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045 職人だけが許される遊びよ
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鍛治場で機械的に作業する鍛治師達。武器を納品してお金をもらうことしか考えていなかったのだろう。
確かに腕は良く、剣の斬れ味はどの領にいる鍛治師達よりも良いものだった。その技術力は自慢して良いものだ。
だが、フレアリールにはつまらなかった。
『ねえ、おじさん達。武器ばっかり作ってて飽きないの?』
屈強な、それこそちょっと振られた腕にフレアリールの体が当たれば怪我をさせられる体つきの男達。
そんな彼らに臆することなくかけられた高い子どもの声は、しっかりと男達に届いていた。とはいえ、返事を返す者はいない。偏屈な彼らは無視するのが普通だ。
『物を作る人がそんな死んだような目をしてるとか……ここは強制労働施設かなんかだったのかしら?』
これに誰もが手を止めた。
聞いてない振りをしててもちゃんと聞こえているし、職人達は矜持も高い。そして彼らはキレやすい。
『さっき、金物屋さん見てきたけど、どのお鍋も手抜きよね? 見習いの仕事にしてるみたいだし、アレにお金を払わせるとか詐欺師の所業だわ。だからおじさん達、強制労働させられてるの?』
さすがにキレて男が近付いてきた。だが、フレアリールはやっと話が出来そうだと、ほくそ笑む。
『ねえ。武器ってそんなにいる物? それとも、おじさん達の武器もあのお鍋と同じで数ヶ月も保たない不良品なの?』
『っ、出てけ』
これにピクリとフレアリールは小さな眉を片方だけ上げて反応する。
フレアリールもこの時はまだ幼く遠慮がなかった。
『出てくのはそっちよ。よくこの状況で鍛治師なんて名乗ってるわね。職人? 笑わせるわ。中途半端なものしか作れない、それで満足してる半人前にもなってないのがこの領に居座ってんじゃないわよ! お金さえもらえれば満足? 職人だったら作った物に最後まで責任持ちなさい! 鉄を叩くだけでできるんなら人じゃなくてもいいのよ!』
『っ!!』
まだ幼い少女が、男達を威圧していた。髪を染めて外に出られるようになって数年。既に魔獣相手に戦うことも覚えていたフレアリールには、人相手など怖くはなかった。
『他の領が目を付けたのはあなた達の技術じゃないわよ? ただの生産力。ここまで鍛治師が集まってる場所は珍しいもの。質より量ってことね。それでバカ共は戦争ごっこ。迷惑な話だわ。おもちゃが欲しいだけなのよ。それこそ、見習い君達に打たせれば良いんじゃないかしら。数回打ち合って刃が潰れて殴り合いになるわね。いっそのこと、鉄の棒を納品したらいいわ』
フレアリールは戦争を考える他領にイラついていた。シェンカの兵達は日々、必死で力を磨きながら他国の者や魔獣の侵入を防いでいるのだ。
内乱を起こそうと考えるようなバカは駆逐して然るべきと思っていた。だから、そこに武器を供給する鍛治師達がフレアリールは許せなかったのだ。
しかし、ただ彼らを排除したのでは、シェンカの兵達の武器を手に入れられなくなってしまう。気付いてもらわなくてはならなかった。
武器を納品しても、シェンカのように国のためではなく、人の欲による内乱の元にしかならないのだということを彼らに伝えたかったのだ。
『そうだ! あのお鍋にしなさいよ。火にかけたら劣化は早いけど、兜や盾にしたらなまくらな剣を幾度か防いで命を守ってくれるわ。その方がよっぽど作り甲斐があるでしょう?』
『……』
『戦争ごっこしたい人達に武器なんていらないのよ。そっちに力を使うよりも、もっと他に目を向けるべき所があるでしょう? なんでお鍋はあの形しかないの? 素材や強度は? 料理によっても火加減が違うわよ? なぜ武器は素材や形にこだわるのに、他は考えないの? 武器なんかよりももっと多くの人が使うものよ? それだけ市場が広がってるわ。どうしてそっちが見えないの?』
『市場……』
