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誰かが誰かを愛している ~蛍視点~
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目を開けると布団に寝かされていた。
ブレザーから寝巻きに着替えさせられている。
傍に昭弘がいた。
胡坐をかいで、重ねた指を額につけている。
部屋も外も暗い。
額に濡れたタオルがのっていて、蛍はそれを掴んだ。
昭弘が息を吸い込む。
「気分はどうだ? 喉、渇いてないか? もし、食欲あるなら、どこか食べに」
「明日、親父のところへ戻る。準備ができたら、今日、帰る」
「なに、言って」
手を触られ、痺れるほどの絶望感が走った。
振り払い、電気を点ける。
押入れから自分の服を引っ掴んで、後先考えずに畳の上に散らかし、その上に義務教育時代のアルバムや、好きな漫画家の本をも放り投げた。
俺はここにいちゃいけなかった。
もっと早くに出るべきだったんだ。
俺は。
「生まれてこなきゃ、よかった」
涙が手の甲に落ちた。
「そしたら、あんただって幸せに」
「それは違う!」
「十七年間、血も繋がらないガキの世話させられて、なに綺麗ごと言ってんだよ。バッカじゃねえの」
昭弘が力ずくで蛍の体の向きを変えてくる。
蛍は鼻を啜って俯いた。
「俺が精神病なのは本当だ」
昭弘の指が腕を滑り、手を握ってくる。
「男と…………。男と寝ているってのも、本当だ」
手が汗ばみだす。
「でも、俺が幸せじゃないっていうのは、嘘だ」
顔を上げ、視線を合わせる。
「ここを出て行きたいなら、それがお前の意志なら、俺は止めない。ただ、お前を傷つけるつもりはなかった。あんなもの、見聞きさせるつもりはなかった」
機械仕掛けの人形のように、昭弘の上半身がびくびくと跳ねる。
「肉がいい」
昭弘が呆ける。
「食べに行くんだろ!」
睨みつけたそこに、泣き崩れる男がいた。
ブレザーから寝巻きに着替えさせられている。
傍に昭弘がいた。
胡坐をかいで、重ねた指を額につけている。
部屋も外も暗い。
額に濡れたタオルがのっていて、蛍はそれを掴んだ。
昭弘が息を吸い込む。
「気分はどうだ? 喉、渇いてないか? もし、食欲あるなら、どこか食べに」
「明日、親父のところへ戻る。準備ができたら、今日、帰る」
「なに、言って」
手を触られ、痺れるほどの絶望感が走った。
振り払い、電気を点ける。
押入れから自分の服を引っ掴んで、後先考えずに畳の上に散らかし、その上に義務教育時代のアルバムや、好きな漫画家の本をも放り投げた。
俺はここにいちゃいけなかった。
もっと早くに出るべきだったんだ。
俺は。
「生まれてこなきゃ、よかった」
涙が手の甲に落ちた。
「そしたら、あんただって幸せに」
「それは違う!」
「十七年間、血も繋がらないガキの世話させられて、なに綺麗ごと言ってんだよ。バッカじゃねえの」
昭弘が力ずくで蛍の体の向きを変えてくる。
蛍は鼻を啜って俯いた。
「俺が精神病なのは本当だ」
昭弘の指が腕を滑り、手を握ってくる。
「男と…………。男と寝ているってのも、本当だ」
手が汗ばみだす。
「でも、俺が幸せじゃないっていうのは、嘘だ」
顔を上げ、視線を合わせる。
「ここを出て行きたいなら、それがお前の意志なら、俺は止めない。ただ、お前を傷つけるつもりはなかった。あんなもの、見聞きさせるつもりはなかった」
機械仕掛けの人形のように、昭弘の上半身がびくびくと跳ねる。
「肉がいい」
昭弘が呆ける。
「食べに行くんだろ!」
睨みつけたそこに、泣き崩れる男がいた。
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