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7th ステージ
061 好い男過ぎないか?
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クイントがリンディエールを抱き抱えたまま戻ると、そこには王が居た。
「クイント、お前なあ。その締まりの無い顔をどうにかしろ」
「心から反映された表情です。どうにもできません」
「どうにもならないんじゃなく、できないなら出来るだろ!」
「どれだけ貴重なことか分かるでしょう」
「自分で言うな! というか、リン嬢ちゃんを下ろせ」
「え、嫌です」
「……リン嬢ちゃん……」
コイツは自分が言っても聞かねえわと、潔くリンディエールに対応を投げる王はどうかと思う。
「……下ろしい」
「仕方ないですね」
これだけですぐに下ろすのだから、これはもう、王への当て付け以外の何ものでも無いだろう。
「はあ……まったくお前は。暴走し過ぎだろ。あ、リン嬢ちゃん。俺とも踊ろう」
そう言って今度は王が素早くリンディエールを抱き上げた。
「んん? なんでまた抱っこやねん……」
そのツッコミの最中に、王はもう中央に歩き出していた。
「俺が普通に踊ったら、クイントがまた暴走するだろうが」
「……よお分かってはるなあ……さすがや」
「まあ、十歳のガキの頃からの付き合いだからな」
踊り出した王は、リンディエールの表情を見て苦笑する。
「その『苦労するなあ』って顔止めて?」
「すまんです。愛想良くするわ」
「それはそれで、後でクイントに何か言われそうだな」
「ふはっ。どないせえと?」
思わず吹き出した。すると、王も笑う。
「ほんと、あいつは困ったやつだなあ」
「ほんまやで」
周りには次第に緊張が解けたように見えただろう。そして、王に抱きかかえられて踊る令嬢が一体誰なのかと探り出すのが見て取れた。
「話は変わるねんけど、王子と王女はどないしたん? 上の二人、それなりに回復しとるんやろ?」
第一王妃の子で今年十四歳になる第一王子は、リンディエールの情報網によると、ダンスは無理でも、日常生活に不自由のないくらいには回復しているらしい。
一方、第二王妃の子である今年十三歳になる王女も経過としては問題ない。だが、彼女の場合は心のケアが必要だった。
男児ではなかったということで、母親である第二王妃に冷たくあしらわれて育った。第二王子は娘よりもと、第一王妃の次男である第二王子の世話ばかり焼いているのだ。
表向きは、良い王妃だろう。彼女の行動は今までの貴族社会においては、当然の対応だ。長男のことだけで手が回らない第一王妃の代わりにと、次男の世話を買って出ているのだから。
だが、そのせいで更に王女を追い詰めることになったようだ。
「レイシャは酷い人見知りになっているようでな。今回も座っているだけで良いと言ったんだが、部屋からも出て来なかった。第二王妃が説得していたが、直前にやはり無理だと言われたよ」
「それは当たり前やん。アレやろ? 世話する侍女さんらとしか関わってきいひんかったんやろ? 他の家と違うて、兄やから、弟やからと言うてほとんど交流もあらへんし。そこで突然、こんな所へ出るとか無理やわ。寧ろ、無理かもしれへんて、想像でけたことの方がスゴイで」
話には聞いていただろうが、この中にぽつんと突然置かれるのは勇気が要る。それを想像できたんだなと感心した。
「それも、あの第二王妃なら刺さる言葉も吐いとったろうし、傷付きやすい繊細な子に育っとるかもしれんなあ。友達候補は気い付けえよ?」
王女は、第一子であるにも関わらず親である第二王妃に疎まれて育った。ある意味、リンディエールのように完全に放っておかれた方が良かったかもしれない。
「……リン嬢ちゃん……俺より第二王妃とかの現状に詳しくないか?」
「そうかもしれへんなあ。それについて、大スキャンダルを掴んどるんやけど、ここで喋ってもうてもええ?」
「……やめてくれ……このまま別室に行くぞ。今回の最低限の義務は果たしたしな」
王はもうお役御免らしい。あくまでも、今回のお披露目会は子ども達の顔合わせの場だ。リンディエールとフィリクスは侍従と侍女も決まっているので、ここで絶対的に必要な交流も不要だった。このまま抜けても問題はない。
「クイントも連れて行くか……」
「せやな。あ、ウチの侍従と侍女は連れて行くでな」
「嬢ちゃんの侍従と侍女って……アレか? 随分と年上じゃないか? それも、魔族とは……」
目の色、髪の色で魔族と分かる。だが、特に城に入るのも止められることはない。極少数ではあるが、その色が遺伝によって出てくる場合があるのだ。よって、確かな身分証明がされれば、特に咎められることはない。
とはいえ、良い感情は向けられないのだが、グランギリアの洗練された仕草や、見た目の美しさによって、それらが打ち消されていたのだ。
「……好い男過ぎないか? 魔族ってことで、目を逸らされるどころか、女達の視線がかなり向いているんだが?」
「グランは文句なしの好い男や。ウチが出会ったその日に、将来のデートの約束をしてまうほどにな!」
「え……俺とはどうだ?」
「ん? デートか? ウチは不倫はせん主義や」
「……残念だ……」
「落ち込み過ぎとちゃう?」
本気で肩を落とす王に、リンディエールは苦笑するしかなかった。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
