38 / 78
拘束される未来 ~昭弘視点~
2
しおりを挟む
視線をそちらへ逸らすと苦笑された。彼はこちらの体から抜け出し、何も身に着けずに壁につけられたインターフォンまで行くと、その画面に口角を上げた。手招きをされる。フローリングからトランクスを拾って穿き、従った。
画面には、蛍と木崎哲也が映っていた。
「どうする?」
三田は冷めた眼差しでこちらを捉えた。彼の口元は笑っていた。
「出られる状況じゃないだろ?」
「それは、俺が? それとも、お前が?」
言いよどむ。背後から抱きしめられ、びくりと肩が跳ねた。
「続きをしよう」
「じゃあ、ベッドへ」
三田が笑顔のまま通話ボタンを押す。
息が止まった。
「よう。どうした? また、アポなしか?」
飄々としゃべる三田の前で顔が強張っていく。
「今回は、ちゃんとメールをした」
蛍の声に項垂れた。背を押され、インターフォンを囲むように壁に手をつく。
「わりぃ。見てねえわ。で、なんの用だ?」
トランクスを下げられ、ゾッとする。唇を噛むのと、三田のものが入り込んでくるのが同時だった。
「鈴木教授から伝言を頼まれた。それと、突然で悪いと思ったんだけど、友達を連れてきた。勉強を見てやって欲しい」
壁についた指を曲げる。体の中を抉られ、掻き回され、声が溢れそうになる。
「ああ。見てやりてえんだけど、今、ちょっと立て込んでてな。今度でいいか?」
ぐちゅぐちゅと恐ろしい音がする。こちら側の音を届けるであろう場所に指を宛がおうとし、すんでで止めた。
「わかった」
三田が耳朶を噛んでくる。自身を擦られ、膝が震えた。
「教授の件は?」
「いつでも、会いに来いってさ。気分転換に」
「……そうか。もし、話す機会があったら、ありがとうと伝えておいてくれ。あと」
三田の巧みな指の動きに勝手に腰が動いていく。意識がおかしくなりそうだった。
あさましい。体も心も。
「蛍、ごめんな。さきに謝っとく。俺、お人好しの浩平さんから卒業すっから」
蛍の顔が歪んだ。
「…………わかった」
息を吸って吐き、彼は大人びた表情でカメラを見つめた。
「覚悟しておく」
蛍が木崎を連れ、去っていく。三田はインターフォンを切り、こちらの首筋をついばんだ。
「蛍の声で感じた?」
カッとなって肘で思いっきり、相手の肩を打撃した。三田は痛みに苦悶しながらも笑った。
「お前が蛍を愛していることは、今更、取り繕れねえだろう? お膳立てしたのは俺だし」
「浩平が俺を信用していないことは、よくわかった。だけど、もうやめろ。蛍は、ちゃんと渋谷のところへ帰す。余計なことを吹きかけるな。大事な時期なんだ」
友人は肩から手をどけ、目を細めた。
「受験のことか? 関係ねえだろ。そんなの、蛍の脳みそが足りなかっただけの話だ」
「浩平!」
「お前、今、自分がどんな立場になったか、まだ、わかってねえの? 俺はさ、お前が幸せになるならって、自覚した気持ちを殺して、ここまでお友達を名乗ってきたんだぜ? それなのに、蛍と報われた今になって、どうして、俺んとこへ来んだよ? 夏樹のことはお前が原因じゃねえって、何度も言ったろ? 俺が独りでいるのは楽だからだって、言ったよな? お前こそ、俺を信じてなかったんだろうが!」
「……お前の絵を見に行った。俺は信じているよ。だから」
だから、お前を守らなければいけない。
三田の目が見開く。友人の瞳が温和な色に変わった。昔、彼が彼の恋人に向けていた瞳。
ちくりと胸が痛んだ。
「今日は帰る。また、来るから」
ベッドの下に落ちた衣服へと足を踏み出し、腕を掴まれた。
「悪かった。だけど、こっちは、自分の半分も生きてねえ男にライバル心、燃やしてんだ。使えるものは、なんでも使う。そんで」
友人は息を吐き、手に力を込めた。
「いつか、蛍よりも好きになってもらう」
昭弘は目を伏せた。歳がそんなに離れているわけでもないのに、こいつはこんなにも一直線に眩しい光を放つことができる。
「お前、恥ずかしいな」
「お前は枯れ過ぎだ。そこは嘘でも嬉しがれよ」
三田の肩に頬をのせる。
「嬉しいよ。ありがとう、浩平」
男の鼓動が大きくなる。三田が自分を愛しているというのは本当のことなのだろう。
「浩平。俺は」
俺も愛している。友人として、お前を大切に想っている。恨まれようが、この方法しか思いつかなかった。
「抱いて欲しい」
「なら、恰好だけでも、恋人でいてくれ」
「……好きだ。浩平」
「下手くそ」
予告もなく、彼がこちらの体を持ち上げた。筆以上に重いものは持ったことがない、と自慢するほどのインドアな男なのに、ふらつくこともなく、こちらに笑顔を向けてくる。
