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第七章 秘伝と任されたもの
366 特別なチケット
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高耶と修は、俊哉にエルラントや月子達を任せ、体育館へと向かう。美咲と樹は低学年の発表中は体育館の中の席なので一緒だ。
入り口には受け付けがあり、そこでチケットを見せる。そのチケットは、子ども達が思い思いに描いた絵や言葉が書かれている。両親や来て欲しいと思った親戚などに向けて、気持ちがいっぱいこもったそれは、受け取った時に涙が滲むものだった。美咲と樹ももちろん泣いていた。
「うわあ、優希ちゃんの作ったチケット、かわいいねえ」
修が微笑ましげにそのチケットを見て告げる。すると、美咲と樹が嬉しそうに答えた。
「そうなのっ。お花がいっぱいで、カラフルでっ」
「半券は絶対に額に入れて飾ろうって、ねっ」
「昨日、額は買って来たわ!」
「リビングに飾るんだよね!」
「いいな~」
「「うふふっ」」
二人は上機嫌だ。それもそのはず。
優希は、悩みに悩んだのだ。チケットは一人二枚まで。だが、優希には、チケットを渡したい人たちが沢山いた。その中で選ばれたという喜びが二人からは溢れていた。珀豪が分かりやすく落ち込んでいたのは、まだ記憶に新しい。
実はこのチケットは、高耶と修の案だ。地域の人たちとも交流するということで、片親だけしか居ない子ども達も、親だけでなくお世話になっている近所の人たちや、習い事の先生や先輩などにチケットを渡していたようだ。チケットをもらった人は、保護者枠として特別に体育館に入れることになっている。
「はい。確認しました。中へどうぞ」
チケットの回収される部分には、招待した生徒の学年、クラス、名前が書かれている。そこも飾り枠などを描いてあるものもあった。
「じゃあ、俺と修さんはこっちみたいだから」
「分かったわ」
「じゃあ、お昼にね」
「ああ」
高耶と修の席は、来賓の者達の集まる場所の傍。教師達の席の前に用意されていた。教師達の集まる席とはいえ、彼らは房田音響の人たちと一緒に舞台の裏方に走るので、用意された椅子の数は少ない。
そこに、音楽教師の杉が待っていた。
「あっ、こちらです! この席になりますっ」
「前に良いんですか?」
「もちろんです! それと……その……っ、校長先生から確認するように言われたんです。えっと……神様の席なんですけど、こちらでも大丈夫でしょうか……」
「え?」
高耶と修にどうぞと勧められた席は、前列の三つ並んだ席。しかし、どうやらその内の一つは、神様用にと用意したらしい。杉も、鳥の姿になった神を見ているので、至って真面目に問いかけている。
「用意してくださったんですか……」
「ダメでしょうか……」
「いいえ。ありがとうございます。専用の台もあるので、こちらで整えますね」
「はいっ! お任せします!」
さすがにパイプ椅子ではどうかと杉も思っていたようで、ほっとしていた。そこで、修が慌てて声をかけてくる。
「た、高耶君っ。隣はちょっと……」
「え……あ、分かりました」
修と高耶の席の真ん中をと思っていたのだが、修は畏れ多いと顔を青くする。これを見て、高耶は仕方がないなと頷いた。
戸棚を貸してもらい、そこを神事などでも使えるようにしている連盟にある高耶の所有する戸棚と繋げる。そこから色々と取り出して、あっという間に高耶の席の隣に用意してしまった。
しばらくして、来賓の人たちが那津と時島に案内されてやって来た。その手には、チケットの半券が握られており、席についてから楽しそうに見せ合っていた。
「このチケットは宝物になりそうですね」
「素晴らしい才能ですよ」
「将来の有名デザイナーの初めての作品となるかもしれませんなあ」
チケットを作るという体験に、子ども達は喜んだようだ。修が今までのコンサートの時のものや、これまでの見に行ったチケットを高耶の持っている物も合わせて参考資料として見せている。そのため、意外にもかなり芸術的なものが出来たと教師達は驚いたようだ。
子ども達の新たな才能を発見できたと喜んでいた。
高耶と修のチケットも、来賓の者達のものと同じ、そうした見た目も素晴らしい選ばれた生徒達が描いたものだった。
「芸術の分野の授業などは、最近特に、やる意義を問われがちですが、こうしたものを見ると、その大切さが分かりますね」
「ええ。本当に。毎回、良い説明の仕方がないものかと思うのですが……これは良い例になりますよ」
「先生は芸術分野の授業は減らしても良いと考えているようでしたが?」
「いやあ、これは手厳しい」
「はははっ。どうです? 考えが変わりましたか?」
「そうですね……考えるべきことが増えたかもしれません」
そんな話を、高耶と修は複雑な顔をして聞いていた。
そこで、高耶が用意した神の席、簡易ではあるが、祭壇のようにしたものに気付いた人が居たらしい。
「おや。あれは祭壇ですか?」
「宗教的なもの……ではないですよね?」
これに那津が当たり前のように答えた。
「あれは、ここの土地神様の為の席ですわ。学校という場所は、土地神様が守護する土地の中心であることが多いのです。子ども達を見守ってくださる土地神様に、こうした催しは、御礼を申し上げられる機会なのです」
「……神を信じておられるのですか?」
「そうですわね……」
