秘伝賜ります

紫南

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第六章 秘伝と知己の集い

271 負けました

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屋敷に戻った所で、まず高耶は賑やかだなと思った。

この屋敷がこれほど賑やかになるのは初めてだ。瑶迦も大きな声を上げる人でもないし、ここに来る優希は子どもらしくはしゃぐ時もあるが、瑶迦のようなお姫様を目指しているため、それも控えめだった。

「皆さん、もう集まっているんでしょうか……これは……あちらの世界からですよね?」
「ああ……」

その声は、よくよく聞けば、瑶迦が作り出した世界の入り口の方から聞こえる。それが、屋敷の方まで響いてくるとは、どれほどの騒ぎようなのか。

「なんや? まだ開始の時間ではないやろう?」
「そうですねえ。昼過ぎですし、まだ三時間はあります」

食事会は、夕方の四時から。初めてあちらで食事をしたホテルで行うことになっている。そこの大ホールだ。

《お祭りでもあるのかい?》

将也には、美咲に会えるということが重要で、誰が来るかという詳しい説明を受けていなかった。経緯も知らないから呑気なものだ。

「ホテルでやるのに、ここまで声が聞こえるのはおかしいですよ。兄さん、早く行ってみましょう」
「ああ……」

高耶は嫌な予感がしていた。考え込む高耶に気付き、統二がその顔を覗き込んだ。

「どうしたんです?」
「……寿園のやつが珍しく動いていたのが気になってな……何か、やらかしていそうだなと……」
「どういうことが出来るんです?」
「予知、千里眼、透視……視ることに特化しているんだが……」
「すごいですね……」

視るだけのはずだ。だから、大それたことはできないと油断していると、痛い目に合う。

「この前は、藤さんと組んで……服が、全部偶然出先で会った迅さんと同じデザインの服だったんだ……っ」

その時の絶望感は忘れない。二度目でも泣きそうだった。

「それも五回っ……っ」

三回目で、もうないだろうと思った後に、まだ続いたのだ。さすがに心が折れそうになった。

「……兄さん……」
「……高坊……」
「……高耶くん……」

物凄く不憫な子を見る目で見られた。迅が異常なくらい高耶を好いているのは彼らも知っている。きっとエライことになっただろうと同情的だ。

両手で顔を覆い、高耶は弱々しく呟く。

「寿園のやつ……っ、何が気に入らなかったんだ……っ」
「「「……」」」

どれだけ高耶が強くても、精神力をも鍛えていても、寿園には敵わないことが証明された。

同時に、最古の屋敷精霊は、いじめっ子ではないかという疑惑が出てきた。

「絶対にあいつが何かしてる……っ」
「兄さん……すごく、さっきより気迫が……」
「心を強く持つんだっ。今日こそは鋼のメンタルを証明する!」

初めて見る。高耶が自分に言い聞かせている所。

「……兄さんが壊れた……っ」
「「……っ、これもいい」」

統二は心配になり、蓮次郎と焔泉はときめいた。

《頑張るんだぞ~、高耶!》

将也は純粋に、息子を応援していた。

「行くぞっ」

決意し、そこを通過すると、目の前では、野外上映会が行われていた。

「っ!!」

高耶は衝撃にふらついた。慌てて統二が支える。

「っ、兄さんっ」

そこに映っていたのは、紛れもない、先程本家で高耶がやってきたことをまとめた映像だった。編集まで完璧だ。

統二は、高耶を支えながらも、それに目を奪われた。因みに、スクリーンの所だけ闇の力で暗くしているため、はっきりと昼の日差しも関係なく見られている。

「えっと……兄さん……その……っ」
「っ、あ、ああ、すまん……」

あまりの衝撃に、支えてくれていた統二にも気付かなかった高耶が、重かったかと謝る。しかし、統二が気にしたのはそこではない。

「っ、いえっ、僕も見てきていいですかっ」
「……へ?」
「僕もっ、近くで見たいです!!」
「っ……」

興奮気味に、目を煌めかせて、統二はスクリーンを指差す。高耶の目から光が消えていっていることには気づかない。

「っ、あっ、ブラックな兄さんっ、正面からっ! ちょっ、ちょっと行ってきます!!」
「……」

既に、蓮次郎と焔泉は居なかった。将也も紛れ込んでいる。そして、高耶本人を他所に、アイドルを応援するファン達のように、大盛り上がりしていたのだ。

そして、ニヤリと笑う寿園と目が合った。

「……っ、逃げよう」

観客達に見つかったらまずいと、高耶はこの場から逃走した。

**********
読んでくださりありがとうございます◎
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