鍛治師達は目を見開いていた。カッとなった後にフレアリールに威圧され冷や水をかけられた。頭が冷えると聞かなくてはと思ったのだ。そして、気付いた。
『人に必要とされたいなら、人に必要とされる所を見なさいよ。作ったって使ってもらえなかったら、ただの手慰みの趣味で終わりよ。機械的にただ作業をしてて楽しい? 職人なら夢を持ちなさい! 至高の物を作るんだと! 誰にも真似できない唯一の物を生み出すんだと!』
『っ……!?』
職人ならば、なんの変化も望まない作業などするな。それは極論ではあるが、そうあってもいいだろうという姿でもある。
『武器を作るよりもよっぽど楽しいことを教えてあげる。私がおじさん達を雇うわ。遊びましょうよ。職人だけが許される遊びよ。まだ誰も見たことのない最高の物を。仕事を知りたくない?』
『っ……話しを聞こうじゃないか……俺らが楽しめるっていうその仕事を教えてみろ』
ニヤリと笑ってフレアリールは鉄道と列車のプレゼンを始めた。
『っ、やってやろうじゃねえか!! 俺らにしか出来なかったと言わせてやるぜ!』
こうして、武器を作ることしか頭になかった鍛治師達をまんまと鉄道の建設に従事させられたことにより、武器の供給は穏やかになった。
寧ろ新しいものに夢中になった彼らは、武器の領外への輸出をきっぱりと断るようになっていった。
鉄道、列車はシェンカにしか存在しない。その技術を秘匿し、日々研究した。そして、魔術を道具に付与する魔導具師達や大工達といった別の業種の者達と協力してフレアリールの求めた鉄道は完成したのだ。
「武器を作るだけにしか自分達の技術を使えないと思ってたみたいね。それがそうじゃないって気付いたのが面白かったみたいで」
「あれから、鍛治師達が社交的になりましたね。私共も相談がしやすくなりました」
「鍛治師とはほとんど戦う武器が必要な者達としか関わらないからな……」
他業種の者とも協力したことで、また新たに作れる物の幅が広がったことにも気付いた彼らは、協力し合ってこの町を鍛治の町から商業都市へと変えていったのだ。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
三日空きます。
よろしくお願いいたします◎
2019. 6. 13
確かに腕は良く、剣の斬れ味はどの領にいる鍛治師達よりも良いものだった。その技術力は自慢して良いものだ。
だが、フレアリールにはつまらなかった。
『ねえ、おじさん達。武器ばっかり作ってて飽きないの?』
屈強な、それこそちょっと振られた腕にフレアリールの体が当たれば怪我をさせられる体つきの男達。
そんな彼らに臆することなくかけられた高い子どもの声は、しっかりと男達に届いていた。とはいえ、返事を返す者はいない。偏屈な彼らは無視するのが普通だ。
『物を作る人がそんな死んだような目をしてるとか……ここは強制労働施設かなんかだったのかしら?』
これに誰もが手を止めた。
聞いてない振りをしててもちゃんと聞こえているし、職人達は矜持も高い。そして彼らはキレやすい。
『さっき、金物屋さん見てきたけど、どのお鍋も手抜きよね? 見習いの仕事にしてるみたいだし、アレにお金を払わせるとか詐欺師の所業だわ。だからおじさん達、強制労働させられてるの?』
さすがにキレて男が近付いてきた。だが、フレアリールはやっと話が出来そうだと、ほくそ笑む。
『ねえ。武器ってそんなにいる物? それとも、おじさん達の武器もあのお鍋と同じで数ヶ月も保たない不良品なの?』
『っ、出てけ』
これにピクリとフレアリールは小さな眉を片方だけ上げて反応する。
フレアリールもこの時はまだ幼く遠慮がなかった。
『出てくのはそっちよ。よくこの状況で鍛治師なんて名乗ってるわね。職人? 笑わせるわ。中途半端なものしか作れない、それで満足してる半人前にもなってないのがこの領に居座ってんじゃないわよ! お金さえもらえれば満足? 職人だったら作った物に最後まで責任持ちなさい! 鉄を叩くだけでできるんなら人じゃなくてもいいのよ!』
『っ!!』
