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第六章 秘伝と知己の集い
274 力のある大人って怖い
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食事会の時、高耶は修に小学校の学芸会の伴奏についての話をしていた。時島先生や校長の那津とも年齢が近いこともあり、気も合ったらしい。
一時期は引退を考えていたこともあり、修は現在冬にあるコンサート以外の仕事はないという。そこで、息抜きにもなるし、手伝いたいと言い出したのだ。
『私は今まで自分のことばかりで……誰かに教えるというのも、大学からの依頼とかで数回だけ。高耶君が知っての通り、父はあまり教えることに興味がなくて、手伝うこともなかったしね』
父である霧矢賢に、早くから教え子が居たなら、息子である修にレッスンを任せる時もあったかもしれない。
しかし、賢はそうしたことをしなかった。だから、修もあまりやろうとも思わなかったらしい。
『私にとっても、良い経験になるし、息抜きにもなる。それに、高耶君は忙しいでしょう? こういうことで力になれるなら、嬉しいな』
そこまで言われては、高耶も遠慮しますなんて言えなかった。
そして、今日。打ち合わせのために小学校に行くと聞いて、修から一緒に行くとメールが届いたのだ。
小学校手前の公園で待ち合わせることになった。着いて公園内へ目を向けた所で、すぐに修がやって来るのが見えた。
「待たせたかな」
「いえ。メールを確認しようかと思っていたところです」
「良かった。今日はいい天気だね。向こうの世界ほどではないけど」
比べているのは、昨日まで過ごした瑶迦の作った世界だ。天気も瑶迦の思うまま。陽の光は暑すぎることもなく、そもそも、太陽とは違うので、紫外線もない。柔らかい光が降り注ぐ世界だった。大地にある草木も生き生きと煌めき、とても明るく見えるのだ。
「瑶迦さんの所は、空気も良いですしね」
「確かにっ」
笑い合いながら、小学校の方へ並んで歩き出す。
「そうだ。エルラントさんから、メール届きましたか?」
「うんっ。専用のレッスン室を用意してくれるって……どうしよう……」
修や賢のファンであるエルラントが、瑶迦の世界に、修と高耶専用のレッスン室を用意すると、興奮気味に食事会の時に言っていたのだ。もちろん、優希や可奈、美由という高耶の教え子達とも使えるようにとのことだった。
高耶は嬉しい反面、少しだけ不安を感じていた。
「一度一緒に確認しましょう。ただ……嫌な予感はしていて……どうも、部屋一つじゃなくて、屋敷一つになりそうで……」
「えぇっ……」
「運び込まれたピアノの台数が多かったと、今日家を出る時に聞いたんです……」
「……」
家を出てくる時。修と会うと話していて、エリーゼが口を滑らせたのだ。
『《世界には色んな大きさのピアノがあるんやな~って、感動したんです! 明け方に黒子さん達が仰山並んで運んで行きましたっ》』
エリーゼが目を輝かせるほど『仰山並んで』というのが、半端な量ではない気がするのだ。
そして、確信するのはエルラントから来たメール。
『ホールでも練習できる方がいいよね?』
劇場まで作っていそうなのだ。あらゆる場面、場所を想定したレッスン室ができている予感がする。
「ホールによっても、響き方とか違いますから、そこも考えてくれてそうなんです」
「……ど、どうしよう……っ」
「どうにもなりません……エルラントさんは、やると言ったらやります。昔……つい、お城のパーティというのを見てみたいと言ったことがあって……」
「……嫌な予感が……」
高耶としては、異世界もののラノベでのダンスパーティというのを、実際にあったらどんなのかなと思っただけだ。もちろん、そこに居るエルラントの姿も見てみたかったというのもある。
「エルラントさん……お城、似合うじゃないですか……あの、いかにも王族な服装とか似合いそうで……」
「うん……」
「『じゃあ、お城でパーティしてみようか』と言われて……次の日、城を貸し切ってパーティを……その日にダンスを教えられました……」
「……」
これでどうだと微笑まれ、いかにもな馬車に乗せられて城に連れて行かれたのだ。
「ヨーロッパの方では、古城のホテルとかあるので、無理ではないんでしょうけど……思い付いた次の日に貸し切って、知り合い集めてパーティとか……普通じゃないよな~と……」
「うん……普通じゃないね……」
行動力も伝も半端ない。それがエルラントだ。
絶対にとんでもないのが、次に行った時には建っているのだろうなと高耶は重くため息を吐いた。
修は気持ちを切り替えようと顔を上げる。
