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6th ステージ
056 邪魔すんで〜
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ベンディが気に入っただけはあり、その雑貨屋は品揃えも良かった。ただし、表通りからは少し外れている。
「い、いらっしゃい……ま、ませ」
明らかに接客慣れしていない青年が出てきた。
「邪魔すんで。ベンディ・リフスの紹介で来たんや。ペンを見せてえな」
「あ、ベ! ベンディ様の! も、もしかして、リン様でしょうか?」
「せやで」
「っ、お、お話は伺っております! どうぞ、お好きなだけ見て行ってください!」
物凄く歓迎された。
「うわあ……これもペン? とってもキレイです」
「本当だねえ。宝石? にしては値段が……石?」
柄の部分が乳白色で、所々に金や黒の線が入っている。つるりとしていて美しい。
「あ、はい。い、石ですっ。す、少しお、重いか、かも、しれま、せん」
「大丈夫か? きちんと息しい」
「は、す、すみませんっ」
やはり接客には向いていなさそうだ。
「まあ、気負い過ぎんようにな。それにしても石か……ええなそれ。持ってみてもええか?」
「は、はい!」
「ん~、ウチはこれくらい重さが感じられるほうが好きなんやけど……長さがなあ」
「あ、は、え、えっと……?」
どのペンも長さが同じだ。太さもそれほど変わらない。当然、子ども用などもないのがここでの普通だ。
「なあ。思ってたんやけど、なんで長さとか太さを変えんの?」
「……え?」
肩の力がいい具合に抜けた様子。
「ウチらみたいな子どもも使うんよ? これ、長いと思わん?」
「……長いです……」
「子どもやのおても、手の小さい女の人もおるやん? 逆に、ベンちゃんみたいなゴツゴツした手の男の人やったら、もっと太くて長い方がええと思わん?」
「なるほど……」
真剣に考え出したところを見ると、オーダーメイドできそうだ。
気になっていたのだ。前世では、握ってみて選んでいたのだから。
「兄い、ジェルラス、シュラ、ついでにテシルも好きなの選んでええで。今回はここにある物からな。長さと太さを変えて、今度オーダーメイドも頼んだるで」
「え、ニ本ってこと?」
「腐らん消耗品やし、いくつあっても困らんでな」
シュラとテシルが渋っていたが、それぞれ気に入ったペンを選ぶことが出来た。
そうして、そろそろ会計をと、未だにトリップ中の青年の前に立つ。
「お~い。気付いてんか~」
「っ、わっ!」
近かったらしい。物凄く動揺されて飛び退る。後ろに商品棚がなくてよかった。
「驚かせたか? すまんねんやけど、会計頼むわ」
「あっ、は、はい!!」
「この五本な」
「っ!! こ、これ!? ね、値段っ」
良いやつも知っておいて損はないからと、高めのものを選んだのだ。確実に貴族向けのものだった。
「金額は確認しとるよ。大金貨で払うよって。心配せんでええで」
「だ、大金貨!?」
「せや。ほれ」
「ひっ」
前世の日本円だと、恐らく百万くらいの換算になる。驚いて当たり前だ。子どもが持つ金額ではない。
恐る恐る差し出された金貨を手に取り、青い顔でお釣りを返してくれた。
「ほんなら、また来るよって。あ、なんや相談があったら、商業ギルド長にリンへの取り次ぎをゆうてくれればええでな」
「ぎ、ギルド長!? し、知り合いなんですか!?」
「まあ、アレや。友達やねん」
「友達……」
青年から表情が消えた。
「そんじゃ、おおきに」
「は、はい! ありがとうございました!」
翌々日、この青年からギルド長経由で連絡が入ることになる。太さや長さの違うサンプルまで用意してからの連絡だった。
ここから、長さや太さの違うペンが広がることになるのだ。
店を出たリンディエールたちは、買い物の実習もしながら回り、ニ時間ほどが経過していた。
「喉も渇いたし、ちょい休憩しよか」
「どこか店に入るの?」
フィリクスは人生初の買い物を満喫したことで、笑顔が輝きまくっている。ジェルラスも同じだ。
「酒場やけどな。この時間はまだ酒飲みはおらん。安心してえな」
「酒場……どんな所かな。本とかで出てくるから、どんな所か気になってたんだっ」
「あれは雰囲気も知らなあかんで? まあ、それは今度な」
「残念。分かったよ」
酒場は情報を得るのに必要な場所だ。そこでの振る舞いを知っているのといないのでは、いざという時に大きな差が出てくるだろう。貴族であるからこそ、知っておくべきでもある。
いつかはフィリクスにも教えてやりたいが、それは今ではない。何より、リンディエールが勝手に連れて行けば、ヘルナたちが怒るだろう。既にリンディエールが酒場を知っているというのを知られれば、間違いなく怒られるのだが、そこには気付かない。
「まだ店が開いてる時間やないから安全やで」
「普通は安全じゃないってことだね。確かに、乱闘が見えるんだもんね」
「……ショーや見せ物やないで……」
本の知識だけでは偏る。それが顕著に出ていそうだ。
やって来たのは、表通りより一本中に入った場所。店は小さかった。
「ここ?」
「ここや。趣味でやっとる店やで、こんなもんやろ」
建て付けの悪そうなドアをリンディエールが開ける。中はそれほど悪くなかった。
「ギーランのじっちゃん。邪魔すんで~」
「なんだ? リンか。客を連れてくるには早い時間だぜ?」
「子どもをまともな時間に連れてくるわけあるかい!」
「はっはっはっ。まあ、こっちに座れ。子どもらもな」
彼がギーラン。クゼリア前伯爵の失踪した兄だった。
