秘伝賜ります

紫南

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第六章 秘伝と知己の集い

333 止めてくれる大人は貴重です

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高耶が見下ろしている部屋から吹っ飛ばされてきた男達は、ひっくり返っており、頭が下。丸まって、足が頭の上で揺れている。

感じたこともないゾクっとした悪寒によって、強制的に目覚めた彼らは、しばらく自分の体勢がどうなっているのか分からなかったようだ。

「え?」
「は? あれ?」

逆さになっており、縮まったことで胸が苦しい。そして、見下ろしてくる何か。

「っ……うぐっ」
「っ、くっ」

ようやくひっくり返っていることが分かり、横に転がって見たが、カタカタと自分の体が震えていて立ち上がれなかった。

「っ、な……なんで……っ」
「っ、はっ……うくっ……っ」

顔が上げられないと感じている彼らに、高耶は低い声で問いかける。

「……お前ら……何をしたのか分かってるのか……」
「「っ……」」

呼吸は早くなり、過呼吸気味になっていく。それを二人の男は止めることもできず、混乱していく。

「おい……こっち見て答えろ」

高耶は屈み込み、視線の高さを合わせると、男達を睨める。

「「っ、っ!!」」

声も出ないほどの恐怖。それは畏怖だった。だが、そんな事が分かるはずもなく、男達は目を忙しなく泳がせる。

そこに、伊調が声をかけた。

「御当主。お怒りは分かります。ですが……神気が漏れております。周りにも影響が……」
「……ああ……申し訳ない……」

ふうとゆっくりと息を吐きながら、立ち上がる高耶。膨れ上がっていた感情を抑える。精神をも鍛えている高耶には、そう難しいことではなかった。

「構いませんよ。それに、御当主自ら尋問なさることではございません。わたくしどもにお任せください。きっちり白状させてみせましょう」

ニコニコと笑う伊調。古くから伊調を知る者でも、伊調が笑うことなどあり得ないと思われている。そんな伊調のいい笑顔だ。

大丈夫そうだと高耶にも分かる。

「……お願いします……」
「承りました」

優雅に礼を取ると、後から来た神楽部隊の数人が、男達を離れの方へと引き摺っていく。

部屋の中にも声をかけ、中で目を回していた男達も引き渡されていっていた。

「御当主。ご連絡だけお願いいただけますか?」
「ああ……はい……」

伊調に頼まれ、高耶はスマホを取り出す。

「では、連盟とこちらと奥の隠し場所の修理のために清掃部隊と、彼らの引き渡しのために警察を。ああ、確か神具、仏具の窃盗の担当はゲンさんでしたよ」
「……分かりました……」

伊調は分かっているのだ。これらに高耶が連絡すれば、十数分の内には、全てが動き、集まると。

それだけすぐに動いてほしい案件だということでもある。

「では、尋問は始めておきます」
「はい……」

またいい笑顔を見た。今度は、怒りが滲み出ているのを確認できた。

神のためにあろうとする神楽部隊にとって、神具や仏具を盗む不届きものなど、滅殺すべき害虫と変わらないのだろう。

高耶も気持ちが分かるからキレたのだ。

すぐにメールや電話で応援を手配すれば、扉の固定をお願いされた。

「俊哉。こっちの向かいの部屋って空いてるのか?」
「うん。この辺は空いてる」

扉を固定するのにもちょうど良さそうだ。

「武雄。この部屋。すぐに修理するから、向かいの部屋を貸してくれ」
「え? 修理って……いや、けど……」

武雄はそっと事があった部屋を覗く。無惨にも破壊された部屋が確認できたらしい。

ちなみに、男達を連行する中に、綺翔も柊も松も混ざっていた。

俊哉がフラフラっとそのままついて行きそうになっていたのを武雄が止めていたのだ。

「これ……直すの?」
「問題ない。壊したままの方が危ないしな。奥で見つかったって言う隠し場所の所でも修理が必要みたいだし、ついでだ」
「わ、分かった。おばあちゃんに伝えてくる……」
「頼んだ」

そうして、向かいの部屋のドアに手を添えて、高耶は思い出したように俊哉を振り返る。

「俊哉。解散させてくれ」
「へ? ああ。マネージャーの俺に任せろよ!」

俊哉は張り切って、野次馬になっていた同級生達を解散させていく。そこに時島も来たことで、なんとか部屋に戻ってくれたようだ。

高耶もできればゆっくり温泉でも浸かって、休みたいところだが、仕方ないなと部屋の中に入って扉を連盟の待つ屋敷の一つに繋いだ。

そこで待ち構えていたのは焔泉だった。

「高坊はほんに、期待を裏切らんなぁ」
「……」

コロコロと笑うこの人には、ちょっとイラッとした高耶だった。








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読んでくださりありがとうございます◎
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