父の男

誰かが誰かを愛している ～蛍視点～

21

「そうだ。下に、お前の友達が来ているぞ」
　風邪で寝ていると言おうか、と父に問われ、首を横に振った。
　父がこちらの頭に優しく手をのせてきた。
　俺が父のレプリカにもなれなかったのは、父の方が俺より遥かに大人で、昭弘を理解し、いい男だからだ。
　俺は小さい。小さくて、醜い……。
　父の言う友達とは、赤城のことだった。
　男は口を一文字に結び、恐縮していた。
　眼鏡のレンズの奥にある瞳が震えている。
　蛍は赤城に待つように言い、父に今日一日だけ、休みを取らせて欲しいと頼んだ。
　父は自ら学校へ電話をかけてくれた。
　考えを整理する時間は大切だ。
　お前にとっても、お前の友達にとっても。
　父は寛容だった。
「中へ入れよ。制服で歩いていたら、補導の対象だ」
「お前が休むからだ」
「はい？」
「五日も。しかも住所、変わっているし」
「本来の親の元へ戻っただけだ」
「煙草。……俺、大学推薦が、かかっていて」
「だったら、もっと気を張れよ」
「ごめん」
　赤城が悪いわけじゃない。
　俺がもっと教師の信頼を得ていれば、昭弘にまで危害は及ばなかったんだ。
　一際大きな影が蛍の影に重なる。
「無言は残酷だぞ」
　木崎哲也が赤城の両肩を後ろから持ち、その場に固定した。
　赤城は金髪の男に目を見開いたが、蛍がいるからか、恐怖心を抱いているようではなかった。
「殴るなら殴る。それで手を打て」
「殴らねぇよ！」
　怒鳴ると、木崎は満足げに笑った。
「ったく、どんな組み合わせだよ」
「こいつと会ったのは偶然だ」
「赤城はともかく、どうして、お前が俺ん家を知ってんだ？」
「桜井に聴いた」
「昭弘……に？」
　木崎が、一歩、前へ出る。
「この前はすまなかった。お前と少し話がしたい。俺もいいか？」
　首で、二人を中へと誘った。
「桜井を無理やりやったのは、俺の親父だ」
　木崎は蛍の部屋へ入るなり、とんでもないことを切り出してきた。