*********
読んでくださりありがとうございます◎
一週空けさせていただきます。
よろしくお願いします◎
「い、いらっしゃい……ま、ませ」
明らかに接客慣れしていない青年が出てきた。
「邪魔すんで。ベンディ・リフスの紹介で来たんや。ペンを見せてえな」
「あ、ベ! ベンディ様の! も、もしかして、リン様でしょうか?」
「せやで」
「っ、お、お話は伺っております! どうぞ、お好きなだけ見て行ってください!」
物凄く歓迎された。
「うわあ……これもペン? とってもキレイです」
「本当だねえ。宝石? にしては値段が……石?」
柄の部分が乳白色で、所々に金や黒の線が入っている。つるりとしていて美しい。
「あ、はい。い、石ですっ。す、少しお、重いか、かも、しれま、せん」
「大丈夫か? きちんと息しい」
「は、す、すみませんっ」
やはり接客には向いていなさそうだ。
「まあ、気負い過ぎんようにな。それにしても石か……ええなそれ。持ってみてもええか?」
「は、はい!」
「ん~、ウチはこれくらい重さが感じられるほうが好きなんやけど……長さがなあ」
「あ、は、え、えっと……?」
どのペンも長さが同じだ。太さもそれほど変わらない。当然、子ども用などもないのがここでの普通だ。
「なあ。思ってたんやけど、なんで長さとか太さを変えんの?」
「……え?」
肩の力がいい具合に抜けた様子。
「ウチらみたいな子どもも使うんよ? これ、長いと思わん?」
「……長いです……」
「子どもやのおても、手の小さい女の人もおるやん? 逆に、ベンちゃんみたいなゴツゴツした手の男の人やったら、もっと太くて長い方がええと思わん?」
「なるほど……」
真剣に考え出したところを見ると、オーダーメイドできそうだ。
気になっていたのだ。前世では、握ってみて選んでいたのだから。
「兄い、ジェルラス、シュラ、ついでにテシルも好きなの選んでええで。今回はここにある物からな。長さと太さを変えて、今度オーダーメイドも頼んだるで」
「え、ニ本ってこと?」
「腐らん消耗品やし、いくつあっても困らんでな」
シュラとテシルが渋っていたが、それぞれ気に入ったペンを選ぶことが出来た。
そうして、そろそろ会計をと、未だにトリップ中の青年の前に立つ。
「お~い。気付いてんか~」
「っ、わっ!」
近かったらしい。物凄く動揺されて飛び退る。後ろに商品棚がなくてよかった。
「驚かせたか? すまんねんやけど、会計頼むわ」
「あっ、は、はい!!」
「この五本な」
「っ!! こ、これ!? ね、値段っ」
良いやつも知っておいて損はないからと、高めのものを選んだのだ。確実に貴族向けのものだった。
「金額は確認しとるよ。大金貨で払うよって。心配せんでええで」
「だ、大金貨!?」
「せや。ほれ」
「ひっ」
前世の日本円だと、恐らく百万くらいの換算になる。驚いて当たり前だ。子どもが持つ金額ではない。
恐る恐る差し出された金貨を手に取り、青い顔でお釣りを返してくれた。
「ほんなら、また来るよって。あ、なんや相談があったら、商業ギルド長にリンへの取り次ぎをゆうてくれればええでな」
「ぎ、ギルド長!? し、知り合いなんですか!?」
「まあ、アレや。友達やねん」
「友達……」
青年から表情が消えた。
「そんじゃ、おおきに」
「は、はい! ありがとうございました!」
翌々日、この青年からギルド長経由で連絡が入ることになる。太さや長さの違うサンプルまで用意してからの連絡だった。
ここから、長さや太さの違うペンが広がることになるのだ。
店を出たリンディエールたちは、買い物の実習もしながら回り、ニ時間ほどが経過していた。
「喉も渇いたし、ちょい休憩しよか」
「どこか店に入るの?」
フィリクスは人生初の買い物を満喫したことで、笑顔が輝きまくっている。ジェルラスも同じだ。
「酒場やけどな。この時間はまだ酒飲みはおらん。安心してえな」
「酒場……どんな所かな。本とかで出てくるから、どんな所か気になってたんだっ」
「あれは雰囲気も知らなあかんで? まあ、それは今度な」
「残念。分かったよ」
酒場は情報を得るのに必要な場所だ。そこでの振る舞いを知っているのといないのでは、いざという時に大きな差が出てくるだろう。貴族であるからこそ、知っておくべきでもある。
いつかはフィリクスにも教えてやりたいが、それは今ではない。何より、リンディエールが勝手に連れて行けば、ヘルナたちが怒るだろう。既にリンディエールが酒場を知っているというのを知られれば、間違いなく怒られるのだが、そこには気付かない。
「まだ店が開いてる時間やないから安全やで」
「普通は安全じゃないってことだね。確かに、乱闘が見えるんだもんね」
「……ショーや見せ物やないで……」
本の知識だけでは偏る。それが顕著に出ていそうだ。
やって来たのは、表通りより一本中に入った場所。店は小さかった。
「ここ?」
「ここや。趣味でやっとる店やで、こんなもんやろ」
建て付けの悪そうなドアをリンディエールが開ける。中はそれほど悪くなかった。
「ギーランのじっちゃん。邪魔すんで~」
「なんだ? リンか。客を連れてくるには早い時間だぜ?」
「子どもをまともな時間に連れてくるわけあるかい!」
「はっはっはっ。まあ、こっちに座れ。子どもらもな」
彼がギーラン。クゼリア前伯爵の失踪した兄だった。
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読んでくださりありがとうございます◎
一週空けさせていただきます。
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