こうしたことに胡散臭さや嫌悪感を見せる者というのは、居るものだ。半数の来賓の者達は、先ほどまでの楽しそうな空気を一変させていた。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
入り口には受け付けがあり、そこでチケットを見せる。そのチケットは、子ども達が思い思いに描いた絵や言葉が書かれている。両親や来て欲しいと思った親戚などに向けて、気持ちがいっぱいこもったそれは、受け取った時に涙が滲むものだった。美咲と樹ももちろん泣いていた。
「うわあ、優希ちゃんの作ったチケット、かわいいねえ」
修が微笑ましげにそのチケットを見て告げる。すると、美咲と樹が嬉しそうに答えた。
「そうなのっ。お花がいっぱいで、カラフルでっ」
「半券は絶対に額に入れて飾ろうって、ねっ」
「昨日、額は買って来たわ!」
「リビングに飾るんだよね!」
「いいな~」
「「うふふっ」」
二人は上機嫌だ。それもそのはず。
優希は、悩みに悩んだのだ。チケットは一人二枚まで。だが、優希には、チケットを渡したい人たちが沢山いた。その中で選ばれたという喜びが二人からは溢れていた。珀豪が分かりやすく落ち込んでいたのは、まだ記憶に新しい。
実はこのチケットは、高耶と修の案だ。地域の人たちとも交流するということで、片親だけしか居ない子ども達も、親だけでなくお世話になっている近所の人たちや、習い事の先生や先輩などにチケットを渡していたようだ。チケットをもらった人は、保護者枠として特別に体育館に入れることになっている。
「はい。確認しました。中へどうぞ」
チケットの回収される部分には、招待した生徒の学年、クラス、名前が書かれている。そこも飾り枠などを描いてあるものもあった。
「じゃあ、俺と修さんはこっちみたいだから」
「分かったわ」
「じゃあ、お昼にね」
「ああ」
高耶と修の席は、来賓の者達の集まる場所の傍。教師達の席の前に用意されていた。教師達の集まる席とはいえ、彼らは房田音響の人たちと一緒に舞台の裏方に走るので、用意された椅子の数は少ない。
そこに、音楽教師の杉が待っていた。
「あっ、こちらです! この席になりますっ」
「前に良いんですか?」
「もちろんです! それと……その……っ、校長先生から確認するように言われたんです。えっと……神様の席なんですけど、こちらでも大丈夫でしょうか……」
「え?」
高耶と修にどうぞと勧められた席は、前列の三つ並んだ席。しかし、どうやらその内の一つは、神様用にと用意したらしい。杉も、鳥の姿になった神を見ているので、至って真面目に問いかけている。
「用意してくださったんですか……」
「ダメでしょうか……」
「いいえ。ありがとうございます。専用の台もあるので、こちらで整えますね」
「はいっ! お任せします!」
さすがにパイプ椅子ではどうかと杉も思っていたようで、ほっとしていた。そこで、修が慌てて声をかけてくる。
「た、高耶君っ。隣はちょっと……」
「え……あ、分かりました」
修と高耶の席の真ん中をと思っていたのだが、修は畏れ多いと顔を青くする。これを見て、高耶は仕方がないなと頷いた。
戸棚を貸してもらい、そこを神事などでも使えるようにしている連盟にある高耶の所有する戸棚と繋げる。そこから色々と取り出して、あっという間に高耶の席の隣に用意してしまった。
しばらくして、来賓の人たちが那津と時島に案内されてやって来た。その手には、チケットの半券が握られており、席についてから楽しそうに見せ合っていた。
「このチケットは宝物になりそうですね」
「素晴らしい才能ですよ」
「将来の有名デザイナーの初めての作品となるかもしれませんなあ」
チケットを作るという体験に、子ども達は喜んだようだ。修が今までのコンサートの時のものや、これまでの見に行ったチケットを高耶の持っている物も合わせて参考資料として見せている。そのため、意外にもかなり芸術的なものが出来たと教師達は驚いたようだ。
子ども達の新たな才能を発見できたと喜んでいた。
高耶と修のチケットも、来賓の者達のものと同じ、そうした見た目も素晴らしい選ばれた生徒達が描いたものだった。
「芸術の分野の授業などは、最近特に、やる意義を問われがちですが、こうしたものを見ると、その大切さが分かりますね」
「ええ。本当に。毎回、良い説明の仕方がないものかと思うのですが……これは良い例になりますよ」
「先生は芸術分野の授業は減らしても良いと考えているようでしたが?」
「いやあ、これは手厳しい」
「はははっ。どうです? 考えが変わりましたか?」
「そうですね……考えるべきことが増えたかもしれません」
そんな話を、高耶と修は複雑な顔をして聞いていた。
そこで、高耶が用意した神の席、簡易ではあるが、祭壇のようにしたものに気付いた人が居たらしい。
「おや。あれは祭壇ですか?」
「宗教的なもの……ではないですよね?」
これに那津が当たり前のように答えた。
「あれは、ここの土地神様の為の席ですわ。学校という場所は、土地神様が守護する土地の中心であることが多いのです。子ども達を見守ってくださる土地神様に、こうした催しは、御礼を申し上げられる機会なのです」
「……神を信じておられるのですか?」
「そうですわね……」
こうしたことに胡散臭さや嫌悪感を見せる者というのは、居るものだ。半数の来賓の者達は、先ほどまでの楽しそうな空気を一変させていた。
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