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「昨日のことや、朝波のことを考えれば、あかんとは思うんですが、叢雲を使うことをできるだけひかえたいんです」
「どういうことですか?」
間髪入れずに、三代から質問が飛んできた。
「叢雲を使うとクローバー病が進行してまうんです。甦禰看さんから薬をもろてるんですが、進行をとめるだけで、治すもんとちゃうから、いつかは動けへんなってまうと思うんです」
「そうなのですか? 甦禰看班長」
三代さんの視線を受け、甦禰看は静かに頷いた。
冷静な美女が目で苛立ちを露わにした。
彼女が練る作戦では、神器が必要不可欠なのだろう。
新月の力が望めない今、叢雲まで制限をかけることに、抵抗があるのだ。
「すみません、こんな時に。せやけど、生きとうなってもうたんです」
俯いた夏目を思い、富嶽は繋がっている夏目の手を、もう片方の手で包みこみ、三代を見た。
「指令班の指揮下には、俺も入ります。ですから、どうか、意思を汲みとってください」
「アホか。三つ葉が神器の代わりになるかよ。はあ、やっぱ、F班はなくそうぜ。制限かけるくらいなら、もう、なくていいわ。夏目さんさあ、生きたいなら隠居したら、どうよ」
瀬戸内は小馬鹿にしたように口角を上げた。
「叢雲はたくさんの人を犠牲にして作られたんや。その人達のためにも、叢雲は人を守らなあかん。そやないと、関わった人、みんながうかばれん」
「だったら、いさぎよく、使えるもん使って、気持ち良く死んだらいいんじゃねえの? うじうじ、うじうじ。生きてえのか、死にてえのか、中途半端で、見ていて、ムカつくんだよっ」
浮世絵の伊佐那を叱る声が聞こえた気がした。
しかし、その声は富嶽が拳を机に振り下ろした音で、かき消えた。
富嶽は立ち上がり、瀬戸内を睨みつけた。
瀬戸内は富嶽を蔑むように見た。
「座れ。はっきりせん俺が悪いんや」
夏目が腕を引っ張ってくる。
「夏目さんは何も悪くない!! どうして、言い返さないんですか? 生きたいと思うことも、叢雲で人を救おうと思うことも、夏目さんの大切な意思でしょ? 夏目さんが叢雲のことで負い目があったとしても、ここまで暴言を吐かれる筋合いはないはずだ!」
夏目が目を見開き、動きをとめる。
瀬戸内は富嶽に半眼を向けた。
「弱い奴ほど、よく喚くってのは、本当だったんだな。ぐだぐだ、うぜえから教えてやる。イーバにゃ、感情論はきかねえんだよ! 人型だって、地球人と同じ感情を持っているとは限らねえ。お前らの要求は、誰かの負担があって成り立つんだ。始めっから、単独で動けねえ奴が、動かねえといけねえ側の人間に意見すんじゃねえよ!」
富嶽は奥歯を噛みしめた。
悔しいが、特殊武器を使えず、三つ葉の特性を持つ自分の弱さは、身に染みている。
悶々としていると、夏目がふっと笑った。
「ようわかった。俺が甘ちゃんやった。なんも背負わんと注文だけしとったら、そりゃ対等やないわな」
「夏目さん?」
勢いをなくした富嶽に、夏目は微笑んだ。
「富嶽と瀬戸内のおかげで、なんか、吹っ切れたわ。おおきに」
「じゃ、F班は消滅ってことで話、進めましょうか。夏目さんは戦闘から離れて、はれて一般人だ。富嶽はうちがもらいます。イーバに歯向かえる、唯一の三つ葉だ。ちったあ、役に立つでしょうから」
「F班は解散せえへんし、富嶽はやらん。てか、君、さっきから、人んとこの班員への態度、えげつないで。俺は自業自得やで気の済むよう言うてもろてもええけど、富嶽はちゃうやろ」
笑顔で対抗する夏目に、瀬戸内が何かを言おうと息を吸い込んだとき、三代が咳払いをした。
「瀬戸内班長、続きは、会議の後にしていただいても、よろしいですか?」
三代の鋭い眼差しに、瀬戸内は舌打ちし、腕を組み、口をへの字に曲げた。
富嶽は夏目に引っ張られるようにして、着席した。
「夏目班長、一時的ではありますが、富嶽君も指令班の指揮に従ってもらうということで間違いありませんか?」
三代の質問を聞き、夏目が富嶽に視線を向けてくる。
富嶽は首肯した。
「間違いありません」
夏目が言うと、三代は前方へと首を戻した。
「F班はこの時から指令班の指揮下に入ります。彼らに意見があるなら、班長である私を通してください」
F班の盾になるような発言に、三代を窺った。
彼女はいつも通りの綺麗な顔を崩さず、毅然としていた。
「また、叢雲の使用制限について採決をとりたいと思います。納得がいかない方は挙手してください」
誰も、瀬戸内ですら、手をあげようとしなかった。
「叢雲の使用制限は認められました。以後、意見を翻すことのないよう、願います」
富嶽は採決の結果に感謝した。
「班員試験、及び、特殊武器の訓練について、早急に、日程を組み、後日、紙面で報告します。では、班長会議を終わります」
