世界の東の端っこのフットボール・チルドレン

遊佐東吾

文字の大きさ
上 下
60 / 85
スピンオフ

extra3 もうひとつの夏〈2〉

しおりを挟む
 全48チームが参加するクラブユースサッカー選手権では、まず4チームごとのグループに割り振られて総当たりの1次ラウンドが行われる。各グループの上位2チーム、それに各グループ3位のなかから勝ち点が高かった8チームを加えた合計32チームが決勝トーナメントに進出できる。

 姫ヶ瀬FCは二戦連続で引き分けという、どうにも煮え切らないスタートとなった。グループリーグ最終戦に勝利できなければ敗退の可能性が高い状況でチームを救ったのはフォワードの久我だった。彼の2得点により、姫ヶ瀬FCはグループリーグをどうにか2位通過で突破する。
 吉野の目から見ても久我のプレーは格段に凄みを増していた。ゴールへの嗅覚という点において、大会に参加している選手のなかでも彼ほど研ぎ澄まされた感覚の持ち主はそうはいないはずだ。
 10番を背負う兵藤は相変わらず切れていたし、三試合とも途中出場を果たしここまで1ゴールをあげているフォワード牧瀬龍も調子がいい。吉野を含めた他の選手たちにも特に問題はなかった。だからこそ逆にジュリオのブレーキぶりが際立つ。

 しかし吉野としてもキャプテンとしてチームを束ねていく役目がある以上、彼のことばかりを気にかけてはいられない。おまけに決勝トーナメントの初戦、姫ヶ瀬FCの対戦相手はグループリーグを危なげなく三連勝で通過してきた優勝候補の大阪リベルタスと決まった。戦力の整った格上に、前年度は決勝トーナメント1回戦敗退の地方のユースチームが挑む。誰の目にもそう映る組み合わせなのは明らかだった。
 大阪リベルタスにはキーマンとなる選手が二人いる。トップ下の巽祐作とサイドアタッカーの石蕗忍。ともにU―15代表における攻撃の中核を担っている、いわば世代のトップランナーだ。

 カードが決まったあとの夕食時に姫ヶ瀬FCの全員が集まって、休息日を挟んだ翌々日に行われる大阪リベルタス戦に向けた簡単な方針の確認が行われた。
 そのときに相良監督が発した「残念ながら顔ではおまえらの惨敗だ」という言葉には、吉野をはじめ何人もの選手が思わず吹きだしてしまう。

「雑誌の写真とかで見たことあるだろ。巽は昭和の香りを感じさせる古いタイプの男前、石蕗はいかにも今風でさわやかなイケメンだ。それでいてやつらはサッカーの才能にも恵まれてるときていやがる。まったく不公平ったらありゃしねえよな」

 だがな、と相良は不敵に笑う。

「おまえらがサッカーで劣っているとはおれは思ってねえよ。明後日のゲームでそれを証明してくれ。自陣のゴール前にバスを止めちまうような腰の引けた戦い方をするつもりはない、真っ向勝負だ。いつも通りにやればおまえらの力ならきっと勝利をもぎとれる。──今日のところはおれからは以上だ」

 いかにも大雑把そうな風貌なのに監督はチームを乗せるのが上手い、と吉野も相良のモチベーターぶりに感心する。仲間たちの顔が「いっちょ番狂わせを起こしてやろう」という気概に満ちているのが頼もしい。吉野からすれば充分な面構えだ。
 食事を終えて解散となったあと、キャプテンである吉野は相良から手招きで呼ばれた。その厳しい表情から吉野にはぴんとくるものがあった。
 唾を飲みこんでから「何でしょうか」と訊ねる彼に、相良が抑揚のない口調で決定事項を告げてきた。

「次のゲーム、ジュリオをスタメンから外す」

 覚悟はしていたため、吉野も黙って頷く。

「けれども間違いなくあいつの力は必要だ。おそらくはどうしても点が欲しい時間帯というのが出てくる展開になる。そのとき、起爆剤としての役割をおれはジュリオに期待している」

「ですが監督、今の彼にそこまで求められるでしょうか」

「おいおい吉野、いちばんあいつと長く接しているおまえが信じてやらんでどうする。これはひとつの賭けになるだろうが、スタートからベンチに座っておまえたちの戦いぶりを見ることで何かしらのポジティブな変化が出てくるとおれはにらんでいるよ」

 言外にある相良の思惑をすぐに吉野は理解する。「おまえたちのプレーでジュリオの心を揺さぶれ」、つまりはそういうことなのだろう。

「わかりました。スタメン落ちの件、ジュリオにはおれから伝えておきます」

 明後日の試合で絶対に走り負けだけはすまいとの腹を決め、吉野はその場を辞した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ヤマネ姫の幸福論

ふくろう
青春
秋の長野行き中央本線、特急あずさの座席に座る一組の男女。 一見、恋人同士に見えるが、これが最初で最後の二人の旅行になるかもしれない。 彼らは霧ヶ峰高原に、「森の妖精」と呼ばれる小動物の棲み家を訪ね、夢のように楽しい二日間を過ごす。 しかし、運命の時は、刻一刻と迫っていた。 主人公達の恋の行方、霧ヶ峰の生き物のお話に添えて、世界中で愛されてきた好編「幸福論」を交え、お読みいただける方に、少しでも清々しく、優しい気持ちになっていただけますよう、精一杯、書いてます! どうぞ、よろしくお願いいたします!

パーフェクトアンドロイド

ことは
キャラ文芸
アンドロイドが通うレアリティ学園。この学園の生徒たちは、インフィニティブレイン社の実験的試みによって開発されたアンドロイドだ。 だが俺、伏木真人(ふしぎまひと)は、この学園のアンドロイドたちとは決定的に違う。 俺はインフィニティブレイン社との契約で、モニターとしてこの学園に入学した。他の生徒たちを観察し、定期的に校長に報告することになっている。 レアリティ学園の新入生は100名。 そのうちアンドロイドは99名。 つまり俺は、生身の人間だ。 ▶︎credit 表紙イラスト おーい

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

Hand in Hand - 二人で進むフィギュアスケート青春小説

宮 都
青春
幼なじみへの気持ちの変化を自覚できずにいた中2の夏。ライバルとの出会いが、少年を未知のスポーツへと向わせた。 美少女と手に手をとって進むその競技の名は、アイスダンス!! 【2022/6/11完結】  その日僕たちの教室は、朝から転校生が来るという噂に落ち着きをなくしていた。帰国子女らしいという情報も入り、誰もがますます転校生への期待を募らせていた。  そんな中でただ一人、果歩(かほ)だけは違っていた。 「制覇、今日は五時からだから。来てね」  隣の席に座る彼女は大きな瞳を輝かせて、にっこりこちらを覗きこんだ。  担任が一人の生徒とともに教室に入ってきた。みんなの目が一斉にそちらに向かった。それでも果歩だけはずっと僕の方を見ていた。 ◇ こんな二人の居場所に現れたアメリカ帰りの転校生。少年はアイスダンスをするという彼に強い焦りを感じ、彼と同じ道に飛び込んでいく…… ――小説家になろう、カクヨム(別タイトル)にも掲載――

処理中です...