262 / 401
第六章 秘伝と知己の集い
262 覚悟してました
しおりを挟む
勇一は異変を確認してすぐ、他の者たちに言われて、仕事を先に切り上げると、その場に急いだ。
場所は式の居る場所として分かるので、困ることはない。
その道場を管理する家の者たちは、突然の勇一の来訪に驚く。
「っ、次期様っ……あ、当代様ならば道場に……」
高耶ではなく自分が正当な当主だと言って憚らない父、秀一は『当代様』と呼ばれ、勇一は次期当主であるとして『次期様』と呼ばれる。
今思えば、『当主』と呼ばれない、呼ばせないことこそ、自身が当主ではないと認めているようなもの。とても滑稽だ。
そんな内心の自嘲を隠しながら、勇一は声を張り上げた。
「道場の方で異変が起きている! 手を貸してくれ!」
「え、あ、はい! あなた方も行きますよ。他にも何人か呼んでくるように」
「「「「「はい!」」」」」
近くに居た者たちも連れ立って、勇一を先頭に道場へ駆ける。
道場を覗くと、式神の目で見た通り、中に居た十数人の男たちが倒れ伏していた。
「これはっ!? あ、旦那様っ」
この家の代表に駆け寄っていくのを見ながら、勇一は周りを慎重に確認する。式神は、この家の周りを上空から見回している。あの時に見た黒い何かがどこに行ったのか分からない。また戻って来ないとも限らないための見回りだ。
道場の中も確認し、倒れ伏している秀一の元へ向かった。
「父上」
「っ……」
弱々しく、目が薄く開けられた。だが、どうやら体に力が入らないようだ。起き上がれないようだった。
「何があったのですか」
「……っ、……からん……、つぜん……暗く……っ、力………っ」
耳を傾け、聞いたところによると、秀一にもわからないようだ。突然視界が暗くなったかと思うと、一気に体が冷え、力が抜けたらしい。そのまま気絶したのだろう。
「っ、すぐに病院へ……っ」
「っ、めだ!」
「……なぜ、ダメなのです……この状態では……」
「監視がっ……バレ……っ」
「っ……」
勇一も分かっていた。前の自分ならば、同じように考えたはずだ。この状態で病院に行けば、連盟も知ることとなり、正式な当主である高耶に何をしていたのかバレてしまう。
それはとてもみっともなく、本家直系としては許せないことだ。特にプライドの高い秀一は絶対に許せないだろう。
「っ、眠れば……問題ない……」
これに、勇一は頷いてしまった。高耶を呼んだとしても、秀一やそのシンパであるこの場の者たちは、高耶へ失礼な態度を取るだろう。
助けようとした所で、余計なことはするなと突っぱねる様が、目に浮かんだ。
「分かりました……ですが、どうなるか分かりません……他の者たちはこの場か、本家へ」
「「「「「はい!」」」」」
本家へ移動することが決まった。合宿なども行うことがあるため、大型のバンなど出すことができる。それに乗せて、全員を本家へと移動させた。
それから五日ほどが経った。
侍医も本家には居るので、見てもらったが、何かの影響を受けており、精神的な力が削られているのではないかとの見立てだった。
秀一をはじめ、あれから誰も目を覚さない。衰弱の仕方も酷くなってきており、かなりギリギリの者もいる。
何とかできるのは、恐らく高耶だけだ。それが勇一には分かった。けれど、秀一や本家に従う者たちは、高耶の実父を死に追いやった過去がある。助けなど求められない。
統二にも連絡をしている。いつ死んでもおかしくない状況なのだ。
いよいよ危ない者が出てきた。そこで統二に再び連絡を入れた。
自分は何もできない。弟にも見捨てられている。それが、とても惨めだった。けれどこれは、自分達の行ってきたものの結果だ。受け入れるしかない。
秀一の側に座り、衰弱したその顔を見つめる。
「……これは、報いです……せめて、向こうでは……素直に謝ってください」
高耶の実父、将也にきちんと謝ってほしい。決して非を認めず、未だ高耶に頭を下げなかった秀一。せめて死んだなら、きちんと反省してほしいと願った。
そこに統二と高耶が来たのだ。
「この人は死んでもダメだと思う」
「統二……はあ、まったく、こういうことは報告しろ」
「っ……」
冷たい統二の言葉と、呆れたようなため息を吐く高耶の声に、勇一は泣きそうになりながら振り返る。
高耶の態度から、助かるのだとわかったのだ。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
場所は式の居る場所として分かるので、困ることはない。
その道場を管理する家の者たちは、突然の勇一の来訪に驚く。
「っ、次期様っ……あ、当代様ならば道場に……」
高耶ではなく自分が正当な当主だと言って憚らない父、秀一は『当代様』と呼ばれ、勇一は次期当主であるとして『次期様』と呼ばれる。
