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2nd ステージ

020 コレはあかんやつやな

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次回より一日置きになります!

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案内された商業ギルド長の執務室。そこで、一緒に来た商人の男がギルド長だという壮年の男に説明した。

「……あいつが……そんな……っ」

彼の様子から察するに、目を掛けていた者だったのだろう。

「それで、お嬢ちゃんが……よく気付いてくれた。あの魔導具はかなりの金額がするのだが……」

少しだけ懐疑の色が見て取れた。

「隠すんは嫌いやで言っとくけど、今回使うたんは魔導具やのおて、自前の魔法や。ちょお、物知りな親友がおってな。盗聴防止用に知っとって損はないゆわれて、覚えてん。まあ、魔導具も持っとるけどな。迷宮で手に入れたやつとか」
「迷宮? お嬢ちゃん……まさか冒険者か?」
「せやで? ほれ」
「っ、特例……」
「特例っ? なら、君はまだ十二歳になっていないのか?」
「ピッチピチの十歳や! 口説くんやったらあと五年は待ってや?」

ウインク付きで言ってやれば、表情を和らげて二人ともソファに沈み込む。

「ははっ。なんて嬢ちゃんだ」
「面白いっ。面白い子だ。私の見る目も相当だなっ」

なんだか喜んでいらっしゃる。

「お~い。時間は金なりやで。しゃあないで、ジュース出したるわ。シャキッとしてや?」

そうして、クイント親子に出したジュースとは違う味のものを出した。効能は同じだ。少し酸っぱめ。ビタミンを摂っている気になる。

「っ、美味っ! ん? 万能薬?」
「そうだ! この感じは初級の万能薬だ!」
「初級より、数段落ちるんやけどな。体が効果を覚えんくらいに調整してん。まあ、ほんま気持ちだけやで」
「「……っ、コレ……」」
「あ、商談の話は今日はなしやで」
「「……仕方ない……」」

美味いな、美味いなと呟きながら、話は再開された。

「確か覗き、盗聴の術は使い捨ての紙で、記録用の魔導具があるんやったか?」
「そうだ」

机の下に貼り付けたり、棚の後ろに入れたりする。発動させれば消えるもので、証拠が残りにくい。ただし、魔導具で弾いた場合は残るので、証拠にするには、そうして高価な魔導具を使って潰していくしかない。

「そんなら、コレはあかんやつやな」

そう言って、リンディエールは結界を発動させた。


ピシピシピシッ


音がした。

「な、なんだ?」
「どこから……」
「アレや」

リンディエールが天井付近の壁を指をさす。そこには、怪しく赤く光る小さな魔法陣があった。

「はあ!? あれは盗聴用の魔法陣!?」
「なぜ、あんな所に!?」
「直接描かれとるね……特殊なインクか……」

考察しながら、リンディエールは飛翔の魔法で魔法陣の目の前まで浮かび上がる。

「……飛んだ……」
「すごい……」
「う~ん……ヒーちゃんに聞いてみるか」

そうして、ヒストリアへ連絡した。

《どうした? 一瞬帰って来なかったか?》
『まあな。ちょい門限の延長をお願いしてきてん。それより、なあ、盗聴用の魔法陣が天井近くの壁に描かれてあんねやけど、どう思う?』
《……何がどうなってそれに出会ったのかが分からんが……昔、魔石を特殊な方法でインクに溶かし、それで描くことでそういった、本来ならば一度しか発動しないような固定する術を何度か使えるようにするという研究があった……さすがにそれの記録は持っていないが、どこかには残っているかもしれない》

ヒストリアでも、その研究書は持っていないらしい。

『なるほどな……国にはあるかもしれへんね』
《そうだな……あまり関わるなよ》
『分かっとるわ。ありがとな』

そうして、ふわりと着々する。

「とりあえずアレは結界で閉じ込めとく。きちんと調査してもらい。そんで、今、親友に連絡して聞いてん。ちょい物知りな奴でな。アレは特殊な魔石を混ぜ込んだインクで描かれたものやないかとゆうことや」
「っ……そういえば、隣国でそういうものがあるという話を聞いたな……」

商人の男が青い顔で呟いた。

「……嬢ちゃん。他の部屋も見てくれないか? 同じものがないか」
「ええよ? なら、さっさと終わらすか。門限まで後二十分切っとるしな」

そうして、大きな商談用の部屋を商人の男に案内されて順に巡った。ギルド長は、国に報告すると言って出て行った。これが、王宮の方にもあれば大変なことだ。なので、魔導具で発見できるかを確かめている。

結果は上級の魔導具でなくては無理と分かった。魔導具にも等級があるのだ。

「これで一通り確認できたな」
「ああ……これは……相当まずいな……」
「なあ、思うんやけど。コレ、直ぐには描けんで。そもそも、魔法陣を描くには魔力も込めなあかんし、正確さが求められるんや。ちょっとお絵かきとは違うで」
「……」

ちょちょっと一筆書きとはいかない。一つの魔法陣を描くのに、熟練の者でも十分、十五分はかかる。リンディエールでさえ、十分は必要だ。魔力を伝えやすい自作のペンとインクを使ってもそれだけ掛かる。力を込められる大きさというのは、魔法陣によって決まっているため、小さくても大きくてもいけない。

「仮に、特殊なインクで魔力を込めやすいもんでも、特にこの覗きと盗聴の魔法陣は難しいねん。その道のプロに聞いた話によれば、込める魔力も相当なんやって。一日各一つずつ描けれるようになるんが、一人前の魔法陣技師になれる条件やって」

とはいえ、覗きや盗聴の魔法陣には、厳しい規制があるらしく、手軽に描いて良いものではないという。取り引きも国と商業ギルドの許可が出ている限定された者にしか売ってはいけない。

「これだけの数や……一日、二日で出来るもんやないで」
「……確かにな……」

怖い顔をしていた。これはかなり怒っている。商人は信用第一。それくらいリンディエールにも分かる。その商人が信用している商業ギルド内でこんなことがあったのだ。怒って当然だろう。

「あ、ウチもう帰らな」
「っ、そうか。もうそんな時間か……すまなかったな。付き合わせて」
「ええて。ほんなら……」
「通信魔導具の登録をしないか?」
「……マジかい」

今日はどうしてこうなるのか。

「ダメか?」
「あ~……ええけど、それだと本名名乗らなあかんやん……こんなことに巻き込まれとるて、ばあちゃんにバレたらドヤされんで……」
「そうか……リンは冒険者名か」
「せや」

通信の魔導具は、偽りなしのステータスに書かれた名前。家名を除く生まれてから初めて付けられた名前しか使えないのだ。

「まあええわ。国の方に目え付けられても、あの美中年がどうにかしてくれるやろ……」

クイントなら、悪いようにはしないはずだ。話したのは短い間だったが、不思議と信じられると思った。

「ついでに家名も名乗っとくわ。ウチの名はリンディエール。リンディエール・デリエスタや」
「デリエスタ辺境伯の? そ、それならば、ばあちゃんというのは『染血の参謀』のヘルナ様か!」
「……ばあちゃん……どんだけ有名やねん……」

『あの英雄の妻』ではなく、二つ名の方ではっきりと認識されている祖母に、少し震えた。

「そんで? おっちゃんの名は?」
「あ、ああ。すまなかった。私はエルス。エルス・レンザー。レンザー商会の会長をしている」
「……予想はしとったけど、えらい大物やってんな……この国一の大商人かい」

今日は本当にそうゆう日なんだなと肩を落としたリンディエールだった。

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読んでくださりありがとうございます◎
一日空きます。
よろしくお願いします!
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