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ポスター作りで忙しい、とのたまう脇田と西山を残し、俺は向井と電車に乗った。
陸上部は、グラウンドが使い物にならないため、今日も休みだ。
帰宅ラッシュだからか、車内は混んでいた。
開いたドアから、次々と人が入ってくる。
向井は体調が悪いのか、さっきから苦しそうに息を乱していた。
立っているのも、辛そうだ。
それなのに、大丈夫かと尋ねても、いっこうに弱みを見せようとしない。
この強情者が。
俺は自分の降りる駅で、向井も一緒に降ろした。
こいつの家の最寄り駅は、もっと先だ。
ケチでもつけられるかと思ったが、向井はぐったりと、こちらに体を寄せてきた。
この様子じゃ、高熱だ。
俺の部屋で休ませて、親御さんに迎えに来て貰えば良い。
こいつの家まで、二時間はかかる。
昨日、連れて行って貰ったとき、プレイヤーから流れる六十分のMDプレイヤーの音楽が、二回転したから、確かだ。
俺は向井の腰に手を回し、マンションへと急いだ。
鉄筋コンクリートの白色のマンションは、十三階建てであり、駅からは徒歩五分だ。
ショッピングセンターや市役所も、歩いていける距離にあるから、立地条件としては、かなり良い。
親父も、手切れ金にしては、奮発したよな。
向井は、マンションに対しての感想は、ないらしかった。
エレベーターに乗り、十一階で降りて、俺の部屋へと通すと、ごめんと呟かれる。
こいつと、まともに話すようになって、二日目。
謝られてばかりだ。
俺は学ランを預かるとハンガーにかけ、強引に向井をベッドに寝かせて、学ランから私服へ着替えた。下着もきっちり換えさせてもらう。男同士だけど、俺は断ってから、それをした。
すっきりしたら、気分が落ち着いてきた。
向井に、そのままベッドの中にいるように言い、キッチンへと行く。
人間は、水分でできているようなものだ。
何か飲ませないと、脱水症状に陥ってしまう。
お盆にお茶と体温計をのせて戻ると、向井は浮かされたように、俺を見つめた。
「これ、飲んだら体温を計れよ。それと、お前の家に電話をかけるから、電話番号を教えてくれ」
「熱はない」
向井が不器用に笑ってみせる。
泣きそうな笑顔だった。
「熱じゃないって。じゃあ、何だよ。風邪だろ、その症状」
「違う……んだ。これは、そんなんじゃ」
向井がうつ伏せになり、吐息を漏らす。
何だよ。
風邪以外にそんな状態に、どうやったらなるって言うんだ。
「林。俺」
向井が枕をきつく掴む。
「俺、体が……おかしい」
そりゃあ、熱があるんだから、普通じゃないだろう。
伸ばされた手を掴む暇も与えず、向井が仰け反りながら口を覆った。
「大丈夫か? 吐き気か? トイレ、行くか?」
向井が首を左右する。
吐き気じゃないのか。
どこかでバイブ音がした。
携帯電話か?
自分の携帯を出すが着信履歴はない。
バイブ音は、まだしている。
向井から預かった学ランを探るが、そこに携帯はない。
ズボンか。
俺は尻が痛いからしないけど、男は財布や携帯を、ズボンのポケットに入れたがる。
陸上部は、グラウンドが使い物にならないため、今日も休みだ。
帰宅ラッシュだからか、車内は混んでいた。
開いたドアから、次々と人が入ってくる。
向井は体調が悪いのか、さっきから苦しそうに息を乱していた。
立っているのも、辛そうだ。
それなのに、大丈夫かと尋ねても、いっこうに弱みを見せようとしない。
この強情者が。
俺は自分の降りる駅で、向井も一緒に降ろした。
こいつの家の最寄り駅は、もっと先だ。
ケチでもつけられるかと思ったが、向井はぐったりと、こちらに体を寄せてきた。
この様子じゃ、高熱だ。
俺の部屋で休ませて、親御さんに迎えに来て貰えば良い。
こいつの家まで、二時間はかかる。
昨日、連れて行って貰ったとき、プレイヤーから流れる六十分のMDプレイヤーの音楽が、二回転したから、確かだ。
俺は向井の腰に手を回し、マンションへと急いだ。
鉄筋コンクリートの白色のマンションは、十三階建てであり、駅からは徒歩五分だ。
ショッピングセンターや市役所も、歩いていける距離にあるから、立地条件としては、かなり良い。
親父も、手切れ金にしては、奮発したよな。
向井は、マンションに対しての感想は、ないらしかった。
エレベーターに乗り、十一階で降りて、俺の部屋へと通すと、ごめんと呟かれる。
こいつと、まともに話すようになって、二日目。
謝られてばかりだ。
俺は学ランを預かるとハンガーにかけ、強引に向井をベッドに寝かせて、学ランから私服へ着替えた。下着もきっちり換えさせてもらう。男同士だけど、俺は断ってから、それをした。
すっきりしたら、気分が落ち着いてきた。
向井に、そのままベッドの中にいるように言い、キッチンへと行く。
人間は、水分でできているようなものだ。
何か飲ませないと、脱水症状に陥ってしまう。
お盆にお茶と体温計をのせて戻ると、向井は浮かされたように、俺を見つめた。
「これ、飲んだら体温を計れよ。それと、お前の家に電話をかけるから、電話番号を教えてくれ」
「熱はない」
向井が不器用に笑ってみせる。
泣きそうな笑顔だった。
「熱じゃないって。じゃあ、何だよ。風邪だろ、その症状」
「違う……んだ。これは、そんなんじゃ」
向井がうつ伏せになり、吐息を漏らす。
何だよ。
風邪以外にそんな状態に、どうやったらなるって言うんだ。
「林。俺」
向井が枕をきつく掴む。
「俺、体が……おかしい」
そりゃあ、熱があるんだから、普通じゃないだろう。
伸ばされた手を掴む暇も与えず、向井が仰け反りながら口を覆った。
「大丈夫か? 吐き気か? トイレ、行くか?」
向井が首を左右する。
吐き気じゃないのか。
どこかでバイブ音がした。
携帯電話か?
自分の携帯を出すが着信履歴はない。
バイブ音は、まだしている。
向井から預かった学ランを探るが、そこに携帯はない。
ズボンか。
俺は尻が痛いからしないけど、男は財布や携帯を、ズボンのポケットに入れたがる。
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