今思えば、『当主』と呼ばれない、呼ばせないことこそ、自身が当主ではないと認めているようなもの。とても滑稽だ。
そんな内心の自嘲を隠しながら、勇一は声を張り上げた。
「道場の方で異変が起きている! 手を貸してくれ!」
「え、あ、はい! あなた方も行きますよ。他にも何人か呼んでくるように」
「「「「「はい!」」」」」
近くに居た者たちも連れ立って、勇一を先頭に道場へ駆ける。
道場を覗くと、式神の目で見た通り、中に居た十数人の男たちが倒れ伏していた。
「これはっ!? あ、旦那様っ」
この家の代表に駆け寄っていくのを見ながら、勇一は周りを慎重に確認する。式神は、この家の周りを上空から見回している。あの時に見た黒い何かがどこに行ったのか分からない。また戻って来ないとも限らないための見回りだ。
道場の中も確認し、倒れ伏している秀一の元へ向かった。
「父上」
「っ……」
弱々しく、目が薄く開けられた。だが、どうやら体に力が入らないようだ。起き上がれないようだった。
「何があったのですか」
「……っ、……からん……、つぜん……暗く……っ、力………っ」
耳を傾け、聞いたところによると、秀一にもわからないようだ。突然視界が暗くなったかと思うと、一気に体が冷え、力が抜けたらしい。そのまま気絶したのだろう。
「っ、すぐに病院へ……っ」
「っ、めだ!」
「……なぜ、ダメなのです……この状態では……」
「監視がっ……バレ……っ」
「っ……」
勇一も分かっていた。前の自分ならば、同じように考えたはずだ。この状態で病院に行けば、連盟も知ることとなり、正式な当主である高耶に何をしていたのかバレてしまう。
それはとてもみっともなく、本家直系としては許せないことだ。特にプライドの高い秀一は絶対に許せないだろう。
「っ、眠れば……問題ない……」
これに、勇一は頷いてしまった。高耶を呼んだとしても、秀一やそのシンパであるこの場の者たちは、高耶へ失礼な態度を取るだろう。
助けようとした所で、余計なことはするなと突っぱねる様が、目に浮かんだ。
「分かりました……ですが、どうなるか分かりません……他の者たちはこの場か、本家へ」
「「「「「はい!」」」」」
本家へ移動することが決まった。合宿なども行うことがあるため、大型のバンなど出すことができる。それに乗せて、全員を本家へと移動させた。
それから五日ほどが経った。
侍医も本家には居るので、見てもらったが、何かの影響を受けており、精神的な力が削られているのではないかとの見立てだった。
秀一をはじめ、あれから誰も目を覚さない。衰弱の仕方も酷くなってきており、かなりギリギリの者もいる。
何とかできるのは、恐らく高耶だけだ。それが勇一には分かった。けれど、秀一や本家に従う者たちは、高耶の実父を死に追いやった過去がある。助けなど求められない。
統二にも連絡をしている。いつ死んでもおかしくない状況なのだ。
いよいよ危ない者が出てきた。そこで統二に再び連絡を入れた。
自分は何もできない。弟にも見捨てられている。それが、とても惨めだった。けれどこれは、自分達の行ってきたものの結果だ。受け入れるしかない。
秀一の側に座り、衰弱したその顔を見つめる。
「……これは、報いです……せめて、向こうでは……素直に謝ってください」
高耶の実父、将也にきちんと謝ってほしい。決して非を認めず、未だ高耶に頭を下げなかった秀一。せめて死んだなら、きちんと反省してほしいと願った。
そこに統二と高耶が来たのだ。
「この人は死んでもダメだと思う」
「統二……はあ、まったく、こういうことは報告しろ」
「っ……」
冷たい統二の言葉と、呆れたようなため息を吐く高耶の声に、勇一は泣きそうになりながら振り返る。
高耶の態度から、助かるのだとわかったのだ。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
112
お気に入りに追加
1,304
あなたにおすすめの小説
殿下から婚約破棄されたけど痛くも痒くもなかった令嬢の話
ルジェ*
ファンタジー
婚約者である第二王子レオナルドの卒業記念パーティーで突然婚約破棄を突きつけられたレティシア・デ・シルエラ。同様に婚約破棄を告げられるレオナルドの側近達の婚約者達。皆唖然とする中、レオナルドは彼の隣に立つ平民ながらも稀有な魔法属性を持つセシリア・ビオレータにその場でプロポーズしてしまうが───
「は?ふざけんなよ。」
これは不運な彼女達が、レオナルド達に逆転勝利するお話。
********
「冒険がしたいので殿下とは結婚しません!」の元になった物です。メモの中で眠っていたのを見つけたのでこれも投稿します。R15は保険です。プロトタイプなので深掘りとか全くなくゆるゆる設定で雑に進んで行きます。ほぼ書きたいところだけ書いたような状態です。細かいことは気にしない方は宜しければ覗いてみてやってください!