「と、とりあえず、学芸会の伴奏について頑張りましょう」
「はい……」
そして、学校に着いた。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
一時期は引退を考えていたこともあり、修は現在冬にあるコンサート以外の仕事はないという。そこで、息抜きにもなるし、手伝いたいと言い出したのだ。
『私は今まで自分のことばかりで……誰かに教えるというのも、大学からの依頼とかで数回だけ。高耶君が知っての通り、父はあまり教えることに興味がなくて、手伝うこともなかったしね』
父である霧矢賢に、早くから教え子が居たなら、息子である修にレッスンを任せる時もあったかもしれない。
しかし、賢はそうしたことをしなかった。だから、修もあまりやろうとも思わなかったらしい。
『私にとっても、良い経験になるし、息抜きにもなる。それに、高耶君は忙しいでしょう? こういうことで力になれるなら、嬉しいな』
そこまで言われては、高耶も遠慮しますなんて言えなかった。
そして、今日。打ち合わせのために小学校に行くと聞いて、修から一緒に行くとメールが届いたのだ。
小学校手前の公園で待ち合わせることになった。着いて公園内へ目を向けた所で、すぐに修がやって来るのが見えた。
「待たせたかな」
「いえ。メールを確認しようかと思っていたところです」
「良かった。今日はいい天気だね。向こうの世界ほどではないけど」
比べているのは、昨日まで過ごした瑶迦の作った世界だ。天気も瑶迦の思うまま。陽の光は暑すぎることもなく、そもそも、太陽とは違うので、紫外線もない。柔らかい光が降り注ぐ世界だった。大地にある草木も生き生きと煌めき、とても明るく見えるのだ。
「瑶迦さんの所は、空気も良いですしね」
「確かにっ」
笑い合いながら、小学校の方へ並んで歩き出す。
「そうだ。エルラントさんから、メール届きましたか?」
「うんっ。専用のレッスン室を用意してくれるって……どうしよう……」
修や賢のファンであるエルラントが、瑶迦の世界に、修と高耶専用のレッスン室を用意すると、興奮気味に食事会の時に言っていたのだ。もちろん、優希や可奈、美由という高耶の教え子達とも使えるようにとのことだった。
高耶は嬉しい反面、少しだけ不安を感じていた。
「一度一緒に確認しましょう。ただ……嫌な予感はしていて……どうも、部屋一つじゃなくて、屋敷一つになりそうで……」
「えぇっ……」
「運び込まれたピアノの台数が多かったと、今日家を出る時に聞いたんです……」
「……」
家を出てくる時。修と会うと話していて、エリーゼが口を滑らせたのだ。
『《世界には色んな大きさのピアノがあるんやな~って、感動したんです! 明け方に黒子さん達が仰山並んで運んで行きましたっ》』
エリーゼが目を輝かせるほど『仰山並んで』というのが、半端な量ではない気がするのだ。
そして、確信するのはエルラントから来たメール。
『ホールでも練習できる方がいいよね?』
劇場まで作っていそうなのだ。あらゆる場面、場所を想定したレッスン室ができている予感がする。
「ホールによっても、響き方とか違いますから、そこも考えてくれてそうなんです」
「……ど、どうしよう……っ」
「どうにもなりません……エルラントさんは、やると言ったらやります。昔……つい、お城のパーティというのを見てみたいと言ったことがあって……」
「……嫌な予感が……」
高耶としては、異世界もののラノベでのダンスパーティというのを、実際にあったらどんなのかなと思っただけだ。もちろん、そこに居るエルラントの姿も見てみたかったというのもある。
「エルラントさん……お城、似合うじゃないですか……あの、いかにも王族な服装とか似合いそうで……」
「うん……」
「『じゃあ、お城でパーティしてみようか』と言われて……次の日、城を貸し切ってパーティを……その日にダンスを教えられました……」
「……」
これでどうだと微笑まれ、いかにもな馬車に乗せられて城に連れて行かれたのだ。
「ヨーロッパの方では、古城のホテルとかあるので、無理ではないんでしょうけど……思い付いた次の日に貸し切って、知り合い集めてパーティとか……普通じゃないよな~と……」
「うん……普通じゃないね……」
行動力も伝も半端ない。それがエルラントだ。
絶対にとんでもないのが、次に行った時には建っているのだろうなと高耶は重くため息を吐いた。
修は気持ちを切り替えようと顔を上げる。
「と、とりあえず、学芸会の伴奏について頑張りましょう」
「はい……」
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