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第六章 秘伝と知己の集い
272 ファンでした……
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高耶は用意されていたホテルの部屋に入り、ソファに座って、目も閉じて脱力していた。
「はあ…………」
そこで、部屋に忍び込んできた者の気配に気付いた。
「……寿園」
《っ、気付くのはやい……》
少し目を開けて、扉の前に立つ少女を見た。銀髪のオカッパ頭。肩に切れ込みのある白いTシャツには、カラフルなペイント柄が入っている。下は膝上までのレザースカート。手首には細いリングがいくつかあり、指輪とネックレスにはドクロがついている。
どこからどう見ても座敷童子には見えない。やんちゃな不良少女の見た目だ。
「……珍しいな。そっちから近付いてくるのは」
高耶は背中をソファから離して、足に肘を立て、頬杖をつきながら彼女を見た。すると、気まずそうに目を逸らされる。
《……だって……》
寿園は自分から主人とした者以外にはあまり近付かない。そもそも、座敷童子はそういうものだ。だから本来は、瑶迦以外に姿を見せるものではない。
怖い存在だと認識され、畏怖されれば、その家に居られなくなる場合もあるのだ。慎重にもなるだろう。
ただ、瑶迦は特殊な存在だ。そして、座敷童子などの存在も認める術者達との交流もある。だから、寿園は比較的平気で人前にも現れた。
とはいえ、座敷童子と分からないようにするのは変わらない。そして、選んだ姿がこれだ。変わっている。
珀豪達でも『寿園殿』と呼ぶ存在。神にも並ぶほど、長く存在する者だ。精霊王でも気を遣う。
「……楽しかったか?」
《っ、うん……みんなが喜んだ》
「……そうか……」
格好からして見た目はやんちゃそうだし、笑い顔もなぜか含みのある顔になる寿園。けれど、中身は素直な少女のままだ。何百年と、変わらずこのままだった。
だから、無邪気にイタズラもするし、驚かせたりもする。
けれど、優希と遊ぶようになってからだろうか。彼女にも変化が起きていた。悪気なく嫌がらせのようなこともしていた寿園が、やらかしてからだが、不安そうにこちらの様子を伺うようになったのだ。
今回もそれだろう。イタズラした後、一人になると近くに来る。ただ、こうして向き合うことは初めてだった。
「俺に何か言いたいことがあるのか?」
《っ……た、高耶お、お兄ちゃんっ……》
「お兄っ……え?」
寿園が呼び方を気にすることなど、今までなかったから、驚いた。何より、こんなに普段喋らない。
《ううっ、お、お兄ちゃんって……呼んじゃ……ダメ?》
「へ? は? いや……別に構わんけど……」
《っ、なら高耶お兄ちゃんって、呼ぶっ》
「ああ……」
こちらも戸惑う。瑶迦さえ、名を彼女に呼ばれたことはないし、用があれば指を差すか服の裾を引っ張ってくるのが常のはずだった。
《た、高耶お兄ちゃん……っ、好きだから……みんなにも好きに……っ、なってもらいたかった……っ》
「……ん?」
もじもじと手を動かしながら、寿園はそう告白する。
《お兄ちゃんが好きな人……今日、いっぱいで……嬉しい……っ》
「……まさか……なら、迅さんの時とか……」
《お、教えてもらったの……っ、これっ、わ、わたしっ……っ、高耶お兄ちゃんのファンなのっ!!》
「っ、ファっ……ん……っ」
《えへへ……言っちゃった……っ、えへへっ》
「っ、ちょっ、寿園!?」
寿園は言うだけ言って、そのままいい笑顔を浮かべながら部屋を出て行ってしまった。
残された高耶は呆然とするしかない。
「……え……じゃあ何か……? 嫌がらせじゃなかった……?」
迅とのペアルック事件は、同じ高耶のファンを応援する寿園の好意だったようだ。
そして、これは後で教えられることだが、珀豪と同じスタイルを選んだ理由が『珀豪が高耶の最初の式神であるから』というものだった。
「……えぇぇ~……」
思い返してみれば色々と答えが合っていく。
頭を抱えた高耶は、そのままソファに突っ伏した。
「……女の子は分からんっ……」
