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9th ステージ
094 先に一つだけ
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教会の中に、司教達が駆け込んで行くのが見えた。リンディエールは、彼らの動きをしっかり把握しておく。
「さあ、渡してもらいましょうか」
この声は、教会内の者たちにも聞こえるように魔法で届けている。先ほどの演説も全てだ。
物を裏から持ち出そうとしているらしく、先程から、すぐに運び出せる物は、移動し始めていた。
明らかに、こちらに持ってくる気はないようだ。
「少しだけ待ちますわ。ああ、でも、先に一つだけ……」
そう言って、手にした扇を閉じ天野悠が居る塔へと先を向ける。そこから光の帯が伸びた。鞭のようにして、それを塔に突き刺して大きな穴を開ける。
崩れた壁の向こう側には、天野悠が教会から支給された服ではなく、召喚された時に着ていた制服を着て、この時を待っていた。
再び光の帯を塔へ伸ばし、塔へと巻き付ける。そして、それを固定すると、リンディエールは、扇からその光の帯を切り離す。すると、その先はゆっくりと降下し、リンディエールの立つ場所の脇にくっ付いた。
「広がれ」
その声に応えるように、光の帯が横に広がり、人が一人余裕で歩いてこられるくらいの幅ができた。
よって、塔からこの場までの光の道が出来上がったのだ。
「【召喚された異世界の少女】は先にお預かりしますわ。さあ、悠。こちらへ」
「うん!」
悠はさすがは運動部というか、思い切りの良い性格もあるだろうが、バランス良く怖がりもせずに光の帯の上を早足で歩いて来た。
その時、必死に塔の階段を駆け上がって来たのだろう。三人の神官達が息を上げながら、穴の空いた塔の壁を見て目を丸くする。そして、あっと口を開けて、そこに駆け寄ってくる。
「はっ……タヌキの取り巻きか。ご苦労様やな~」
小さく笑いながら呟きながら、リンディエールは、穴を結界で塞いでやる。よって、彼らは透明の壁に、思いっきり顔をぶつけていた。玉突き事故を起こし、三人揃って鼻を押さえて膝を突く様子を見て、思わず指差して爆笑する所だった。
代わりに悠が振り返って指を差し、爆笑した。
「あははっ! ざまぁみろ! あんた達の思い通りになんてなってやらないんだから!」
「……溜まっとんなあ……」
地味にストレスが溜まっていたらしい。確かに、少し待たせてしまったので、分からないでもない。
「あ、ごめん。お待たせ」
悠は笑いながらも軽やかに残りの距離を進み、リンディエールの隣に到着する。
「ふふっ。では、それも外しましょう」
「お願いします!」
隷属の腕輪は、既に効果が反転しているので、普通に外ずれた。それを掲げながら住民達に教える。
「これは【隷属の腕輪】です。無効化しましたので外れましたが、これによって、彼女を意のままに操ろうとしたのは間違いありません」
これに続けるように、悠も下に集まる人々に向けて告白する。
「私は何度も言った。帰してくれって。その答えは、何度聞いても『出来ない』『神がこの世界に落とした』って言われた。『神に誓って』って言いながら、嘘を教えたんだ! その上、『力を抑えるための御守りだ』って言って、コレを着けられたんだ! あんた達だって騙されてるんだ! ここの奴らは、神さまの威を借りて、好き勝手してる腐った奴らだよ!」
はっきり言ったなとリンディエールは『おやおや』と笑いそうになる顔を扇を開いて隠した。
真っ直ぐで素直な言葉。清々しいなと思ってしまう。
「そう……正しいことだと……神の意思だと信じているのならばそれも良い。ですが……今のように、遺物を必死でこの場から運び出そうとしているのは、いけない事だと分かっているからでしょう?」
クスクスと笑って見せると、住民達がざわつき出す。司教達が居なくなっていることに気づいたのだろう。それは、非を認めて、足掻こうとしている証だ。
「隠そうとしてるのは……おかしいよな」
「確かに、なんかミサの後って、変な感じしたんだよな……」
「なあ、なんで聖女様を発表しなかったんだ? 普通、すぐ発表するよな? 聖女様だもん」
「そういえば……教皇様を最近、お見かけしないわよね……」
「あの子の言ったことが全部本当なら……教会ってなんなんだよ……」
「偉そうな貴族より質悪いよ!」
「騙してたんだ……」
「ふざけんな! 神をなんだと思ってんだよ! それが教会のすることか!」
教会への不信感は、一気に住民の中に広がり、爆発していった。
思わずリンディエールと悠はニヤリの笑いそうになった。計画通りだった。
【覚書】
幸運転化の宝玉
穢れた王冠
召喚の杖
隷属の香石
召喚された異世界の少女(ゲット)
*********
読んでくださりありがとうございます◎
来週の予定です。
よろしくお願いします!