まだ幼い少女が、男達を威圧していた。髪を染めて外に出られるようになって数年。既に魔獣相手に戦うことも覚えていたフレアリールには、人相手など怖くはなかった。
『他の領が目を付けたのはあなた達の技術じゃないわよ? ただの生産力。ここまで鍛治師が集まってる場所は珍しいもの。質より量ってことね。それでバカ共は戦争ごっこ。迷惑な話だわ。おもちゃが欲しいだけなのよ。それこそ、見習い君達に打たせれば良いんじゃないかしら。数回打ち合って刃が潰れて殴り合いになるわね。いっそのこと、鉄の棒を納品したらいいわ』
フレアリールは戦争を考える他領にイラついていた。シェンカの兵達は日々、必死で力を磨きながら他国の者や魔獣の侵入を防いでいるのだ。
内乱を起こそうと考えるようなバカは駆逐して然るべきと思っていた。だから、そこに武器を供給する鍛治師達がフレアリールは許せなかったのだ。
しかし、ただ彼らを排除したのでは、シェンカの兵達の武器を手に入れられなくなってしまう。気付いてもらわなくてはならなかった。
武器を納品しても、シェンカのように国のためではなく、人の欲による内乱の元にしかならないのだということを彼らに伝えたかったのだ。
『そうだ! あのお鍋にしなさいよ。火にかけたら劣化は早いけど、兜や盾にしたらなまくらな剣を幾度か防いで命を守ってくれるわ。その方がよっぽど作り甲斐があるでしょう?』
『……』
『戦争ごっこしたい人達に武器なんていらないのよ。そっちに力を使うよりも、もっと他に目を向けるべき所があるでしょう? なんでお鍋はあの形しかないの? 素材や強度は? 料理によっても火加減が違うわよ? なぜ武器は素材や形にこだわるのに、他は考えないの? 武器なんかよりももっと多くの人が使うものよ? それだけ市場が広がってるわ。どうしてそっちが見えないの?』
『市場……』
鍛治師達は目を見開いていた。カッとなった後にフレアリールに威圧され冷や水をかけられた。頭が冷えると聞かなくてはと思ったのだ。そして、気付いた。
『人に必要とされたいなら、人に必要とされる所を見なさいよ。作ったって使ってもらえなかったら、ただの手慰みの趣味で終わりよ。機械的にただ作業をしてて楽しい? 職人なら夢を持ちなさい! 至高の物を作るんだと! 誰にも真似できない唯一の物を生み出すんだと!』
『っ……!?』
職人ならば、なんの変化も望まない作業などするな。それは極論ではあるが、そうあってもいいだろうという姿でもある。
『武器を作るよりもよっぽど楽しいことを教えてあげる。私がおじさん達を雇うわ。遊びましょうよ。職人だけが許される遊びよ。まだ誰も見たことのない最高の物を。仕事を知りたくない?』
『っ……話しを聞こうじゃないか……俺らが楽しめるっていうその仕事を教えてみろ』
ニヤリと笑ってフレアリールは鉄道と列車のプレゼンを始めた。
『っ、やってやろうじゃねえか!! 俺らにしか出来なかったと言わせてやるぜ!』
こうして、武器を作ることしか頭になかった鍛治師達をまんまと鉄道の建設に従事させられたことにより、武器の供給は穏やかになった。
寧ろ新しいものに夢中になった彼らは、武器の領外への輸出をきっぱりと断るようになっていった。
鉄道、列車はシェンカにしか存在しない。その技術を秘匿し、日々研究した。そして、魔術を道具に付与する魔導具師達や大工達といった別の業種の者達と協力してフレアリールの求めた鉄道は完成したのだ。
「武器を作るだけにしか自分達の技術を使えないと思ってたみたいね。それがそうじゃないって気付いたのが面白かったみたいで」
「あれから、鍛治師達が社交的になりましたね。私共も相談がしやすくなりました」
「鍛治師とはほとんど戦う武器が必要な者達としか関わらないからな……」
他業種の者とも協力したことで、また新たに作れる物の幅が広がったことにも気付いた彼らは、協力し合ってこの町を鍛治の町から商業都市へと変えていったのだ。
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