秘伝賜ります

紫南

文字の大きさ
上 下
77 / 419
第二章 秘伝の当主

077 参加しないでください

しおりを挟む
2018. 10. 24

**********

「はぁ……それで、達喜さん? なぜここにいらっしゃるので……」

さすがに、このままでは充雪の社しか残らないのではないかと心配になり、意を決して門をくぐったのだが、そこに、思わぬ人物がいた。

「いやなに。焔泉殿に電話をもらってな。せっかくだから、一緒にカチコっ……んんっ、道場破りをどうかとな」
「……もうカチコミでいいです……」

言い直す必要はない。間違いなく、これはカチコミだ。だって、遠慮なく銃弾ではないが、風や水や火や土の弾が飛びまくっている。

武でいく道場破りとは絶対に言えない。

秘伝での武の象徴である充雪が率先して指揮を執っているので、これはこれで良いのだろう。ご先祖様推奨なのだから。

「近くに来ていたんですか?」
「おう。分家が近くにあってな。茶をしてた。お前んとこと違って、うちは本家とか分家とかあんま気にしねぇからな」
「それはいいですね……」

聞く所によると、達喜の所は彼のように陽気で小さな事を気にしない者達ばかりらしい。一族内で諍いはなく、むしろ当主の座は面倒だと押し付け合うほどだという。達喜本人も、押し付けられたと言って憚らない。

「んで? 高耶は混じんねぇの?」
「……あれにどう混じれと……? 既に家が半壊してるじゃないですか……」
「おう。あれは凄かったぞっ。あっちの家なんてレーザーみたいなので真っ二つだしよぉ。そんであっちは腐食したみたいにサ~ッと砂みたいになって消えた」
「……」

犯人が分かってしまった。

「アレってあれだよっ。勇者! 聖剣持った勇者がいたんだって。そんで魔王もいたぞ! すっげぇ色っぽい姉ちゃん! あれ誰だよっ、高耶の式神だろっ」
「……そのようです……」

確信した。

「光の常盤と、闇の黒艶です……四神ではないので、あまり外に出していませんが……」

あの行儀の良い常盤や、自身の特殊性を理解して理性的に振る舞う黒艶までもが率先して破壊行動に勤しんだとは意外だ。

「へぇっ。六神とか、お前は本当にすげぇなぁ。最近は四神でも契約しきれねぇって言われてんのによぉ」
「たまたまです……」

陰陽師達の力も、昔と比べると全体的に落ちてきている。四神との契約というのも、できない者もある。

さすがに、首領達は四神を持っているが、他の家の当主でも神と契約できる者は少ない。代わりに妖と主従の契約をする者が増えている。

「それに、今日見て思ったが、お前の式……あれだろ。いわゆる、精霊王だろ」
「っ……」

彼のような者は見ればわかる。何より、今の状況がそれをはっきりと示している。どれだけ本家の他の式神達が出てこようと、高耶の式神達には敵わないのだ。格が違うと言えた。

本当に高耶が式神達に言って本家をどうにかしろと言えば、この本家の者と契約をした式神達はすぐにその契約を打ち切って消えるだろう。

彼らにとって、高耶の式神達は王だ。本来、事を構える事すら許されない。

それは、達喜達の式神にも言えることだった。

「隠してたのか?」
「いえ……ただ、いらぬ諍いを避けようとは思っていました。契約した当初は式神達にも力関係があるとは思いませんでしたし……」

高耶が彼らと契約したのは、十歳そこそこの頃だ。そういう、しがらみのようなものについて考える頭はなかった。

「充雪もそういうの教えてくれなくて……俺が彼らのことを知ったのは、大陸の方での仕事の時でしたし」

時折、大陸の方のエクソシストと合同で仕事をする時がある。その時に珀豪達が精霊王だと知ったのだ。お陰で、あちらでは子どもだからと舐められる事もなく、むしろ歓迎されていた。

「なるほど。だからあっちから回される仕事の時、お前が来ないか一々確認されんだな。納得した」
「確認されるんですか……」

それは知らなかった。

「おう。もしかして変な感じに目ぇ付けられてんじゃねぇかと思って、高耶にはあんまあっちの仕事、回さんようにしてたんだよ」
「それは……すみませんでした」

それも初耳だ。知らず、気を遣われているとは最近気付いた。焔泉は目をかけてくれているし、こうして達喜も何かあれば駆けつけてくれる。他の首領達も、何くれと世話をやいてくれていた。

「気にすんな。俺らが勝手にやってんだからよ。優秀な若者に目をかけるのは当然だろ。それも、大人が子どもに迷惑かけて、嫌がらせしてるって聞けば手を出したくもなる」

本家のことに関しては、本当にいつ手を出そうかと考えていたらしい。

「お前はよくやってる。若ぇんだしって、他が嫌がる仕事も率先してやるし、誰よりも仕事してるしよ。普通、首領に就いてる奴が現場に出張ったりしねぇよ? 俺とかふんぞり返ってるだけだし」
「……」