「気づいてねえだろ?」
眉根を寄せた。
「ときどき、偽り切れてねえよ、お前」
真っ赤だぜ、顔。
そう囁かれ、体から火が出た。三田が笑いながら、ベッドへとこちらの体を落とした。
「少し待ってくれ」
相手は口角を上げ、首筋を舐めてきた。
「馬鹿か! やめろって言ってるだろ!」
退けようとした両手を捉えられる。男から笑顔が消えていた。
「そのままでいろよ。俺は、せめて、本当のお前としたい。お前はどう思っているか知らねえけど、俺はちゃんと恋愛をして、お前を好きになったんだぜ」
これは友人だ。それなのに、目が離せない。顔が近づいてきて唇が重なった。敏感に細胞が反応を示す。快楽が怖くて、相手の腕を強く掴んだ。
セックスの最中、三田は、あまりしゃべらなかった。その代わり、こちらの仕草や喘ぎに、敏感に対処した。
夕飯も採らずに体を繋げ、深夜、ベッドから立とうとすると膝が笑った。
「帰んの? 電車、ねえだろ? 泊まってけばいいのに」
「今日は帰るって言っただろ?」
体のべたつきが、行為の名残を物語っていた。
三田が溜息をつく。
「もう、戻っちまったのかよ?」
無視をした。
「シャワーくらい使えって」
「家で入る」
「そんなに蛍が気になるか?」
下着をつけようとし、手首を握られる。
「今日は特別な日なんだ」
「蛍の誕生日か。間に合わねえよ」
力なく微笑む男に口づけた。
「俺はお前を選んだ。あいつの誕生日を祝ってやれるのは、今日だけなんだ」
三田の目を見つめる。茶色い瞳が揺れ、ほどなくして一点に定まった。
「車を出してやるからシャワーを使え。蛍が大切なら、他の男のもん付けて帰ってやるな」
小さく吹き出す。
「なんだよ」
「浩平のそういうところ、好きだよ」
相手は不機嫌そうに口をへの字に曲げた。
画面には、蛍と木崎哲也が映っていた。
「どうする?」
三田は冷めた眼差しでこちらを捉えた。彼の口元は笑っていた。
「出られる状況じゃないだろ?」
「それは、俺が? それとも、お前が?」
言いよどむ。背後から抱きしめられ、びくりと肩が跳ねた。
「続きをしよう」
「じゃあ、ベッドへ」
三田が笑顔のまま通話ボタンを押す。
息が止まった。
「よう。どうした? また、アポなしか?」
飄々としゃべる三田の前で顔が強張っていく。
「今回は、ちゃんとメールをした」
蛍の声に項垂れた。背を押され、インターフォンを囲むように壁に手をつく。
「わりぃ。見てねえわ。で、なんの用だ?」
トランクスを下げられ、ゾッとする。唇を噛むのと、三田のものが入り込んでくるのが同時だった。
「鈴木教授から伝言を頼まれた。それと、突然で悪いと思ったんだけど、友達を連れてきた。勉強を見てやって欲しい」
壁についた指を曲げる。体の中を抉られ、掻き回され、声が溢れそうになる。
「ああ。見てやりてえんだけど、今、ちょっと立て込んでてな。今度でいいか?」
ぐちゅぐちゅと恐ろしい音がする。こちら側の音を届けるであろう場所に指を宛がおうとし、すんでで止めた。
「わかった」
三田が耳朶を噛んでくる。自身を擦られ、膝が震えた。
「教授の件は?」
「いつでも、会いに来いってさ。気分転換に」
「……そうか。もし、話す機会があったら、ありがとうと伝えておいてくれ。あと」
三田の巧みな指の動きに勝手に腰が動いていく。意識がおかしくなりそうだった。
あさましい。体も心も。
「蛍、ごめんな。さきに謝っとく。俺、お人好しの浩平さんから卒業すっから」
蛍の顔が歪んだ。
「…………わかった」
息を吸って吐き、彼は大人びた表情でカメラを見つめた。
「覚悟しておく」
蛍が木崎を連れ、去っていく。三田はインターフォンを切り、こちらの首筋をついばんだ。
「蛍の声で感じた?」
カッとなって肘で思いっきり、相手の肩を打撃した。三田は痛みに苦悶しながらも笑った。
「お前が蛍を愛していることは、今更、取り繕れねえだろう? お膳立てしたのは俺だし」
「浩平が俺を信用していないことは、よくわかった。だけど、もうやめろ。蛍は、ちゃんと渋谷のところへ帰す。余計なことを吹きかけるな。大事な時期なんだ」
友人は肩から手をどけ、目を細めた。
「受験のことか? 関係ねえだろ。そんなの、蛍の脳みそが足りなかっただけの話だ」
「浩平!」
「お前、今、自分がどんな立場になったか、まだ、わかってねえの? 俺はさ、お前が幸せになるならって、自覚した気持ちを殺して、ここまでお友達を名乗ってきたんだぜ? それなのに、蛍と報われた今になって、どうして、俺んとこへ来んだよ? 夏樹のことはお前が原因じゃねえって、何度も言ったろ? 俺が独りでいるのは楽だからだって、言ったよな? お前こそ、俺を信じてなかったんだろうが!」
「……お前の絵を見に行った。俺は信じているよ。だから」
だから、お前を守らなければいけない。
三田の目が見開く。友人の瞳が温和な色に変わった。昔、彼が彼の恋人に向けていた瞳。
ちくりと胸が痛んだ。
「今日は帰る。また、来るから」
ベッドの下に落ちた衣服へと足を踏み出し、腕を掴まれた。
「悪かった。だけど、こっちは、自分の半分も生きてねえ男にライバル心、燃やしてんだ。使えるものは、なんでも使う。そんで」
友人は息を吐き、手に力を込めた。
「いつか、蛍よりも好きになってもらう」
昭弘は目を伏せた。歳がそんなに離れているわけでもないのに、こいつはこんなにも一直線に眩しい光を放つことができる。
「お前、恥ずかしいな」
「お前は枯れ過ぎだ。そこは嘘でも嬉しがれよ」
三田の肩に頬をのせる。
「嬉しいよ。ありがとう、浩平」
男の鼓動が大きくなる。三田が自分を愛しているというのは本当のことなのだろう。
「浩平。俺は」
俺も愛している。友人として、お前を大切に想っている。恨まれようが、この方法しか思いつかなかった。
「抱いて欲しい」
「なら、恰好だけでも、恋人でいてくれ」
「……好きだ。浩平」
「下手くそ」
予告もなく、彼がこちらの体を持ち上げた。筆以上に重いものは持ったことがない、と自慢するほどのインドアな男なのに、ふらつくこともなく、こちらに笑顔を向けてくる。
「気づいてねえだろ?」
眉根を寄せた。
「ときどき、偽り切れてねえよ、お前」
真っ赤だぜ、顔。
そう囁かれ、体から火が出た。三田が笑いながら、ベッドへとこちらの体を落とした。
「少し待ってくれ」
相手は口角を上げ、首筋を舐めてきた。
「馬鹿か! やめろって言ってるだろ!」
退けようとした両手を捉えられる。男から笑顔が消えていた。
「そのままでいろよ。俺は、せめて、本当のお前としたい。お前はどう思っているか知らねえけど、俺はちゃんと恋愛をして、お前を好きになったんだぜ」
これは友人だ。それなのに、目が離せない。顔が近づいてきて唇が重なった。敏感に細胞が反応を示す。快楽が怖くて、相手の腕を強く掴んだ。
セックスの最中、三田は、あまりしゃべらなかった。その代わり、こちらの仕草や喘ぎに、敏感に対処した。
夕飯も採らずに体を繋げ、深夜、ベッドから立とうとすると膝が笑った。
「帰んの? 電車、ねえだろ? 泊まってけばいいのに」
「今日は帰るって言っただろ?」
体のべたつきが、行為の名残を物語っていた。
三田が溜息をつく。
「もう、戻っちまったのかよ?」
無視をした。
「シャワーくらい使えって」
「家で入る」
「そんなに蛍が気になるか?」
下着をつけようとし、手首を握られる。
「今日は特別な日なんだ」
「蛍の誕生日か。間に合わねえよ」
力なく微笑む男に口づけた。
「俺はお前を選んだ。あいつの誕生日を祝ってやれるのは、今日だけなんだ」
三田の目を見つめる。茶色い瞳が揺れ、ほどなくして一点に定まった。
「車を出してやるからシャワーを使え。蛍が大切なら、他の男のもん付けて帰ってやるな」
小さく吹き出す。
「なんだよ」
「浩平のそういうところ、好きだよ」
相手は不機嫌そうに口をへの字に曲げた。
1
お気に入りに追加
42
あなたにおすすめの小説
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
ヤンデレだらけの短編集
八
BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。
全8話。1日1話更新(20時)。
□ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡
□ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生
□アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫
□ラベンダー:希死念慮不良とおバカ
□デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち
ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。
かなり昔に書いたもので、最近の作品と書き方やテーマが違うと思いますが、楽しんでいただければ嬉しいです。
家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる