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第六章 秘伝と知己の集い
348 仕事に追われる予感です
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白木の両親は、結局しばらく考えるという結論に至ったようだ。
蓮次郎も焔泉も、高耶と同じでそれを急がせることはなかった。
感情的になって、後先を考えずに『よろしくお願いします!』と言われるより良いことだ。後で問題が起きて『どうしてくれる!』と言われては堪らない。
「また相談があれば、連絡をしてもらえればいいからね」
「よお考えなはれ。助け出した後の事もしっかりとなあ。後で泣く事にならんように」
「ありがとうございます……」
「しっかりと考えます」
真剣な様子で、白木の両親は頭を丁寧に下げた。
「では、お送りします」
そう言って、高耶が立ち上がる。これに、白木の両親が緊張気味に答えた。
「っ、はい」
「お、お願いします」
「ん? はい」
なんだか、最初よりも距離を取られるような様子に、高耶が不思議に思っていれば、蓮次郎が笑った。
「ふふふっ。あ~、高耶君が凄い子だって自慢し過ぎちゃったかなあ」
「……そんな話していたんですか?」
「うん。高耶君、集中してると周りの音を遮断しちゃうから」
「ええ……」
任された報告書の作成や書類仕事をこなすのに、短時間で終わるためにもと、周りの音は遮断していた。だから、高耶は蓮次郎と焔泉が話した事を知らない。
知らないが、何を説明すべきかは分かっているので、聞いている必要はないと判断したのだ。
「おかしなこと、話したんですか?」
「ううん。高耶君が出来ない事は話してないから、大丈夫」
「そうですか、なら別に……」
構わないよなと高耶は納得するが、緊張感は変わらない。とはいえ、気にしても仕方ないかと、高耶はすっぱり諦めた。
「どうぞ。行きましょう」
「っ、はい」
「……俊哉達も行くぞ」
「おー」
一応、自分たちも話を聞きたいからと、部屋の隅の方で、俊哉や満、嶺、彰彦も同席していた。武雄も、昼ごはんの片付けなどで高耶達の側から離れていたが、ここに白木の両親を連れて来た後、お茶を持って来た時に一緒に同席していた。
事情も俊哉に聞き、こう言う事もあるんだとこちらの業界の知識を一つ知る事になった。
「先生も、そろそろ帰りますよね? 車で来ていますか?」
時間を確認すれば、夕方の三時を過ぎていた。明日は連休明けの平日だ。学校に行かなくてはならない。
「ああ。蔦枝は、まだ帰れなさそうだし、榊さんも来られても残るだろうから、和泉を連れて帰るか」
「あっ、いいの?」
「構わん。お前達はどうする。白木はまたあの仕事仲間の方達が迎えに来るんだろう?」
「ええ……」
白木は、来た時と同様に世話になっている人達が迎えにくる。
「なんなら迎えは断って、そのまま自宅に戻ったらどうだ?」
「……っ」
「「……」」
どのみち、両親は扉で自宅に帰るのだ。そのまま槇も戻ってもいい。両親達は、そうして欲しいと思っていたのかもしれない。槇をじっと見つめていた。
しかし、槇は首を横に振った。
「いいえ……仕事もあるんで、家には……今度の休みに……」
そう槇は両親を複雑そうな表情で見て告げる。これに、二人は頷いた。
「ああ。連絡しろ」
「待っているわね」
「おう……」
照れくさそうに、槇は返事を返していた。
何とか家族で上手く行きそうだと見て、時島も教師として少し安心したようだ。次に、満と嶺を見る。
「お前達はどうやって来たんだ?」
「普通にバスと電車で」
「なら、お前達も近場の駅まででも送って行こう」
「良いんですか? お願いします!」
「助かります!」
「ああ。だが、風呂に入ってからだ。のんびりと帰る用意をしよう。蓮さん、焔泉さん、ではまた」
時島は、蓮次郎と焔泉に小さく頭を下げて見せる。
「うん。また瑶姫の所でね」
「気を付けて帰ってや~」
「はい」
そうして、高耶達は武雄も連れて離れを後にする。
「高耶は残るの?」
気になったのだろう。武雄が尋ねてくる。
「ああ。まだ確認する所や、やる事もあるからな。それに、帰るのは別にいつでも困らないし」
「うん。だよね……あの扉は反則」
「これから嫌でもここで見ることになるけどな」
「そんな気がしたよ……」
この旅館は術師達の保養所として使われるのだ。当然、扉を固定することも計画される。今頃、どこと繋ぐか話し合いが始まっていることだろう。
「で? 確認する事や、やる事って?」
「とりあえず、あの山を買う事からだな」
「……本気だったんだね……」
「滝が欲しいからな」
「うん……普通は滝は欲しがらないよ……」
「そうか?」
聞こえた俊哉達も、うんうんと頷いていた。事情が分からない白木の両親だけが、ポカンとしていたが、気にせずに家まで送り届けた。
それを見送り、俊哉は荷物をまとめながら、高耶に確認する。
「そんで? 高耶は明日、大学は来れるの?」
「問題ない。しばらくは、ここと行き来する生活になりそうだけどな。扉を使うから問題ない」
「なるほど。なんか俺でも手伝える事あれば言ってくれよ」
「ん~……優希の遊び相手くらいか? 心配なのは……」
「あ~……任せろ」
仕事ばかりになると、確実に優希は拗ねる。習い事は多くなったが、それでも寂しさがあったりするだろう。学校のない土日に特にこちらにかかり切りになりそうなのだ。フォロー要員は必要だった。
