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第一章 秘伝のお仕事
012 こき使われています
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この二週間は怒涛のように過ぎた。
その間に突然、首領会議が開かれ、鬼渡家の対策が話し合われた。
困ったのは、改めて知った封印の多さだ。大した相手でもないのに、自身の力を誇示するため、わざわざ封印術を施したらしいものが、笑えない量確認された。
「私の所の一族もかなりの量だとは思ったけれど……これは凄いね」
「……」
陰陽師の代表。首領は高耶と源龍を含めた九人。その一番の代表となるのが、かの有名な安倍家。その安倍家が一番多いかもしれないと思っていたのだが、調伏例の方が多く、それほど大した量ではなかった。
とはいえ、力が落ちてきている現状。榊家とそう変わらない封印件数が確認されていた。
問題だったのは、首領の一族ではなく、寧ろポッと出のあまり注視されていない者達だった。
「下まで統制など取れぬでの。予想はしとりましたが……この中で唯一数えるほどしか封印をしておらんのが秘伝とは……さすがは充雪殿や」
《はははっ。封印したとしても、必ず討ち取っておったからなぁ》
秘伝家は腐っても陰陽道を修めた一族。封印術が出来ないわけではない。けれど、一族の矜持としては『何が何でも最後は倒す』だ。
秘伝家にとって封印術は、一時休戦のための手段でしかない。休戦期間が長く、次の代に移ったとしてもやり遂げる。それが秘伝家だ。簡単にいえば脳筋の一族ということになる。
「『脳筋』が褒め言葉になるのも頷けるわなぁ」
《そうだろう、そうだろう。わははははっ》
「……」
脳筋なのは充雪だけだと不満顔の高耶には、源龍以外気付かないらしい。そっと肩に手を添えてくれる源龍の優しさが沁みる。
「早急に確認作業に移りまひょ。充雪殿、ご協力頼みますぇ。ひと月以内に完了を目指しますよって」
《おうっ、任しとけっ》
「ほほっ。高坊にも活躍してもらうでのぉ」
「はい……」
そうして、首領という化けタヌキやキツネ達の指示により始まったのが、封印が必要ない小物の処分と、鬼の選別だ。
この処分には大いに高耶が活躍した。というか、時間が空いたらとにかくよろしくということで、高耶の方に日本中の封印場所のリストが届けられた。
「なんで俺だけ……」
《本家の奴らじゃ力不足な所があるからな。ヤレんのは首領の奴らだけだ。まぁ、流石に鬼は簡単には無理だろうがな》
「あっち側に送り返すぐらいしろよ……」
《そりゃ、ダメだな。封印されてた奴らは、相当恨みつらみが募ってやがるから、素直に帰りやがらねぇよ。諦めろ。これも修行だ》
「クソっ」
お陰で二週間後。旅行中にも近場を回って妖退治をしなくてはならなくなった。
◆ ◆ ◆
山というのは、霊的な力が溜まりやすい。そんな場所の力も借りながら、強力なものを封印するというのが、ひと昔前には多く見られたらしい。
現代では、多くの山が切り崩され、力が分散されてしまったり、逆におかしな力場が出来上がり、封印には不向きな負の力が溢れていたりするようになった。
古くから旅館がある場所というのは、あまり開発の手が及ばないことが多い。その甲斐あって、古き良き時代の面影、気配が残っている。それは、裏返せば鬼が封印されやすい場所ともいえた。
高耶が家族旅行で訪れたのは、そんな嫌な予感のする場所だった。
「結構な山の中だな……」
趣きのある旅館を見上げてテンションを上げていく家族とは別に、高耶は冷静にこの場の分析をし始めていた。
《あの山……神もいそうだが、異様な気配もある。多分だが……あれが鬼だな》
(これは封印が解けかけてないか?)
