秘伝賜ります

紫南

文字の大きさ
上 下
161 / 410
第四章 秘伝と導く音色

161 影響が出てるかもしれません

しおりを挟む
週末。

待ち合わせの場所は、件の別荘のある最寄りの駅だ。最寄りとはいえ、別荘のある山は遠い。

駅に近い小屋に、扉を繋げてやって来た高耶と源龍は、駅に向けて歩きながら、山の方を見て目を細めていた。

「嫌な感じしますね……」
「あれから霊穴れいけつの開きやすい場所の地図を確認したんだけど……ここはチェックされていなかったよ。さっきの小屋もあまり手入れされていなかったしね……」

霊穴の開きやすい場所というのは各地にある。それらは連盟で管理し、間違っても妖が霊穴から出てきて騒ぎを起こさないように注意していた。

そのため、移動用の扉も連盟で管理されており、こうした山深い場所では、所有物件として一つ確保されているのだ。地方での扉を確保する行脚師あんぎゃし達が掃除をしたり補修をしたりするのだが、ここの扉は使う頻度が低いのか掃除や補修が行き届いていなかった。

「……別荘の事が終わったら確認に行きます」

霊穴の状態はどのみち誰かが確認しなくてはならないだろう。

「私も行くよ」
「いいんですか?」
「寧ろ、なんで一人でやろうとしているのかな」
「……ん?」
「……高耶くん……」

一人で行動することが常だった高耶だ。約束した仕事以外にまで源龍を付き合わせるつもりがなかった。

その上、高耶は能力が高い。これにより、難しい案件でもなんとか出来てしまう。本来ならば連盟に報告し、対応する人選をしてもらい、後日その人が対処する。

しかし、高耶の場合。報告した問題がそのまま高耶の仕事として割り振られるため、その流れで報告後にすぐ『よろしく!』とされ『やっておきます!』で終わるのだ。

「高耶君って、本当に仕事人間なんだね」
「そう……ですか?」
「そうだよ。これは知ってる安倍の当主達が心配するわけだよね……」
「……?」

なぜかしみじみと言われた後、大きくため息をつかれた。

駅に着くと同時に陽が車でやって来た。

「高耶くんっ。待たせたかな」
「いいえ。今到着した所ですよ」

と言われても、陽は困った顔をした後に頭を下げた。数十分に一本しか電車は到着しないのだ。待たせたかどうかはよく分かる。

それを察したのだろう。源龍が笑って説明した。

「高耶くん。彼は私達の仕事のことも見て知っているのかな」
「あ、はい」
「なら良いね。私達は移動のための特別な手段があるので、電車は使っていないんですよ。なので、本当に今到着したばかりです」
「え……ああ。そうでしたか」

ここでようやく高耶も気付く。

「すみません。言っていなかったですね。移動に問題がないので、ここを待ち合わせ場所にしたんです」
「なるほど」

今回は依頼人の霧矢修きりやしゅうだけでなく、陽とその友人の建築士である野木崎仁のぎさきひとしも同席することになっていた。

そのため、何台も車を連ねて行くよりは、近くまで来てそこから連れて行ってもらおうと考えたのだ。陽達は申し訳なさそうにしていたが、高耶としては、ギリギリまで家に居られるのでこの方が断然良い。

「それじゃあ、乗ってくれ」
「はい。お願いします」

高耶と源龍は陽の車に乗り、細い山道を進んだ。

「途中の道で崖崩れがあってね。大雨とかはなかったと聞いたんだが、困るよね。この道は少し悪いんだ。まあ、揺れるが落ちることはないから」
「そうでしたか……」
「……高耶君……」
「ええ……影響が出ているかもしれません……上に着いたら綺翔に調べさせます」
「そうだね……頼むよ」

後部座席で並ぶ高耶と源龍はそうして相談し合う。それぞれが外の景色を確認しながら、霊穴の影響を確認していた。

「暗いのは……」
「妖だね……ここまで来ると……うん。あの辺は、瘴気が出ているかも」
「マズいですね……」
「本部に報告するよ。すみません、少し電話させてもらいます」
「え、あ、はい」

陽は源龍にドギマギしながらバックミラーごしに頷いた。まだ源龍のことをきちんと紹介していないので緊張もしているのだろう。何と言っても見た目が女性かと見紛うほどの美形なのだから。

電話で話しだした源龍。それを確認して、高耶は身を乗り出す。陽が不安そうだったのだ。

「少しここの土地で妖が多くなっているようなので、本部の方に報告しているんです」
「そうなのかい……」
「大丈夫ですよ。異変があるのはあちらの山の方ですので」
「へえ……まあ、高耶くんに任せておけば大丈夫かな?」
「あまり期待されても困りますが、今回は助っ人も居ますし、何とかしますよ」
「そう……うん。頼むよ」

少し安心したように、陽の肩から力が抜けていた。

************
読んでくださりありがとうございます◎
しおりを挟む
感想 541

あなたにおすすめの小説

称号は神を土下座させた男。

春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」 「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」 「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」 これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。 主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。 ※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。 ※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。 ※無断転載は厳に禁じます

シルバーヒーローズ!〜異世界でも現世でもまだまだ現役で大暴れします!〜

紫南
ファンタジー
◇◇◇異世界冒険、ギルド職員から人生相談までなんでもござれ!◇◇◇ 『ふぁんたじーってやつか?』 定年し、仕事を退職してから十年と少し。 宗徳(むねのり)は妻、寿子(ひさこ)の提案でシルバー派遣の仕事をすると決めた。 しかし、その内容は怪しいものだった。 『かつての経験を生かし、異世界を救う仕事です!』 そんな胡散臭いチラシを見せられ、半信半疑で面接に向かう。 ファンタジーも知らない熟年夫婦が異世界で活躍!? ーー勇者じゃないけど、もしかして最強!? シルバー舐めんなよ!! 元気な老夫婦の異世界お仕事ファンタジー開幕!!

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

処理中です...