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第六章 秘伝と知己の集い
299 修行するアイドル
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しばらくして、統二が戻ってきた。
「兄さん、体育館は使っているんですが、舞台の方は使っていないので、そこでも大丈夫ですか?」
「ああ。問題ない」
これに、俊哉が首を傾げる。
「何に使ってんだ? 部活も今はやってねえんだろ?」
「大きな段幕作るのに使ってるみたいです」
「あ~、教室だと他にもやる事あるし?」
「ですね」
運動部が使っている訳ではないので、側を通過するのに邪魔にはならないだろう。舞台へ行くくらいは問題なさそうだ。
「けど、一応、人払いの術は掛けた方がいいかもしれないです」
「御当主様は雰囲気だけでも目を惹きますからね。是非、その魅力の出し方をお教えいただきたいです」
「……」
魅力の出し方と言われても、高耶には全く分からないものだ。
そこで、律音が、再び髪をボサボサにし直しているのを見て、統二が目を瞬かせる。
「えっと……先輩ですよね? さっきと雰囲気が……」
「統二も知らねえの? アレだよ! 最近人気のアイドル! リツト!」
「え……っ、あっ! え!? この学校だったんですか!?」
「あはは。よく擬態できてるでしょう?」
「はい……兄さんのステルスモードよりすごいですね……」
統二は、高耶の普段のオタクルックをステルスモードと言った。これに、俊哉が吹き出した。
「ぷっ。ステルスモード! あははっ。確かにぃ。大学じゃ、術も使ってないのに、人に紛れるんだよな~」
「人払いの術……使わずに……ですか? やはり、それは秘伝の……」
律音が興味津々の様子を見せる。頭はボサボサになったが、まだメガネをかけていないので、それほど変化はない。爽やか少年だ。
期待する律音に向けて、高耶は苦笑しながら答える。
「……まあ……歩き方とか、動き方だけでも、人に紛れることはできるから……そう難しくはない」
「っ、是非教えていただけないでしょうか!」
「……構わないが……アイドルなら、忙しいだろう」
「いえ。『無理なく』『仕事より勉強』がモットーの事務所なので。これも勉強の一つとしてやらせていただきますっ」
勉強や修行しながらすることで、アイドルとしての力にもなるということらしい。
俊哉が感心しながら、机に頬杖を突いて口を開く。
「ガツガツしてなくて良いんじゃね? ほら、アイドルって、裏あるって言うじゃん。見せてる顔と普段は違うってえの? それも演技出来てるって感じでカッコいいけどさあ、やっぱ、普段も見せてる顔のままでいて欲しいって思うじゃん」
「そうですね。私もそう思います。なので、是非ともステルスモードというのは、習得したいですね」
前向きな子だった。音一族は、努力する一族だ。これを断れる高耶ではなかった。
「……時間の調整をして、後日連絡するってことでもいいか?」
「もちろんです! 他の家の者も良いでしょうか!」
「ああ。個人指導にはならないかもしれないが」
「十分です! ありがとうございます!」
そうして、話がまとまった所で、体育館へと向かった。
人払いの術を掛けて注目されないようにしながら舞台に上がり、高耶は過去視をする。
「……間違いないな。社の位置は、あの右端くらいだ」
「そうですか……では、御当主様にお願いが」
改めて、真面目な顔で、今は陰気な姿をしている律音が高耶の前に立った。その改まった様子に、高耶は少しだけ身構えた。
「俺が出来ることならいいが……」
これを待ってましたとばかりに、律音は笑顔を浮かべた。
「はい! 御当主様は、ピアノを弾かれるとか。文化祭の最後に、軽音など、発表する場があるのですが、そこで私と、舞台に上がっていただけないでしょうかっ」
「……」
「一緒に奉納ライブをしてください!」
まさかの提案に、高耶も統二や俊哉でさえ、言葉を失った。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
「兄さん、体育館は使っているんですが、舞台の方は使っていないので、そこでも大丈夫ですか?」
「ああ。問題ない」
これに、俊哉が首を傾げる。
「何に使ってんだ? 部活も今はやってねえんだろ?」
「大きな段幕作るのに使ってるみたいです」
「あ~、教室だと他にもやる事あるし?」
「ですね」
運動部が使っている訳ではないので、側を通過するのに邪魔にはならないだろう。舞台へ行くくらいは問題なさそうだ。
「けど、一応、人払いの術は掛けた方がいいかもしれないです」
「御当主様は雰囲気だけでも目を惹きますからね。是非、その魅力の出し方をお教えいただきたいです」
「……」
魅力の出し方と言われても、高耶には全く分からないものだ。
そこで、律音が、再び髪をボサボサにし直しているのを見て、統二が目を瞬かせる。
「えっと……先輩ですよね? さっきと雰囲気が……」
「統二も知らねえの? アレだよ! 最近人気のアイドル! リツト!」
「え……っ、あっ! え!? この学校だったんですか!?」
「あはは。よく擬態できてるでしょう?」
「はい……兄さんのステルスモードよりすごいですね……」
統二は、高耶の普段のオタクルックをステルスモードと言った。これに、俊哉が吹き出した。
「ぷっ。ステルスモード! あははっ。確かにぃ。大学じゃ、術も使ってないのに、人に紛れるんだよな~」
「人払いの術……使わずに……ですか? やはり、それは秘伝の……」
律音が興味津々の様子を見せる。頭はボサボサになったが、まだメガネをかけていないので、それほど変化はない。爽やか少年だ。
期待する律音に向けて、高耶は苦笑しながら答える。
「……まあ……歩き方とか、動き方だけでも、人に紛れることはできるから……そう難しくはない」
「っ、是非教えていただけないでしょうか!」
「……構わないが……アイドルなら、忙しいだろう」
「いえ。『無理なく』『仕事より勉強』がモットーの事務所なので。これも勉強の一つとしてやらせていただきますっ」
勉強や修行しながらすることで、アイドルとしての力にもなるということらしい。
俊哉が感心しながら、机に頬杖を突いて口を開く。
「ガツガツしてなくて良いんじゃね? ほら、アイドルって、裏あるって言うじゃん。見せてる顔と普段は違うってえの? それも演技出来てるって感じでカッコいいけどさあ、やっぱ、普段も見せてる顔のままでいて欲しいって思うじゃん」
「そうですね。私もそう思います。なので、是非ともステルスモードというのは、習得したいですね」
前向きな子だった。音一族は、努力する一族だ。これを断れる高耶ではなかった。
「……時間の調整をして、後日連絡するってことでもいいか?」
「もちろんです! 他の家の者も良いでしょうか!」
「ああ。個人指導にはならないかもしれないが」
「十分です! ありがとうございます!」
そうして、話がまとまった所で、体育館へと向かった。
人払いの術を掛けて注目されないようにしながら舞台に上がり、高耶は過去視をする。
「……間違いないな。社の位置は、あの右端くらいだ」
「そうですか……では、御当主様にお願いが」
改めて、真面目な顔で、今は陰気な姿をしている律音が高耶の前に立った。その改まった様子に、高耶は少しだけ身構えた。
「俺が出来ることならいいが……」
これを待ってましたとばかりに、律音は笑顔を浮かべた。
「はい! 御当主様は、ピアノを弾かれるとか。文化祭の最後に、軽音など、発表する場があるのですが、そこで私と、舞台に上がっていただけないでしょうかっ」
「……」
「一緒に奉納ライブをしてください!」
まさかの提案に、高耶も統二や俊哉でさえ、言葉を失った。
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