*2023/11/22 ファンタジー1位…⁉︎皆様ありがとうございます!!
魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます
ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう
どんどん更新していきます。
ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。
婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな
カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界
魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた
「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね?
それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」
小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く
塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう
一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが……
◇◇◇
親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります
(『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です)
◇◇◇
ようやく一区切りへの目処がついてきました
拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです
婚約破棄の場に相手がいなかった件について
三木谷夜宵
ファンタジー
侯爵令息であるアダルベルトは、とある夜会で婚約者の伯爵令嬢クラウディアとの婚約破棄を宣言する。しかし、その夜会にクラウディアの姿はなかった。
断罪イベントの夜会に婚約者を迎えに来ないというパターンがあるので、では行かなければいいと思って書いたら、人徳あふれるヒロイン(不在)が誕生しました。
カクヨムにも公開しています。
転生したら死にそうな孤児だった
佐々木鴻
ファンタジー
過去に四度生まれ変わり、そして五度目の人生に目覚めた少女はある日、生まれたばかりで捨てられたの赤子と出会う。
保護しますか? の選択肢に【はい】と【YES】しかない少女はその子を引き取り妹として育て始める。
やがて美しく育ったその子は、少女と強い因縁があった。
悲劇はありません。難しい人間関係や柵はめんどく(ゲフンゲフン)ありません。
世界は、意外と優しいのです。
公爵家長男はゴミスキルだったので廃嫡後冒険者になる(美味しいモノが狩れるなら文句はない)
音爽(ネソウ)
ファンタジー
記憶持ち転生者は元定食屋の息子。
魔法ありファンタジー異世界に転生した。彼は将軍を父に持つエリートの公爵家の嫡男に生まれかわる。
だが授かった職業スキルが「パンツもぐもぐ」という謎ゴミスキルだった。そんな彼に聖騎士の弟以外家族は冷たい。
見習い騎士にさえなれそうもない長男レオニードは廃嫡後は冒険者として生き抜く決意をする。
「ゴミスキルでも美味しい物を狩れれば満足だ」そんな彼は前世の料理で敵味方の胃袋を掴んで魅了しまくるグルメギャグ。
婚約破棄されたので暗殺される前に国を出ます。
なつめ猫
ファンタジー
公爵家令嬢のアリーシャは、我儘で傲慢な妹のアンネに婚約者であるカイル王太子を寝取られ学院卒業パーティの席で婚約破棄されてしまう。
そして失意の内に王都を去ったアリーシャは行方不明になってしまう。
そんなアリーシャをラッセル王国は、総力を挙げて捜索するが何の成果も得られずに頓挫してしまうのであった。
彼女――、アリーシャには王国の重鎮しか知らない才能があった。
それは、世界でも稀な大魔導士と、世界で唯一の聖女としての力が備わっていた事であった。
1人生活なので自由な生き方を謳歌する
さっちさん
ファンタジー
大商会の娘。
出来損ないと家族から追い出された。
唯一の救いは祖父母が家族に内緒で譲ってくれた小さな町のお店だけ。
これからはひとりで生きていかなくては。
そんな少女も実は、、、
1人の方が気楽に出来るしラッキー
これ幸いと実家と絶縁。1人生活を満喫する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる