父の男

上野たすく

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カップの秘密

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 立ち上がり、テーブルの上にあった、ビニール袋を持ってくる。
 蛍の隣に座り、カップを取り出す。
 彼は目を見開いた。

「お前が病院で検査を受けている間に、浩平が持ってきてくれた」
「浩平?」
「お前が赤城君のところへ行って、すぐ、部屋に呼んだ。独りでいたくなかったから。ごめん」

 蛍は首を左右した。

「浩平は昭弘の友達だろ?」
「……ああ。親友だよ」

 相手は笑んだ。
 微笑み返し、カップを撫でた。

「これは、俺への戒めだったんだ。お前に手を出さないための、戒め」
「俺、手、出された覚えないけど」
「実際にはしてない」

 唇を噛み、マグカップを見つめる。
 蛍とこれからも一緒にいたいなら、自分が彼をどう思っているのか、知ってもらう必要がある。

「俺は、中学生のお前で、ぬいたことがある」

 体が震えそうになる。
 マグの感触で、なんとか自我を保った。

「お前は気にも留めてなかっただろうけど、風呂のあとや夏に、半裸でいられたの、本当はきつかった。俺だけがお前を好きで、俺だけがお前に欲情して、求められてもいないのに、現実のお前にまで手を出すんじゃないかって、怖かった。なんでも、よかったんだ。俺を止めてくれるものなら。ただ、これが目に留まったから」

 息を継ぐ。

「……これを使うたび、俺は蛍の父親なんだって、俺は恋人じゃないんだって。あの日の告白は、俺が見た都合のいい夢だったんだって。俺は……、どっちにもなれない」

 後頭部を支えられたかと思うと、蛍の舌が重なってきた。

「昭弘は、俺の恋人だよ」

 優しい声に、心がほぐれていく。

「好きだよ」
「俺も、昭弘が好きだ」

 蛍が一心に口腔を愛撫してくる。瞼を閉じると、涙が頬を伝った。

「このまま。……俺を……」

 体が熱い。震えそうだ。

「俺を、お前のものにしてくれ」

 蛍の瞳が揺れた。相手の出方を待つのが怖くて、自分の言ったことを、冗談に変えようと口が開く。
 それが嫌で、蛍の腕をきつく掴んだ。

「俺はお前に抱かれたい」

 相手を掴む手が鬱血する。
 手の甲にキスをされ、舐められ、知らず、息が漏れた。
 相手はこちらの袖を捲り、唇で右腕の傷跡をなぞった。
 蛍の吐息に眩暈がする。
 彼のシャツのボタンに指をかけると、相手は四つん這いで、外されていくボタンを見守った。

 一つ、二つ、三つ……。

 シャツを畳に落とす。蛍が肌着を脱いで、覆いかぶさってきた。
 昭弘は与えられる刺激に集中した。

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