高耶は気付かなかった。今回の食事会が、いつの間にか『高耶ファンクラブ交流会』になっているということに。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
「はあ…………」
そこで、部屋に忍び込んできた者の気配に気付いた。
「……寿園」
《っ、気付くのはやい……》
少し目を開けて、扉の前に立つ少女を見た。銀髪のオカッパ頭。肩に切れ込みのある白いTシャツには、カラフルなペイント柄が入っている。下は膝上までのレザースカート。手首には細いリングがいくつかあり、指輪とネックレスにはドクロがついている。
どこからどう見ても座敷童子には見えない。やんちゃな不良少女の見た目だ。
「……珍しいな。そっちから近付いてくるのは」
高耶は背中をソファから離して、足に肘を立て、頬杖をつきながら彼女を見た。すると、気まずそうに目を逸らされる。
《……だって……》
寿園は自分から主人とした者以外にはあまり近付かない。そもそも、座敷童子はそういうものだ。だから本来は、瑶迦以外に姿を見せるものではない。
怖い存在だと認識され、畏怖されれば、その家に居られなくなる場合もあるのだ。慎重にもなるだろう。
ただ、瑶迦は特殊な存在だ。そして、座敷童子などの存在も認める術者達との交流もある。だから、寿園は比較的平気で人前にも現れた。
とはいえ、座敷童子と分からないようにするのは変わらない。そして、選んだ姿がこれだ。変わっている。
珀豪達でも『寿園殿』と呼ぶ存在。神にも並ぶほど、長く存在する者だ。精霊王でも気を遣う。
「……楽しかったか?」
《っ、うん……みんなが喜んだ》
「……そうか……」
格好からして見た目はやんちゃそうだし、笑い顔もなぜか含みのある顔になる寿園。けれど、中身は素直な少女のままだ。何百年と、変わらずこのままだった。
だから、無邪気にイタズラもするし、驚かせたりもする。
けれど、優希と遊ぶようになってからだろうか。彼女にも変化が起きていた。悪気なく嫌がらせのようなこともしていた寿園が、やらかしてからだが、不安そうにこちらの様子を伺うようになったのだ。
今回もそれだろう。イタズラした後、一人になると近くに来る。ただ、こうして向き合うことは初めてだった。
「俺に何か言いたいことがあるのか?」
《っ……た、高耶お、お兄ちゃんっ……》
「お兄っ……え?」
寿園が呼び方を気にすることなど、今までなかったから、驚いた。何より、こんなに普段喋らない。
《ううっ、お、お兄ちゃんって……呼んじゃ……ダメ?》
「へ? は? いや……別に構わんけど……」
《っ、なら高耶お兄ちゃんって、呼ぶっ》
「ああ……」
こちらも戸惑う。瑶迦さえ、名を彼女に呼ばれたことはないし、用があれば指を差すか服の裾を引っ張ってくるのが常のはずだった。
《た、高耶お兄ちゃん……っ、好きだから……みんなにも好きに……っ、なってもらいたかった……っ》
「……ん?」
もじもじと手を動かしながら、寿園はそう告白する。
《お兄ちゃんが好きな人……今日、いっぱいで……嬉しい……っ》
「……まさか……なら、迅さんの時とか……」
《お、教えてもらったの……っ、これっ、わ、わたしっ……っ、高耶お兄ちゃんのファンなのっ!!》
「っ、ファっ……ん……っ」
《えへへ……言っちゃった……っ、えへへっ》
「っ、ちょっ、寿園!?」
寿園は言うだけ言って、そのままいい笑顔を浮かべながら部屋を出て行ってしまった。
残された高耶は呆然とするしかない。
「……え……じゃあ何か……? 嫌がらせじゃなかった……?」
迅とのペアルック事件は、同じ高耶のファンを応援する寿園の好意だったようだ。
そして、これは後で教えられることだが、珀豪と同じスタイルを選んだ理由が『珀豪が高耶の最初の式神であるから』というものだった。
「……えぇぇ~……」
思い返してみれば色々と答えが合っていく。
頭を抱えた高耶は、そのままソファに突っ伏した。
「……女の子は分からんっ……」
高耶は気付かなかった。今回の食事会が、いつの間にか『高耶ファンクラブ交流会』になっているということに。
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