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5 斜め45度の視線 (芹沢 生斗)
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「なっ!」
「俺をぶっ潰したいのに、情報収集しなかったのか?」
沢田を憎み、嫌う男を睨み付ける。
「俺、ハエを箸で掴めるかんな」
「は?」
佐野と有田はそのヒントだけで何かを得たらしかった。
「それに、野球部なら野球でぶっ潰せよ。やっぱ、頭、わりぃの?」
西野は苦虫を噛み潰したような顔をし、距離を持った。
「芹沢……」
有田が泣きそうな面をする。
「今まで悪かったな。俺が間違っていた」
沢田にサッカーをして欲しかった。
だけど、結果として俺は、沢田はもちろん、有田も追い込み、後輩達の士気を下げた。
沢田の未来を選ぶのは沢田自身だ。
今、あいつは野球部を守ろうとしている。
それが、あいつが取った未来だ。
正しい、正しくないじゃない。
俺は何をしている?
こんなんじゃ、康応高校の野郎共と変わんねぇじゃんか……。
「夏の地区予選、勝ちに行くぞっ」
俺はもう、俺に嘘をつかねえ。
* * *
翌日、有田と示し合わせ、野球部の朝練に参加した。
マネージャーは驚いていた。
一年生はそれ以上だった。
二年生はいなかった。そして、沢田も。
香川だけが冷静に俺達を受け入れた。
練習を終え、香川に沢田が朝練を休んだ理由について尋ねた。
「体調不良だ」
香川は素っ気なかった。
「それより、部に戻ってくるなら、壱に言えよ。オーバーワークしたら、体がもたなくなる」
言い方より声音が気にかかった。
俺は了承した。
だが、沢田は学校自体も休み、スマホも繋がらない。
かと言って、腐っている暇はなかった。
俺は有田と一緒に、休み時間、二年生の部員の教室を回った。
練習をサボっていたことを謝り、放課後、部活に出るよう頭を下げた。
彼らは慌てて頭を上げるように言い、俺と有田の様子を疑うように見た。
「また裏切られちゃ、きついっすから」
後輩は俺がなぜ、部活に参加しなくなったのかを知らない。
理由は関係なく、ただ、目に見える過去の遺産が跳ね返ってくる。
帰りのホームルーム後、香川が提示する地獄のような練習メニューをこなした。
一日、二日、三日……。
沢田は学校に出てこない。
四日、五日、六日。
沢田がノックをマスターすると目標に掲げていた一週間が経った。
だが、その日も沢田は朝練を休み、学校も欠席した。
放課後、やっと、有田の球を受ける練習を香川に許された。
口を出すなら、それなりの負担と信頼を勝ち取る必要がある。
香川から渡されるメニューに異議を唱えなかったのは、俺も有田もそれを妥当だと思ったからだった。
だから、俺達は投げ込みができることも嬉しかったが、変化していく香川や部員との関係の方が、もっと嬉しく、ありがたかった。
あと足りないのは沢田だけだ。
練習で流した汗をパウダーシートで拭き取っていると、有田にラーメン屋へ誘われた。
「いいね。駅前のとこ、行こうぜ」
制服へ着替え終った香川を窺う。
「香川も食ってかね? 白湯、旨いぜ」
相手は逡巡し、頷いた。
三人で校門を抜け、バスを待つ。
空は赤く、綺麗だ。
真向かいのバス停にバスが停まる。
宇都宮の名前が印字されたスポーツバックを提げた男が二人、降り、その二人に囲まれるようにジャージ姿の沢田がいた。宇都宮の二人の内、一人は涼宮柊也で、一人はいつかグラウンドで沢田とサッカーボールを蹴り合っていた男だ。
横で、香川が動揺していた。
「芹沢! テスト、受けにきたぞ!」
沢田が手を振る。
その両手に包帯が巻かれていた。
「俺をぶっ潰したいのに、情報収集しなかったのか?」
沢田を憎み、嫌う男を睨み付ける。
「俺、ハエを箸で掴めるかんな」
「は?」
佐野と有田はそのヒントだけで何かを得たらしかった。
「それに、野球部なら野球でぶっ潰せよ。やっぱ、頭、わりぃの?」
西野は苦虫を噛み潰したような顔をし、距離を持った。
「芹沢……」
有田が泣きそうな面をする。
「今まで悪かったな。俺が間違っていた」
沢田にサッカーをして欲しかった。
だけど、結果として俺は、沢田はもちろん、有田も追い込み、後輩達の士気を下げた。
沢田の未来を選ぶのは沢田自身だ。
今、あいつは野球部を守ろうとしている。
それが、あいつが取った未来だ。
正しい、正しくないじゃない。
俺は何をしている?
こんなんじゃ、康応高校の野郎共と変わんねぇじゃんか……。
「夏の地区予選、勝ちに行くぞっ」
俺はもう、俺に嘘をつかねえ。
* * *
翌日、有田と示し合わせ、野球部の朝練に参加した。
マネージャーは驚いていた。
一年生はそれ以上だった。
二年生はいなかった。そして、沢田も。
香川だけが冷静に俺達を受け入れた。
練習を終え、香川に沢田が朝練を休んだ理由について尋ねた。
「体調不良だ」
香川は素っ気なかった。
「それより、部に戻ってくるなら、壱に言えよ。オーバーワークしたら、体がもたなくなる」
言い方より声音が気にかかった。
俺は了承した。
だが、沢田は学校自体も休み、スマホも繋がらない。
かと言って、腐っている暇はなかった。
俺は有田と一緒に、休み時間、二年生の部員の教室を回った。
練習をサボっていたことを謝り、放課後、部活に出るよう頭を下げた。
彼らは慌てて頭を上げるように言い、俺と有田の様子を疑うように見た。
「また裏切られちゃ、きついっすから」
後輩は俺がなぜ、部活に参加しなくなったのかを知らない。
理由は関係なく、ただ、目に見える過去の遺産が跳ね返ってくる。
帰りのホームルーム後、香川が提示する地獄のような練習メニューをこなした。
一日、二日、三日……。
沢田は学校に出てこない。
四日、五日、六日。
沢田がノックをマスターすると目標に掲げていた一週間が経った。
だが、その日も沢田は朝練を休み、学校も欠席した。
放課後、やっと、有田の球を受ける練習を香川に許された。
口を出すなら、それなりの負担と信頼を勝ち取る必要がある。
香川から渡されるメニューに異議を唱えなかったのは、俺も有田もそれを妥当だと思ったからだった。
だから、俺達は投げ込みができることも嬉しかったが、変化していく香川や部員との関係の方が、もっと嬉しく、ありがたかった。
あと足りないのは沢田だけだ。
練習で流した汗をパウダーシートで拭き取っていると、有田にラーメン屋へ誘われた。
「いいね。駅前のとこ、行こうぜ」
制服へ着替え終った香川を窺う。
「香川も食ってかね? 白湯、旨いぜ」
相手は逡巡し、頷いた。
三人で校門を抜け、バスを待つ。
空は赤く、綺麗だ。
真向かいのバス停にバスが停まる。
宇都宮の名前が印字されたスポーツバックを提げた男が二人、降り、その二人に囲まれるようにジャージ姿の沢田がいた。宇都宮の二人の内、一人は涼宮柊也で、一人はいつかグラウンドで沢田とサッカーボールを蹴り合っていた男だ。
横で、香川が動揺していた。
「芹沢! テスト、受けにきたぞ!」
沢田が手を振る。
その両手に包帯が巻かれていた。
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