もちろん、達喜には当主としての仕事はあるが、そこは上手く周りに回しているし、言うほど嫌でもないらしい。

「お前も、もうちっと貫禄がありゃぁな」
「この歳でそれがあったら驚きですよ……」
「あ、確かに。それも可愛くねぇな」
「……かわいく……」

ないはずなのだがと、少し落ち込んだ時だった。

「き、キサマ!! 式を使って強襲するとは、卑怯だろう!! 秘伝の者としての矜持はないのか!!」
「これはまた、えらいバカが来たな……充雪殿も見えん小物が……」
「……すみません……」

達喜が本気でバカを見たという表情で、そいつを見ていたのだ。
しおりを挟む
感想 566

あなたにおすすめの小説

国外追放だ!と言われたので従ってみた

れぷ
ファンタジー
 良いの?君達死ぬよ?

称号は神を土下座させた男。

春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」 「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」 「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」 これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。 主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。 ※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。 ※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。 ※無断転載は厳に禁じます

【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。  なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!  冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。  ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。  そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。

追放された薬師でしたが、特に気にもしていません 

志位斗 茂家波
ファンタジー
ある日、自身が所属していた冒険者パーティを追い出された薬師のメディ。 まぁ、どうでもいいので特に気にもせずに、会うつもりもないので別の国へ向かってしまった。 だが、密かに彼女を大事にしていた人たちの逆鱗に触れてしまったようであった‥‥‥ たまにやりたくなる短編。 ちょっと連載作品 「拾ったメイドゴーレムによって、いつの間にか色々されていた ~何このメイド、ちょっと怖い~」に登場している方が登場したりしますが、どうぞ読んでみてください。

聖女の力を隠して塩対応していたら追放されたので冒険者になろうと思います

登龍乃月
ファンタジー
「フィリア! お前のような卑怯な女はいらん! 即刻国から出てゆくがいい!」 「え? いいんですか?」  聖女候補の一人である私、フィリアは王国の皇太子の嫁候補の一人でもあった。  聖女となった者が皇太子の妻となる。  そんな話が持ち上がり、私が嫁兼聖女候補に入ったと知らされた時は絶望だった。  皇太子はデブだし臭いし歯磨きもしない見てくれ最悪のニキビ顔、性格は傲慢でわがまま厚顔無恥の最悪を極める、そのくせプライド高いナルシスト。  私の一番嫌いなタイプだった。  ある日聖女の力に目覚めてしまった私、しかし皇太子の嫁になるなんて死んでも嫌だったので一生懸命その力を隠し、皇太子から嫌われるよう塩対応を続けていた。  そんなある日、冤罪をかけられた私はなんと国外追放。  やった!   これで最悪な責務から解放された!  隣の国に流れ着いた私はたまたま出会った冒険者バルトにスカウトされ、冒険者として新たな人生のスタートを切る事になった。  そして真の聖女たるフィリアが消えたことにより、彼女が無自覚に張っていた退魔の結界が消え、皇太子や城に様々な災厄が降りかかっていくのであった。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

シルバーヒーローズ!〜異世界でも現世でもまだまだ現役で大暴れします!〜

紫南
ファンタジー
◇◇◇異世界冒険、ギルド職員から人生相談までなんでもござれ!◇◇◇ 『ふぁんたじーってやつか?』 定年し、仕事を退職してから十年と少し。 宗徳(むねのり)は妻、寿子(ひさこ)の提案でシルバー派遣の仕事をすると決めた。 しかし、その内容は怪しいものだった。 『かつての経験を生かし、異世界を救う仕事です!』 そんな胡散臭いチラシを見せられ、半信半疑で面接に向かう。 ファンタジーも知らない熟年夫婦が異世界で活躍!? ーー勇者じゃないけど、もしかして最強!? シルバー舐めんなよ!! 元気な老夫婦の異世界お仕事ファンタジー開幕!!

〈完結〉妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」テンダー・ウッドマンズ伯爵令嬢は両親から婚約者を妹に渡せ、と言われる。 了承した彼女は帝都でドレスメーカーの独立工房をやっている叔母のもとに行くことにする。 テンダーがあっさりと了承し、家を離れるのには理由があった。 それは三つ下の妹が生まれて以来の両親の扱いの差だった。 やがてテンダーは叔母のもとで服飾を学び、ついには? 100話まではヒロインのテンダー視点、幕間と101話以降は俯瞰視点となります。 200話で完結しました。 今回はあとがきは無しです。

処理中です...