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「奥村君の言う通り、普通の手紙でしたね」
やっちゃんは嬉しそうに手紙を読んでいるけど、俺はゴクリと唾を飲み込む。
その文字、定規を使って書いてあるよね。
犯罪予告みたいなんですが……。
どういうつもりだ、相手の奴。
名無しの弁当を何の説明もなくやったり、手紙に定規つかったり。
やっちゃんはニコニコしてるけど、変なこと書いてねぇだろうな?
俺は手持ちぶさたなこともあって、胡座をかぎ、思考を巡らせてみる。
定規で文字を書くってことは、自筆だと素性がバレる可能性があるってこと?
弁当は……、やっちゃんが心配だから。
手紙は…………やっちゃんと話したかったから。
相手は、やっちゃんの昔馴染みかな。
壁を作ってるってことは、過去に、それだけの何かが、あったんだろう。
やっちゃん、見てっと、傍にきてやれよって、思うけどな。
ふう、と息をつくと、やっちゃんは手紙から顔を上げた。
「どんなこと、書いてあんの?」
雰囲気だけでも、知りてぇ。
「すごいんです。この人、僕のこと、すごく、知ってて。牛乳配達していることとか、スーパーの掃除していることとか、よく散歩へ行く公園まで知ってるんです。あ、昨日、お腹壊しちゃったこと、自分の作ったお弁当のせいだって思ってるみたいだから、訂正しておかないとですね」
やっちゃん、そういう行動をとる奴のことを、ストーカーって、世間は呼ぶんだぜ。
この部屋、盗聴されてねぇだろうなぁ、おい。
「奥村君のことも、書いてありますよ」
「え! マジ! なんて?」
やっちゃんが優しく微笑む。
「いいお友達ができたみたいで、うれしいですって」
呼吸を止めた。
ごめん。相手、ストーカーじゃない。
きっと、手紙の主は、誰よりも、やっちゃんを大事に思ってる。
「思い当たる人、いないの?」
「……はい。僕自身、すごく意外で戸惑っています。人と接した記憶、あんまりないから。こんなに見てくれてる人がいるんだなって」
僕、親に捨てられたんです、とやっちゃんは目を伏せた。
「僕の両親はαで、兄もそうでした。僕だけがΩだった。六歳のとき、旅行で立ち寄った駅に、置き去りにされたんです。父や母が僕を嫌っていたことは、薄々、感じていたんです。だから」
「帰れなかった?」
「はい……」
立ち上がり、やっちゃんの傍で膝をつく。
不思議そうに、俺の名を呼ぶやっちゃんの、ふさふさな髪をかき混ぜた。
「大丈夫。やっちゃんには俺がいるし、弁当の人もいる。きっと、この手紙の人、やっちゃんのこと、すげぇ好きだ。第三者の俺が言うんだから、間違いないって」
やっちゃんは、涙を浮かべた瞳で、何度も頷いた。
ビーとサイレンが鳴る。
部屋じゃなく、外で。
「うおっ! なに??」
「あ、心配いりません。近くに工場があって、そこがお昼休みになる合図として鳴らすんです」
かなり、でかい音だ。
工場内じゃ、これくらい、でかくないと聞こえねぇってことか。
「僕達もお昼にしませんか? 来ていただいたお礼に、ご馳走します」
やっちゃんは冷蔵庫を漁りながら、俺のアレルギーの有無を聞いてくる。
なんでも食べれることを伝え、手伝おうかと言うが、テレビでも観ててください、とリモコンを渡された。
存在を主張しないサイズの、液晶画面のスイッチを入れ、ニュース番組を選択する。
ガヤガヤうるさいテレビより、やっちゃんの出す音の方が落ち着く。
瞼が重い。
昨日、あんま寝られなかったからな。
やっちゃんは嬉しそうに手紙を読んでいるけど、俺はゴクリと唾を飲み込む。
その文字、定規を使って書いてあるよね。
犯罪予告みたいなんですが……。
どういうつもりだ、相手の奴。
名無しの弁当を何の説明もなくやったり、手紙に定規つかったり。
やっちゃんはニコニコしてるけど、変なこと書いてねぇだろうな?
俺は手持ちぶさたなこともあって、胡座をかぎ、思考を巡らせてみる。
定規で文字を書くってことは、自筆だと素性がバレる可能性があるってこと?
弁当は……、やっちゃんが心配だから。
手紙は…………やっちゃんと話したかったから。
相手は、やっちゃんの昔馴染みかな。
壁を作ってるってことは、過去に、それだけの何かが、あったんだろう。
やっちゃん、見てっと、傍にきてやれよって、思うけどな。
ふう、と息をつくと、やっちゃんは手紙から顔を上げた。
「どんなこと、書いてあんの?」
雰囲気だけでも、知りてぇ。
「すごいんです。この人、僕のこと、すごく、知ってて。牛乳配達していることとか、スーパーの掃除していることとか、よく散歩へ行く公園まで知ってるんです。あ、昨日、お腹壊しちゃったこと、自分の作ったお弁当のせいだって思ってるみたいだから、訂正しておかないとですね」
やっちゃん、そういう行動をとる奴のことを、ストーカーって、世間は呼ぶんだぜ。
この部屋、盗聴されてねぇだろうなぁ、おい。
「奥村君のことも、書いてありますよ」
「え! マジ! なんて?」
やっちゃんが優しく微笑む。
「いいお友達ができたみたいで、うれしいですって」
呼吸を止めた。
ごめん。相手、ストーカーじゃない。
きっと、手紙の主は、誰よりも、やっちゃんを大事に思ってる。
「思い当たる人、いないの?」
「……はい。僕自身、すごく意外で戸惑っています。人と接した記憶、あんまりないから。こんなに見てくれてる人がいるんだなって」
僕、親に捨てられたんです、とやっちゃんは目を伏せた。
「僕の両親はαで、兄もそうでした。僕だけがΩだった。六歳のとき、旅行で立ち寄った駅に、置き去りにされたんです。父や母が僕を嫌っていたことは、薄々、感じていたんです。だから」
「帰れなかった?」
「はい……」
立ち上がり、やっちゃんの傍で膝をつく。
不思議そうに、俺の名を呼ぶやっちゃんの、ふさふさな髪をかき混ぜた。
「大丈夫。やっちゃんには俺がいるし、弁当の人もいる。きっと、この手紙の人、やっちゃんのこと、すげぇ好きだ。第三者の俺が言うんだから、間違いないって」
やっちゃんは、涙を浮かべた瞳で、何度も頷いた。
ビーとサイレンが鳴る。
部屋じゃなく、外で。
「うおっ! なに??」
「あ、心配いりません。近くに工場があって、そこがお昼休みになる合図として鳴らすんです」
かなり、でかい音だ。
工場内じゃ、これくらい、でかくないと聞こえねぇってことか。
「僕達もお昼にしませんか? 来ていただいたお礼に、ご馳走します」
やっちゃんは冷蔵庫を漁りながら、俺のアレルギーの有無を聞いてくる。
なんでも食べれることを伝え、手伝おうかと言うが、テレビでも観ててください、とリモコンを渡された。
存在を主張しないサイズの、液晶画面のスイッチを入れ、ニュース番組を選択する。
ガヤガヤうるさいテレビより、やっちゃんの出す音の方が落ち着く。
瞼が重い。
昨日、あんま寝られなかったからな。
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