《恐らく、あの山の神が保たせてくれていたのだろう。実に中途半端な封印術の気配だ》
充雪の見解に頷きながら、高耶は山へと意識を向ける。鬼の気配というものを知ることができた。
(今日から四日もあるんだ。確認してくるか)
《オレが見てくる。お前は、たまには家族サービスをしろ》
(……気がきくじゃないか……)
最近、充雪は機嫌がすこぶる良い。結果は聞かなかったが、どうやら霊界での大会では優勝ができたのだろう。その影響のようだ。充雪にとっては、出たからには優勝は当たり前。欲しかったのは優勝商品らしい。
その優勝賞品は特別な霊薬らしく、まだ手元に来ていないのか、自慢には来ない。だが、いつ使おうかと、時間が空けばブツブツ思案しているのをよく目撃していた。かなり気味の悪い笑みを浮かべている充雪は近付きたくないものだ。
その霊薬は盗み聞いた限り、肉体を無くした霊体が飲めば、丸一日、肉体を取り戻した状態になるものらしい。ただし、霊力といった死後得た能力は、その間使えなくなる。そして、生者を傷付けることもできないものだという。使い所を迷うのは当然だなと納得していた。
《そんじゃ、家族サービス頑張れよ》
充雪が山に向かって飛んでいくのを見送ると、義父に呼ばれた。
「お~い、高耶君。夕食はあっちのホテルでだから、急ぐよ」
「あ、はい」
もう一度山へ目を向けながら、高耶は家族と合流していった。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
その間に突然、首領会議が開かれ、鬼渡家の対策が話し合われた。
困ったのは、改めて知った封印の多さだ。大した相手でもないのに、自身の力を誇示するため、わざわざ封印術を施したらしいものが、笑えない量確認された。
「私の所の一族もかなりの量だとは思ったけれど……これは凄いね」
「……」
陰陽師の代表。首領は高耶と源龍を含めた九人。その一番の代表となるのが、かの有名な安倍家。その安倍家が一番多いかもしれないと思っていたのだが、調伏例の方が多く、それほど大した量ではなかった。
とはいえ、力が落ちてきている現状。榊家とそう変わらない封印件数が確認されていた。
問題だったのは、首領の一族ではなく、寧ろポッと出のあまり注視されていない者達だった。
「下まで統制など取れぬでの。予想はしとりましたが……この中で唯一数えるほどしか封印をしておらんのが秘伝とは……さすがは充雪殿や」
《はははっ。封印したとしても、必ず討ち取っておったからなぁ》
秘伝家は腐っても陰陽道を修めた一族。封印術が出来ないわけではない。けれど、一族の矜持としては『何が何でも最後は倒す』だ。
秘伝家にとって封印術は、一時休戦のための手段でしかない。休戦期間が長く、次の代に移ったとしてもやり遂げる。それが秘伝家だ。簡単にいえば脳筋の一族ということになる。
「『脳筋』が褒め言葉になるのも頷けるわなぁ」
《そうだろう、そうだろう。わははははっ》
「……」
脳筋なのは充雪だけだと不満顔の高耶には、源龍以外気付かないらしい。そっと肩に手を添えてくれる源龍の優しさが沁みる。
「早急に確認作業に移りまひょ。充雪殿、ご協力頼みますぇ。ひと月以内に完了を目指しますよって」
《おうっ、任しとけっ》
「ほほっ。高坊にも活躍してもらうでのぉ」
「はい……」
そうして、首領という化けタヌキやキツネ達の指示により始まったのが、封印が必要ない小物の処分と、鬼の選別だ。
この処分には大いに高耶が活躍した。というか、時間が空いたらとにかくよろしくということで、高耶の方に日本中の封印場所のリストが届けられた。
「なんで俺だけ……」
《本家の奴らじゃ力不足な所があるからな。ヤレんのは首領の奴らだけだ。まぁ、流石に鬼は簡単には無理だろうがな》
「あっち側に送り返すぐらいしろよ……」
《そりゃ、ダメだな。封印されてた奴らは、相当恨みつらみが募ってやがるから、素直に帰りやがらねぇよ。諦めろ。これも修行だ》
「クソっ」
お陰で二週間後。旅行中にも近場を回って妖退治をしなくてはならなくなった。
◆ ◆ ◆
山というのは、霊的な力が溜まりやすい。そんな場所の力も借りながら、強力なものを封印するというのが、ひと昔前には多く見られたらしい。
現代では、多くの山が切り崩され、力が分散されてしまったり、逆におかしな力場が出来上がり、封印には不向きな負の力が溢れていたりするようになった。
古くから旅館がある場所というのは、あまり開発の手が及ばないことが多い。その甲斐あって、古き良き時代の面影、気配が残っている。それは、裏返せば鬼が封印されやすい場所ともいえた。
高耶が家族旅行で訪れたのは、そんな嫌な予感のする場所だった。
「結構な山の中だな……」
趣きのある旅館を見上げてテンションを上げていく家族とは別に、高耶は冷静にこの場の分析をし始めていた。
《あの山……神もいそうだが、異様な気配もある。多分だが……あれが鬼だな》
(これは封印が解けかけてないか?)
《恐らく、あの山の神が保たせてくれていたのだろう。実に中途半端な封印術の気配だ》
充雪の見解に頷きながら、高耶は山へと意識を向ける。鬼の気配というものを知ることができた。
(今日から四日もあるんだ。確認してくるか)
《オレが見てくる。お前は、たまには家族サービスをしろ》
(……気がきくじゃないか……)
最近、充雪は機嫌がすこぶる良い。結果は聞かなかったが、どうやら霊界での大会では優勝ができたのだろう。その影響のようだ。充雪にとっては、出たからには優勝は当たり前。欲しかったのは優勝商品らしい。
その優勝賞品は特別な霊薬らしく、まだ手元に来ていないのか、自慢には来ない。だが、いつ使おうかと、時間が空けばブツブツ思案しているのをよく目撃していた。かなり気味の悪い笑みを浮かべている充雪は近付きたくないものだ。
その霊薬は盗み聞いた限り、肉体を無くした霊体が飲めば、丸一日、肉体を取り戻した状態になるものらしい。ただし、霊力といった死後得た能力は、その間使えなくなる。そして、生者を傷付けることもできないものだという。使い所を迷うのは当然だなと納得していた。
《そんじゃ、家族サービス頑張れよ》
充雪が山に向かって飛んでいくのを見送ると、義父に呼ばれた。
「お~い、高耶君。夕食はあっちのホテルでだから、急ぐよ」
「あ、はい」
もう一度山へ目を向けながら、高耶は家族と合流していった。
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