秘伝賜ります

紫南

文字の大きさ
上 下
66 / 401
第二章 秘伝の当主

066 会合とか面倒ですが

しおりを挟む
2018. 8. 1

**********

瑶迦の所へ家族で行ってから、父母が仕事のない週末には必ず遊びに行くようになった。

「ヨウカねえ。みてみて」
「まあ、とっても可愛い色ね。腕輪かしら?」
「うん。これゴムでつくるんだよ。ヨウカねえにはこれね」
「ありがとうっ。もしかして優希ちゃんが作ったの?」
「そうだよ!」

こうして優希も瑶迦を本当の姉のように慕っており、最近はお揃いリボンやキーホルダーを贈り合うのが常だ。

瑶迦も子ども好きであり、何より世話焼きな性格だ。まるで休みの度に遊びに来る孫を迎えるように、生き生きと楽しんでいる。

一方、父母はといえば、藤や菫達と料理や山菜採りなど、都会では中々知り得ないことを教えてもらっていた。

「藤さん。この前教えてもらった草木染めなんだけどね」
「菫さん。これって食べられたわよね?」

憧れの田舎暮らしを週末だけ体験できるのだから贅沢なものだと喜んでいるらしい。

その間、高耶はこの屋敷に集められている膨大な書物を読み解く時間にあてていた。

瑶迦は長く生きているだけあり、古い文献に事欠かない。その上、ここには優秀で力の強い式神達が揃っており、外からの情報も問題なく手に入る。

閉鎖的な空間ではあるが、最新の情報は常に集められているのだ。

式神達の働きにより、密かに絶えてしまった陰陽師の家にある書物を回収していたりする。悪用されたり、時折ある封印されたものなど、危険なものを回収しているのだ。

お陰で高耶は暇をせずに済んでいる。ただ時折、高耶だけ仕事があるという時に、優希や父母達はこちらに送り届けるだけしてくれればいいと言ってあっさり『行ってらっしゃい』と見送られる。

家族としての時間をここに求めているのではなく、ここでの時間を楽しんでいるらしい。そこは、なんだか寂しいようにも思う。

それだけ高耶の能力を認めているということだろうか。異質と思われるのでもなく、嫌悪されるでもないので、良い事だと思っておくべきかもしれない。

今回も高耶だけその日の内に帰ることになっていた。

「高耶さん。今日は会合?」
「ええ。明日の朝までには戻ります。それまでよろしくお願いします」
「分かっているわ。優希ちゃん達のことは任せて。本家の人間がまた難癖を付けてきたら、遠慮してはだめよ? 何と言われようと、当主はあなたなのだから」
「はい……では、行って参ります」

瑶迦に見送られ、高耶は陰陽師連盟の会合へと出かけた。

◆◆◆◆◆

会合場所に着いた高耶は、多くの者達が暗い顔をしているのが気になった。

高耶は若く、実力がある上に首領の一人でもある。決して少なくない者が妬む才能であり、立場を持っているのだ。そのため、この場では気配を消し、素早く素通りすることに努めた。

繋げられる扉は限られているので、首領達の集まる特別室へ向かうにはここを通らないわけにはいかないのだ。

会合とはいっても、顔を付き合わせて会議というわけではない。陰陽師という立場の者達が、定期的に情報を共有するための集まりであり、会場は立食パーティのような様相になっている。

ただし、アルコールはない。宴会場にするつもりはなく、素面での確実な情報交換をするための場である。

「ふぅ……」

目の端に本家の者達を捉えながら、高耶はなんとかその会場を通り抜けた。

高耶達数人の首領が集まる部屋へ向かうと、そこには既に半数の者達が来ていた。

「お、高耶。今日は絡まれずに来られたか」
「……はい……」

手を上げてにこやかに挨拶をするのは、壮年の男性だ。体つきはとてもがっちりとしており、普段から体を鍛えていると分かる。性格もさっぱりしていて、変に気負わなくても良いと思える気持ちのいい相手だ。

「いやぁ、いつかお前がキレてあやつらをノすところを見られないかと期待しているんだがなぁ」
「タツキさん。正直に言わないでください」

彼、達喜は、高耶を当主と認めない本家の者達が許せないらしい。とはいえ、他家の問題に勝手に首を突っ込むのはよくない。口惜しく思いながら、こうして冗談を言って気を紛らわせているのだ。

「しゃぁねぇだろ。ってかお前は我慢しすぎだ。お前ん所は仮にも武で売ってんだから、拳で黙らせりゃいいだろうに」
「数代前まではそれでも良かったんでしょうが、今の秘伝家はそこまで脳筋じゃないです」
「はははっ。まぁ、お前もそんなごっつい体してねぇもんなぁ」
「……体つきは関係ないかと……」

確かに高耶の体つきよりも、きっと逹喜の方が秘伝家のイメージに合うだろうとは思ってしまった。

「いややわぁ。高耶さんがあんさんみたいにマッチョになったら困るぇ?」

そこに、首領統括である彼女がコロコロと笑いながらやってきた。

**********

次回、一週お休みさせていただきます。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます

ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう どんどん更新していきます。 ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

婚約破棄の場に相手がいなかった件について

三木谷夜宵
ファンタジー
侯爵令息であるアダルベルトは、とある夜会で婚約者の伯爵令嬢クラウディアとの婚約破棄を宣言する。しかし、その夜会にクラウディアの姿はなかった。 断罪イベントの夜会に婚約者を迎えに来ないというパターンがあるので、では行かなければいいと思って書いたら、人徳あふれるヒロイン(不在)が誕生しました。 カクヨムにも公開しています。

転生したら死にそうな孤児だった

佐々木鴻
ファンタジー
過去に四度生まれ変わり、そして五度目の人生に目覚めた少女はある日、生まれたばかりで捨てられたの赤子と出会う。 保護しますか? の選択肢に【はい】と【YES】しかない少女はその子を引き取り妹として育て始める。 やがて美しく育ったその子は、少女と強い因縁があった。 悲劇はありません。難しい人間関係や柵はめんどく(ゲフンゲフン)ありません。 世界は、意外と優しいのです。

公爵家長男はゴミスキルだったので廃嫡後冒険者になる(美味しいモノが狩れるなら文句はない)

音爽(ネソウ)
ファンタジー
記憶持ち転生者は元定食屋の息子。 魔法ありファンタジー異世界に転生した。彼は将軍を父に持つエリートの公爵家の嫡男に生まれかわる。 だが授かった職業スキルが「パンツもぐもぐ」という謎ゴミスキルだった。そんな彼に聖騎士の弟以外家族は冷たい。 見習い騎士にさえなれそうもない長男レオニードは廃嫡後は冒険者として生き抜く決意をする。 「ゴミスキルでも美味しい物を狩れれば満足だ」そんな彼は前世の料理で敵味方の胃袋を掴んで魅了しまくるグルメギャグ。

婚約破棄されたので暗殺される前に国を出ます。

なつめ猫
ファンタジー
公爵家令嬢のアリーシャは、我儘で傲慢な妹のアンネに婚約者であるカイル王太子を寝取られ学院卒業パーティの席で婚約破棄されてしまう。 そして失意の内に王都を去ったアリーシャは行方不明になってしまう。 そんなアリーシャをラッセル王国は、総力を挙げて捜索するが何の成果も得られずに頓挫してしまうのであった。 彼女――、アリーシャには王国の重鎮しか知らない才能があった。 それは、世界でも稀な大魔導士と、世界で唯一の聖女としての力が備わっていた事であった。

1人生活なので自由な生き方を謳歌する

さっちさん
ファンタジー
大商会の娘。 出来損ないと家族から追い出された。 唯一の救いは祖父母が家族に内緒で譲ってくれた小さな町のお店だけ。 これからはひとりで生きていかなくては。 そんな少女も実は、、、 1人の方が気楽に出来るしラッキー これ幸いと実家と絶縁。1人生活を満喫する。

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。

朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。 婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。 だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。 リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。 「なろう」「カクヨム」に投稿しています。

処理中です...