何はともあれ、問題は未だ山積みだ。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
蓮次郎も焔泉も、高耶と同じでそれを急がせることはなかった。
感情的になって、後先を考えずに『よろしくお願いします!』と言われるより良いことだ。後で問題が起きて『どうしてくれる!』と言われては堪らない。
「また相談があれば、連絡をしてもらえればいいからね」
「よお考えなはれ。助け出した後の事もしっかりとなあ。後で泣く事にならんように」
「ありがとうございます……」
「しっかりと考えます」
真剣な様子で、白木の両親は頭を丁寧に下げた。
「では、お送りします」
そう言って、高耶が立ち上がる。これに、白木の両親が緊張気味に答えた。
「っ、はい」
「お、お願いします」
「ん? はい」
なんだか、最初よりも距離を取られるような様子に、高耶が不思議に思っていれば、蓮次郎が笑った。
「ふふふっ。あ~、高耶君が凄い子だって自慢し過ぎちゃったかなあ」
「……そんな話していたんですか?」
「うん。高耶君、集中してると周りの音を遮断しちゃうから」
「ええ……」
任された報告書の作成や書類仕事をこなすのに、短時間で終わるためにもと、周りの音は遮断していた。だから、高耶は蓮次郎と焔泉が話した事を知らない。
知らないが、何を説明すべきかは分かっているので、聞いている必要はないと判断したのだ。
「おかしなこと、話したんですか?」
「ううん。高耶君が出来ない事は話してないから、大丈夫」
「そうですか、なら別に……」
構わないよなと高耶は納得するが、緊張感は変わらない。とはいえ、気にしても仕方ないかと、高耶はすっぱり諦めた。
「どうぞ。行きましょう」
「っ、はい」
「……俊哉達も行くぞ」
「おー」
一応、自分たちも話を聞きたいからと、部屋の隅の方で、俊哉や満、嶺、彰彦も同席していた。武雄も、昼ごはんの片付けなどで高耶達の側から離れていたが、ここに白木の両親を連れて来た後、お茶を持って来た時に一緒に同席していた。
事情も俊哉に聞き、こう言う事もあるんだとこちらの業界の知識を一つ知る事になった。
「先生も、そろそろ帰りますよね? 車で来ていますか?」
時間を確認すれば、夕方の三時を過ぎていた。明日は連休明けの平日だ。学校に行かなくてはならない。
「ああ。蔦枝は、まだ帰れなさそうだし、榊さんも来られても残るだろうから、和泉を連れて帰るか」
「あっ、いいの?」
「構わん。お前達はどうする。白木はまたあの仕事仲間の方達が迎えに来るんだろう?」
「ええ……」
白木は、来た時と同様に世話になっている人達が迎えにくる。
「なんなら迎えは断って、そのまま自宅に戻ったらどうだ?」
「……っ」
「「……」」
どのみち、両親は扉で自宅に帰るのだ。そのまま槇も戻ってもいい。両親達は、そうして欲しいと思っていたのかもしれない。槇をじっと見つめていた。
しかし、槇は首を横に振った。
「いいえ……仕事もあるんで、家には……今度の休みに……」
そう槇は両親を複雑そうな表情で見て告げる。これに、二人は頷いた。
「ああ。連絡しろ」
「待っているわね」
「おう……」
照れくさそうに、槇は返事を返していた。
何とか家族で上手く行きそうだと見て、時島も教師として少し安心したようだ。次に、満と嶺を見る。
「お前達はどうやって来たんだ?」
「普通にバスと電車で」
「なら、お前達も近場の駅まででも送って行こう」
「良いんですか? お願いします!」
「助かります!」
「ああ。だが、風呂に入ってからだ。のんびりと帰る用意をしよう。蓮さん、焔泉さん、ではまた」
時島は、蓮次郎と焔泉に小さく頭を下げて見せる。
「うん。また瑶姫の所でね」
「気を付けて帰ってや~」
「はい」
そうして、高耶達は武雄も連れて離れを後にする。
「高耶は残るの?」
気になったのだろう。武雄が尋ねてくる。
「ああ。まだ確認する所や、やる事もあるからな。それに、帰るのは別にいつでも困らないし」
「うん。だよね……あの扉は反則」
「これから嫌でもここで見ることになるけどな」
「そんな気がしたよ……」
この旅館は術師達の保養所として使われるのだ。当然、扉を固定することも計画される。今頃、どこと繋ぐか話し合いが始まっていることだろう。
「で? 確認する事や、やる事って?」
「とりあえず、あの山を買う事からだな」
「……本気だったんだね……」
「滝が欲しいからな」
「うん……普通は滝は欲しがらないよ……」
「そうか?」
聞こえた俊哉達も、うんうんと頷いていた。事情が分からない白木の両親だけが、ポカンとしていたが、気にせずに家まで送り届けた。
それを見送り、俊哉は荷物をまとめながら、高耶に確認する。
「そんで? 高耶は明日、大学は来れるの?」
「問題ない。しばらくは、ここと行き来する生活になりそうだけどな。扉を使うから問題ない」
「なるほど。なんか俺でも手伝える事あれば言ってくれよ」
「ん~……優希の遊び相手くらいか? 心配なのは……」
「あ~……任せろ」
仕事ばかりになると、確実に優希は拗ねる。習い事は多くなったが、それでも寂しさがあったりするだろう。学校のない土日に特にこちらにかかり切りになりそうなのだ。フォロー要員は必要だった。
何はともあれ、問題は未だ山積みだ。
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