「さあ、渡してもらいましょうか」
この声は、教会内の者たちにも聞こえるように魔法で届けている。先ほどの演説も全てだ。
物を裏から持ち出そうとしているらしく、先程から、すぐに運び出せる物は、移動し始めていた。
明らかに、こちらに持ってくる気はないようだ。
「少しだけ待ちますわ。ああ、でも、先に一つだけ……」
そう言って、手にした扇を閉じ天野悠が居る塔へと先を向ける。そこから光の帯が伸びた。鞭のようにして、それを塔に突き刺して大きな穴を開ける。
崩れた壁の向こう側には、天野悠が教会から支給された服ではなく、召喚された時に着ていた制服を着て、この時を待っていた。
再び光の帯を塔へ伸ばし、塔へと巻き付ける。そして、それを固定すると、リンディエールは、扇からその光の帯を切り離す。すると、その先はゆっくりと降下し、リンディエールの立つ場所の脇にくっ付いた。
「広がれ」
その声に応えるように、光の帯が横に広がり、人が一人余裕で歩いてこられるくらいの幅ができた。
よって、塔からこの場までの光の道が出来上がったのだ。
「【召喚された異世界の少女】は先にお預かりしますわ。さあ、悠。こちらへ」
「うん!」
悠はさすがは運動部というか、思い切りの良い性格もあるだろうが、バランス良く怖がりもせずに光の帯の上を早足で歩いて来た。
その時、必死に塔の階段を駆け上がって来たのだろう。三人の神官達が息を上げながら、穴の空いた塔の壁を見て目を丸くする。そして、あっと口を開けて、そこに駆け寄ってくる。
「はっ……タヌキの取り巻きか。ご苦労様やな~」
小さく笑いながら呟きながら、リンディエールは、穴を結界で塞いでやる。よって、彼らは透明の壁に、思いっきり顔をぶつけていた。玉突き事故を起こし、三人揃って鼻を押さえて膝を突く様子を見て、思わず指差して爆笑する所だった。
代わりに悠が振り返って指を差し、爆笑した。
「あははっ! ざまぁみろ! あんた達の思い通りになんてなってやらないんだから!」
「……溜まっとんなあ……」
地味にストレスが溜まっていたらしい。確かに、少し待たせてしまったので、分からないでもない。
「あ、ごめん。お待たせ」
悠は笑いながらも軽やかに残りの距離を進み、リンディエールの隣に到着する。
「ふふっ。では、それも外しましょう」
「お願いします!」
隷属の腕輪は、既に効果が反転しているので、普通に外ずれた。それを掲げながら住民達に教える。
「これは【隷属の腕輪】です。無効化しましたので外れましたが、これによって、彼女を意のままに操ろうとしたのは間違いありません」
これに続けるように、悠も下に集まる人々に向けて告白する。
「私は何度も言った。帰してくれって。その答えは、何度聞いても『出来ない』『神がこの世界に落とした』って言われた。『神に誓って』って言いながら、嘘を教えたんだ! その上、『力を抑えるための御守りだ』って言って、コレを着けられたんだ! あんた達だって騙されてるんだ! ここの奴らは、神さまの威を借りて、好き勝手してる腐った奴らだよ!」
はっきり言ったなとリンディエールは『おやおや』と笑いそうになる顔を扇を開いて隠した。
真っ直ぐで素直な言葉。清々しいなと思ってしまう。
「そう……正しいことだと……神の意思だと信じているのならばそれも良い。ですが……今のように、遺物を必死でこの場から運び出そうとしているのは、いけない事だと分かっているからでしょう?」
クスクスと笑って見せると、住民達がざわつき出す。司教達が居なくなっていることに気づいたのだろう。それは、非を認めて、足掻こうとしている証だ。
「隠そうとしてるのは……おかしいよな」
「確かに、なんかミサの後って、変な感じしたんだよな……」
「なあ、なんで聖女様を発表しなかったんだ? 普通、すぐ発表するよな? 聖女様だもん」
「そういえば……教皇様を最近、お見かけしないわよね……」
「あの子の言ったことが全部本当なら……教会ってなんなんだよ……」
「偉そうな貴族より質悪いよ!」
「騙してたんだ……」
「ふざけんな! 神をなんだと思ってんだよ! それが教会のすることか!」
教会への不信感は、一気に住民の中に広がり、爆発していった。
思わずリンディエールと悠はニヤリの笑いそうになった。計画通りだった。
【覚書】
幸運転化の宝玉
穢れた王冠
召喚の杖
隷属の香石
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