今回は短かったので今週中にもう一話上げます。
よろしくお願いします◎
「クイント、お前なあ。その締まりの無い顔をどうにかしろ」
「心から反映された表情です。どうにもできません」
「どうにもならないんじゃなく、できないなら出来るだろ!」
「どれだけ貴重なことか分かるでしょう」
「自分で言うな! というか、リン嬢ちゃんを下ろせ」
「え、嫌です」
「……リン嬢ちゃん……」
コイツは自分が言っても聞かねえわと、潔くリンディエールに対応を投げる王はどうかと思う。
「……下ろしい」
「仕方ないですね」
これだけですぐに下ろすのだから、これはもう、王への当て付け以外の何ものでも無いだろう。
「はあ……まったくお前は。暴走し過ぎだろ。あ、リン嬢ちゃん。俺とも踊ろう」
そう言って今度は王が素早くリンディエールを抱き上げた。
「んん? なんでまた抱っこやねん……」
そのツッコミの最中に、王はもう中央に歩き出していた。
「俺が普通に踊ったら、クイントがまた暴走するだろうが」
「……よお分かってはるなあ……さすがや」
「まあ、十歳のガキの頃からの付き合いだからな」
踊り出した王は、リンディエールの表情を見て苦笑する。
「その『苦労するなあ』って顔止めて?」
「すまんです。愛想良くするわ」
「それはそれで、後でクイントに何か言われそうだな」
「ふはっ。どないせえと?」
思わず吹き出した。すると、王も笑う。
「ほんと、あいつは困ったやつだなあ」
「ほんまやで」
周りには次第に緊張が解けたように見えただろう。そして、王に抱きかかえられて踊る令嬢が一体誰なのかと探り出すのが見て取れた。
「話は変わるねんけど、王子と王女はどないしたん? 上の二人、それなりに回復しとるんやろ?」
第一王妃の子で今年十四歳になる第一王子は、リンディエールの情報網によると、ダンスは無理でも、日常生活に不自由のないくらいには回復しているらしい。
一方、第二王妃の子である今年十三歳になる王女も経過としては問題ない。だが、彼女の場合は心のケアが必要だった。
男児ではなかったということで、母親である第二王妃に冷たくあしらわれて育った。第二王子は娘よりもと、第一王妃の次男である第二王子の世話ばかり焼いているのだ。
表向きは、良い王妃だろう。彼女の行動は今までの貴族社会においては、当然の対応だ。長男のことだけで手が回らない第一王妃の代わりにと、次男の世話を買って出ているのだから。
だが、そのせいで更に王女を追い詰めることになったようだ。
「レイシャは酷い人見知りになっているようでな。今回も座っているだけで良いと言ったんだが、部屋からも出て来なかった。第二王妃が説得していたが、直前にやはり無理だと言われたよ」
「それは当たり前やん。アレやろ? 世話する侍女さんらとしか関わってきいひんかったんやろ? 他の家と違うて、兄やから、弟やからと言うてほとんど交流もあらへんし。そこで突然、こんな所へ出るとか無理やわ。寧ろ、無理かもしれへんて、想像でけたことの方がスゴイで」
話には聞いていただろうが、この中にぽつんと突然置かれるのは勇気が要る。それを想像できたんだなと感心した。
「それも、あの第二王妃なら刺さる言葉も吐いとったろうし、傷付きやすい繊細な子に育っとるかもしれんなあ。友達候補は気い付けえよ?」
王女は、第一子であるにも関わらず親である第二王妃に疎まれて育った。ある意味、リンディエールのように完全に放っておかれた方が良かったかもしれない。
「……リン嬢ちゃん……俺より第二王妃とかの現状に詳しくないか?」
「そうかもしれへんなあ。それについて、大スキャンダルを掴んどるんやけど、ここで喋ってもうてもええ?」
「……やめてくれ……このまま別室に行くぞ。今回の最低限の義務は果たしたしな」
王はもうお役御免らしい。あくまでも、今回のお披露目会は子ども達の顔合わせの場だ。リンディエールとフィリクスは侍従と侍女も決まっているので、ここで絶対的に必要な交流も不要だった。このまま抜けても問題はない。
「クイントも連れて行くか……」
「せやな。あ、ウチの侍従と侍女は連れて行くでな」
「嬢ちゃんの侍従と侍女って……アレか? 随分と年上じゃないか? それも、魔族とは……」
目の色、髪の色で魔族と分かる。だが、特に城に入るのも止められることはない。極少数ではあるが、その色が遺伝によって出てくる場合があるのだ。よって、確かな身分証明がされれば、特に咎められることはない。
とはいえ、良い感情は向けられないのだが、グランギリアの洗練された仕草や、見た目の美しさによって、それらが打ち消されていたのだ。
「……好い男過ぎないか? 魔族ってことで、目を逸らされるどころか、女達の視線がかなり向いているんだが?」
「グランは文句なしの好い男や。ウチが出会ったその日に、将来のデートの約束をしてまうほどにな!」
「え……俺とはどうだ?」
「ん? デートか? ウチは不倫はせん主義や」
「……残念だ……」
「落ち込み過ぎとちゃう?」
本気で肩を落とす王に、リンディエールは苦笑するしかなかった。
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読んでくださりありがとうございます◎
今回は短かったので今週中にもう一話上げます。
よろしくお願いします◎
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