「待ってよ」
赤星が瞳を揺らしながら、三代の言葉を遮った。
「どういうことですか?」
間髪入れずに、三代から質問が飛んできた。
「叢雲を使うとクローバー病が進行してまうんです。甦禰看さんから薬をもろてるんですが、進行をとめるだけで、治すもんとちゃうから、いつかは動けへんなってまうと思うんです」
「そうなのですか? 甦禰看班長」
三代さんの視線を受け、甦禰看は静かに頷いた。
冷静な美女が目で苛立ちを露わにした。
彼女が練る作戦では、神器が必要不可欠なのだろう。
新月の力が望めない今、叢雲まで制限をかけることに、抵抗があるのだ。
「すみません、こんな時に。せやけど、生きとうなってもうたんです」
俯いた夏目を思い、富嶽は繋がっている夏目の手を、もう片方の手で包みこみ、三代を見た。
「指令班の指揮下には、俺も入ります。ですから、どうか、意思を汲みとってください」
「アホか。三つ葉が神器の代わりになるかよ。はあ、やっぱ、F班はなくそうぜ。制限かけるくらいなら、もう、なくていいわ。夏目さんさあ、生きたいなら隠居したら、どうよ」
瀬戸内は小馬鹿にしたように口角を上げた。
「叢雲はたくさんの人を犠牲にして作られたんや。その人達のためにも、叢雲は人を守らなあかん。そやないと、関わった人、みんながうかばれん」
「だったら、いさぎよく、使えるもん使って、気持ち良く死んだらいいんじゃねえの? うじうじ、うじうじ。生きてえのか、死にてえのか、中途半端で、見ていて、ムカつくんだよっ」
浮世絵の伊佐那を叱る声が聞こえた気がした。
しかし、その声は富嶽が拳を机に振り下ろした音で、かき消えた。
富嶽は立ち上がり、瀬戸内を睨みつけた。
瀬戸内は富嶽を蔑むように見た。
「座れ。はっきりせん俺が悪いんや」
夏目が腕を引っ張ってくる。
「夏目さんは何も悪くない!! どうして、言い返さないんですか? 生きたいと思うことも、叢雲で人を救おうと思うことも、夏目さんの大切な意思でしょ? 夏目さんが叢雲のことで負い目があったとしても、ここまで暴言を吐かれる筋合いはないはずだ!」
夏目が目を見開き、動きをとめる。
瀬戸内は富嶽に半眼を向けた。
「弱い奴ほど、よく喚くってのは、本当だったんだな。ぐだぐだ、うぜえから教えてやる。イーバにゃ、感情論はきかねえんだよ! 人型だって、地球人と同じ感情を持っているとは限らねえ。お前らの要求は、誰かの負担があって成り立つんだ。始めっから、単独で動けねえ奴が、動かねえといけねえ側の人間に意見すんじゃねえよ!」
富嶽は奥歯を噛みしめた。
悔しいが、特殊武器を使えず、三つ葉の特性を持つ自分の弱さは、身に染みている。
悶々としていると、夏目がふっと笑った。
「ようわかった。俺が甘ちゃんやった。なんも背負わんと注文だけしとったら、そりゃ対等やないわな」
「夏目さん?」
勢いをなくした富嶽に、夏目は微笑んだ。
「富嶽と瀬戸内のおかげで、なんか、吹っ切れたわ。おおきに」
「じゃ、F班は消滅ってことで話、進めましょうか。夏目さんは戦闘から離れて、はれて一般人だ。富嶽はうちがもらいます。イーバに歯向かえる、唯一の三つ葉だ。ちったあ、役に立つでしょうから」
「F班は解散せえへんし、富嶽はやらん。てか、君、さっきから、人んとこの班員への態度、えげつないで。俺は自業自得やで気の済むよう言うてもろてもええけど、富嶽はちゃうやろ」
笑顔で対抗する夏目に、瀬戸内が何かを言おうと息を吸い込んだとき、三代が咳払いをした。
「瀬戸内班長、続きは、会議の後にしていただいても、よろしいですか?」
三代の鋭い眼差しに、瀬戸内は舌打ちし、腕を組み、口をへの字に曲げた。
富嶽は夏目に引っ張られるようにして、着席した。
「夏目班長、一時的ではありますが、富嶽君も指令班の指揮に従ってもらうということで間違いありませんか?」
三代の質問を聞き、夏目が富嶽に視線を向けてくる。
富嶽は首肯した。
「間違いありません」
夏目が言うと、三代は前方へと首を戻した。
「F班はこの時から指令班の指揮下に入ります。彼らに意見があるなら、班長である私を通してください」
F班の盾になるような発言に、三代を窺った。
彼女はいつも通りの綺麗な顔を崩さず、毅然としていた。
「また、叢雲の使用制限について採決をとりたいと思います。納得がいかない方は挙手してください」
誰も、瀬戸内ですら、手をあげようとしなかった。
「叢雲の使用制限は認められました。以後、意見を翻すことのないよう、願います」
富嶽は採決の結果に感謝した。
「班員試験、及び、特殊武器の訓練について、早急に、日程を組み、後日、紙面で報告します。では、班長会議を終わります」
「待ってよ」
赤星が瞳を揺らしながら、三代の言葉を遮った。
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