秘伝賜ります

紫南

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第七章 秘伝と任されたもの

391 有り難迷惑というもの

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誰の仕業かは分かった。これは文句も言えない。ならば受け入れる一択だろう。

「はあ……とりあえず、書庫の方を見るか……俊哉は好きにしててくれ。休憩中のやつも来るだろうしな」
「おう。そうだった。よし! 癒しショットを量産してやるぜ!」
「それ、後で送ってちょうだいね?」
「僕にもね!」
「もちろん!」

雛柏夫妻はここに来た目的を忘れていなかった。もちろん付喪神達の楽園は興味深いが、それよりも本だ。彼らは無類の本好きなのだから。

「さてと。鬼に関するものを探せばいいんだよね?」
「ええ。あと、小さな子どもに関するもの、それと鬼渡について」
「分かった。君も大丈夫そう?」
「大丈夫よ。気になったらあなたに回すから、確認してちょうだい」
「そうしよう」
「では、お願いします」

そうして、書庫の探索が始まった。

「ジャンルとかもバラバラだねえ」
「年代はある程度まとまっているようですけどね」

雛柏夫妻は慣れた様子で、読みながらも内容のジャンルごとにさっさと分けていく。

「ここ、ひと棚使うね」
「はい。お好きなように」
「メモ張っていくわ」
「どうぞ」

一つ空けた棚を起点にして、ある程度の量ずつで仕分けを行っていく。手際が良い。スペースがないながらも、整理する技があるようだ。

「高耶くん。こっちが鬼関係の内容がありそうな怪しいやつ。そんで、そっちが触らない方がいい類いのやつ」
「……よくわかりますね……あらかた避けたはずなんですけど」
「あ、うん。僕も妻も、そういうの手に取る前に感じるんだよね」
「嫌な感じがするんですよ。こう~、鳥肌が立つんです。最近は気のせいってこともなくなりましたわ」
「精度上がったよね~」
「あなたがおかしな書物を持ち込むからでしょう」
「だって、高耶くんに祓ってもらえば問題なくなるし」
「あえてでしたのね? 困った人」
「あはは」

笑い事ではないのだが、小百合さゆりも困った人で済ませてしまう。この夫にこの妻ありということだろうか。

「あっ、これもダメですわ」
「取ります」
「お願いするわ」

小百合や雛柏教授が不用意に触るのはよくないからと、勇一がそれを取り除いていた。だが、勇一としてもそれに強いというわけではない。多少の免疫はあるが、対処が完璧にできるかと言えばそうではなかった。当然、同じ状態のものばかりではないのだから仕方がない。

「あ……」
《ゆういちお兄ちゃん。それはこっちのおフダがいいの》
「っ、は、はい……っ」

高耶はこれも見越して、威力別に様々なお札を用意していた。それを用途や状態に合わせて処方手渡しするのは、果泉だった。

「果泉ちゃんは可愛い上に頼れるねえ」
「本当にとっても頼もしいわあ」
《えへへ》

仙桃の樹精である果泉。元々、雛柏教授によって託された樹だったことを思い出し、手伝いに呼んだのだ。彼女は軽い呪いなら、手を触れるだけでも祓える力を持っている。

そのお陰か、呪いの強さや質が感じ取れるらしく、対処するお札の見極めもばっちりだ。

雛柏夫妻は、果泉を孫のように見ているようで、メロメロだ。

《じいじ、アレもさわっちゃダメだからね?》
「は~い。果泉ちゃんが言うならじいじは触らないよっ」
《ばあば、それ重そうだから、ゆういちお兄ちゃんにたのも?》
「あらあら。そうねえ。お願いしようかしら。ばあばのこと気遣ってくれてありがとうね」
《うんっ》
「「かわいいっ」」

普通に自分たちをじいじ、ばあばと言ってしまっている所で、もう手遅れだろう。また一組、果泉のじいじとばあばが誕生した。

「……」

高耶はこれらに我観せず、除けられたものから順に読み解いていく。その傍らで、強そうな力を持った本が目に入ると、それを手に取り、悪いものは祓っていく。

そうしている内に、いつの間にか、付喪神が足下に来ていた。

「ん? これは……安部家から……こっちはキルティスさんの?」

それを確認して、高耶は振り返った。

「待て……っ、待て待てっ、わからなくなるからあっちに行こうっ。家ごとに……っ」

付喪神達が、それぞれの家から気になる書物を括り付けられ、運んできているのだ。また列が出来ている。さすがに頭を抱えた。恐らく、送ってきた方に他意はない。純粋に高耶の力になれればと思っているはずだ。

「っ、もう少し手が要るな……」
《トキワお兄ちゃんと、エン姉ちゃまと~、ルリ姉とハル姉、それとっ、メノウちゃん!》
「……分かった」

早速、その五人(?)を呼ぶことにした。









**********
読んでくださりありがとうございます◎



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