達は義母の元に身を寄せることになった。
対するマリーの母は念願の新生活と思いきや、思ったように進まず新たな嫁はびっくり箱のような人物で生活にも支障が起きた事でマリーを呼び戻そうとするも。
「無理ですわ。王都から領地まで遠すぎます」
都合の良い時だけ利用する母に愛情はない。
「お兄様にお任せします」
実母よりも大事にしてくれる義母と夫を優先しすることにしたのだった。
勘当された悪役令嬢は平民になって幸せに暮らしていたのになぜか人生をやり直しさせられる
千環
恋愛
第三王子の婚約者であった侯爵令嬢アドリアーナだが、第三王子が想いを寄せる男爵令嬢を害した罪で婚約破棄を言い渡されたことによりスタングロム侯爵家から勘当され、平民アニーとして生きることとなった。
なんとか日々を過ごす内に12年の歳月が流れ、ある時出会った10歳年上の平民アレクと結ばれて、可愛い娘チェルシーを授かり、とても幸せに暮らしていたのだが……道に飛び出して馬車に轢かれそうになった娘を庇おうとしたアニーは気付けば6歳のアドリアーナに戻っていた。
策が咲く〜死刑囚の王女と騎士の生存戦略〜
鋸鎚のこ
ファンタジー
亡国の王女シロンは、死刑囚鉱山へと送り込まれるが、そこで出会ったのは隣国の英雄騎士デュフェルだった。二人は運命的な出会いを果たし、力を合わせて大胆な脱獄劇を成功させる。
だが、自由を手に入れたその先に待っていたのは、策略渦巻く戦場と王宮の陰謀。「生き抜くためなら手段を選ばない」智略の天才・シロンと、「一騎当千の強さで戦局を変える」勇猛な武将・デュフェル。異なる資質を持つ二人が協力し、国家の未来を左右する大逆転を仕掛ける。
これは、互いに背中を預けながら、戦乱の世を生き抜く王女と騎士の生存戦略譚である。
※この作品はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。
※本編完結・番外編を不定期投稿のため、完結とさせていただきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる