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070 戦闘能力が付きました

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城を見るのも、入るのも、もう随分昔の事のように感じる。

フレアリールはギルセリュートと並び、その後ろにシュリアスタとシーリアが続く。先導する者はいない。誰にも邪魔されずに長い廊下を行く。

城の門でもそうだったが、顔を合わせる騎士達は皆、フレアリールの今の姿を見えて目を丸くし、次の瞬間には膝を突いて道を開けた。

この先にある謁見の間には、既にレストールと第二王妃が連行されているらしい。そこに近付くにつれて、フレアリールの話を聞いたのか、文官達まで出てきては壁に沿って膝を突いて泣いていた。

「フレア様っ……」
「本当にフレア様だ。お帰りになられたっ」
「なんて美しい……聖色だ……」

城に上がるのにフードコートはよくない。神気も抑えられるようになったので、特に必要もないが、やはり聖色の髪は目立つらしい。

色合いが全く違うので別人だと思われても不思議ではないのだが、なぜか誰も偽物と言う者はいなかった。

「あらあら、フレアさんは相変わらず人気者ね」
「さすがはフレアお姉様です。自然にこうして、誰もが傅いてしまうのですね」
「文官までが確認しに来ているのが、君らしい」
「褒めてます? 呆れてます?」

フレアリールは宰相とも話しができるほど教養が高い。国の方針などの話にも関わっていたことがある。何より、勉強嫌いでワガママなレストールが次期王とされていたのだ。その穴を埋める人材として期待し、頼りにされていた。

「感心しているんだ。それに何より、フレアがこの国に必要なのだとよく分かって嬉しいよ」
「ふふっ。少なくとも、お兄様がフレアお姉様をこの国に繋ぎ止めたという功績は評価されますわね。敵が少ないのはいい事ですわ」

クスクスと笑いながら、状況を判断するシュリアスタは、聖女ではなく完全にギルセリュートの妹としての王女の顔をしていた。外の情報や世情もそれなりに知っているのだろう。聖女とは教会でじっとしているだけではないのだろうかと少し疑問に思った。

そして、扉が開かれる。

中に進んで行けば、城に居た主だった貴族達も集まっていた。

数段高くなった場所には、王が座っている。その脇にいるのは宰相だ。そして、その王の前には、拘束された第二王妃セヴィエとレストールが座り込んで項垂れている。

それよりも目を引いたのは近衞騎士のキリエとイースだ。涙ぐむ様子を見て安心させるように笑みを向けた。

「フレア」

王の声が響いた。それに応えるように数歩進み出て膝を突く。

「フレアリール・シェンカ。ただいま戻りました陛下」
「ああ……っ、よく無事で……っ」
「帰還の報告が遅くなり、大変申し訳ございません。ですが、その甲斐もあり、陛下の大切な方々をお連れすることができました」

少し後ろを向いて促せば、ギルセリュート達が前に進み出る。そうしてギルセリュートが膝を突くと、その後ろでシーリアとシュリアスタが並んで膝を少し曲げて頭を下げた。

王が息を呑むのが分かった。

「第一王子ギルセリュート様とシーリア様は、先代様のご友人が、遺言により事故の折に保護されておりました」
「っ、ギル、シーリア……お前たち、本当に……っ?」

確認する声が震えていた。シーリアが微笑みを浮かべて顔を上げる。

「ご連絡もできず、申し訳ございません。力をつけるため、脅威となる者を把握するため、身を隠しておりました。力を付けた今、陛下のお力となるため、こうして帰還いたしましたこと、お許しくださいませ」

シーリアと王がしばらく見つめ合う。

「ああ……よく戻ってくれた。それと……ギルセリュート……そなたも良く生きていてくれた」
「はっ。こうして、再びお会いできましたこと、神に感謝いたします。お許しいただければ、これより陛下のお力となれるよう、この国の王子として、国のために尽くしてまいります。お許しいただけますか」
「許す。第一王子はそなただ。次期王として、私とこの国を支えてくれ」
「はい」

はっきりと答えたギルセリュートは、フレアリールを見つめて頷く。これを受けて、フレアリールはシュリアスタを紹介する。

「陛下、紹介させてください。あちらはシュリアスタ様。大聖国の聖女でいらっしゃいます。王都の教会に変異ありと報告を得て来られました」
「うむ」
「ご紹介いただきましたシュリアスタと申します。この度は、大聖国が認可を出した司教達が、少なからず貴国を乱しましたこと、深くお詫び申し上げます」

この場では、シュリアスタが王とシーリアの子だということは口にしない。それは人払いした後で良い。

「然るべき対処をし、後日改めてご報告をさせていただきたく存じます」
「聖女殿のお手を煩わせ、申し訳ない。こちらの貴族の関与もあると聞いている。細かいことは、後ほど話し合わせてもらいたい」
「恐れ入ります」

シュリアスタは賓客としてもてなすということで、この場を後にする。

彼女を一人にするのは不安だとして、シーリアがついて行くことになった。

「良いのか? シーリア」

これから、セヴィエとレストールの処分を言い渡すのだ。この場に居なくて良いのかと王が尋ねる。これにシーリアはふわりと笑って告げた。

「わたくしはもう、張り倒してスッキリしましたわ。後はお任せいたします。言うことを聞かないようでしたら、呼んでくださいませ。きっちり躾けましてよ」

『ほほほ』と笑いながら優雅にシュリアスタを連れて出て行くシーリアの足取りは軽かった。それに、フレアリールとギルセリュート以外が顔を引きつらせていた。

どう見ても張り倒されたと分かるセヴィエとレストールの顔。それをやったのがシーリアだと知って、先ほど聞いた『力を付けた』という言葉がそういう意味かと分かってしまったのだ。

扉が閉まり、静かになった謁見の間で、王はフレアリールに確認する。

「その……フレア。シーリアは筋力が付いたのか?」

これは曖昧にしてはいけない質問だ。フレアリールは、はっきりと答えた。

「いえ、戦闘能力が付きました。母と気が合うようです」
「っ、ファルセと混ぜてはダメだと言っただろう!」
「不可抗力です。因みに、気付いた時には、シュリアスタ様と三人でピクニックと言って魔獣狩りをしておりました。既に手遅れです」
「諦めるでない!」

ここではもう、固い謁見の雰囲気は消えている。他国に所属しているシュリアスタが居たために取り繕っていただけだ。

動揺する王の肩に宰相が手を添えた。

「陛下、落ち着いてください。ところで、フレア様。異世界の聖女はどちらに居るか分かりますか? 報告が途絶えているのですが……」

保護という名目で捕らえるために動いたマーラス率いる騎士達が連絡して来ないらしい。当然だ。

「ミリアレートお義姉様が拉致していかれました。気に入ったそうです」
「っ、またですか……っ」

誘拐犯が分かっていてもやってくれていることは良いことなので口が出せないのだ。どれだけ強情な者でも、ミリアレートの手にかかれば素直で良い子になってしまうのだから。

頭を抱えてしまった宰相。そこで、なんとか落ち着いたらしい王が続ける。

「もう良い。詳しい話は後で聞かせてもらおう。先にこれらの処分を決めなくてはならん」
「っ……」
「っ、父上……っ」

いつも自信満々だったセヴィエは、すっかり大人しくなって涙ぐんでおり、レストールは覚悟を決めたように、目を伏せて肩を落としていた。

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読んでくださりありがとうございます◎
終わりが近付いてきました。
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