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「難しく考え過ぎんなよ。そこは、ありがとう、でいいんじゃないか?」
「あ! そうですね。ありがとうございますって書けば。……でも、次を催促しているように思われたら、どうしよう」
やっちゃん、マイナス思考過ぎ……。
「弁当食べて、うまいって思ったんだろ? ありがたいって思ったんだろ? そんな気持ち、ぶつけられて、変に受け取る奴がいたら、そいつがおかしいんだ」
やっちゃんが、やっと笑顔になり、涙目で頷く。
「僕、手紙かきます。奥村君、ありがとう」
そういうわけで、弁当が待っているやっちゃんと別れ、一人で路地を歩いた。
白石にばっか、飯を作らせんのも悪いよな。
今日は用事があるみたいだったし。
食べ物の匂いがし、鼻がピクリと反応する。
すっげぇ、いい匂い!
涎が出る。
匂いに惹きつけられるように道を行くと、住宅街に溶け込む一軒の弁当屋に着いた。
やっちゃんの弁当話を聴いたから、余計、食べたくなっちゃうよなぁ。
白石の分も買って帰ろ。
「すみません」
「はい」
声を聞いてギクッとする。
店内から顔を出した男は、三角巾を頭に巻き、やる気のなさそうな目は、少しだけ元気そうに開いていたが、それでも、眠そうな雰囲気は、どこかあって。
「如月……さん?」
名を呼ばれ、如月は半眼になった。
なぜ、如月が弁当屋にいる?
こいつ、αだし、X高校出身だし、頭、いいんじゃねぇのか?
弁当屋が頭わるいとか言ってんじゃなくて、こういうところって、人とのコミュニケーション能力が、必須な仕事だろ? Ω嫌いとか、平気で言っちゃえるこいつに、接客できんの?
「お客様、すみません。決まっていらっしゃらないなら、先に、こちらのお客様をお請けしてもよろしいですか?」
にこやかに言われたのに、背筋に悪寒が走る。
俺の横に、いつの間にか中年の女性が来ていた。
「はい」
俺は女性に場所を譲った。
如月は明るく対応している。
すげぇ、人って、ここまで演じれんの!?
女性が去り、如月がありがとうございます、と頭を下げ、数秒後。
「買わないんなら、帰ったら? 見世物じゃないんだけど?」
絶対零度の眼差し。
こえぇ。
さっきの女の人との温度差、ひでぇ。
おずおずとメニューを拝見し、女性に人気と書かれている、野菜が多そうな弁当が目にとまる。
てか、この手書きって如月が書いたんだよな?
「人気」の文字の隣にハートマークついてて、ちびりそうなんだけど。
「これを二つ」
「二つ、ですね」
俺の方が如月から、きっついこと言われてんのに、なぜ、そっちが不機嫌なんだ?
あ、Ωが嫌いだからか。
「作るんで。少し待ってな」
フライパンで、何かが炒められ、ふわっと、いい匂いの層が分厚くなる。
「五色の野菜弁当二つで、千二百円です」
千五百円を出し、三百円の釣を手渡される。
Ωが嫌いなのに、手、触るんだな。
「なにか、不満でも?」
ぼけっとしていたら、睨まれた。
射殺されそうだ。
「いや、なんでもないです」
弁当の入ったビニール袋をカウンターから、手にする。
「それだけじゃ、男は足りないだろ?」
白い紙の袋に、唐揚げが四個放り込まれる。
「サービスだ。お買い上げ、どうも」
弁当屋から離れて、電車に乗っても、心臓がバクバクいっていて、でも、ほかほかの弁当からは、いい匂いがしていて、早く白石と食べたいと思ってしまった。
「あ! そうですね。ありがとうございますって書けば。……でも、次を催促しているように思われたら、どうしよう」
やっちゃん、マイナス思考過ぎ……。
「弁当食べて、うまいって思ったんだろ? ありがたいって思ったんだろ? そんな気持ち、ぶつけられて、変に受け取る奴がいたら、そいつがおかしいんだ」
やっちゃんが、やっと笑顔になり、涙目で頷く。
「僕、手紙かきます。奥村君、ありがとう」
そういうわけで、弁当が待っているやっちゃんと別れ、一人で路地を歩いた。
白石にばっか、飯を作らせんのも悪いよな。
今日は用事があるみたいだったし。
食べ物の匂いがし、鼻がピクリと反応する。
すっげぇ、いい匂い!
涎が出る。
匂いに惹きつけられるように道を行くと、住宅街に溶け込む一軒の弁当屋に着いた。
やっちゃんの弁当話を聴いたから、余計、食べたくなっちゃうよなぁ。
白石の分も買って帰ろ。
「すみません」
「はい」
声を聞いてギクッとする。
店内から顔を出した男は、三角巾を頭に巻き、やる気のなさそうな目は、少しだけ元気そうに開いていたが、それでも、眠そうな雰囲気は、どこかあって。
「如月……さん?」
名を呼ばれ、如月は半眼になった。
なぜ、如月が弁当屋にいる?
こいつ、αだし、X高校出身だし、頭、いいんじゃねぇのか?
弁当屋が頭わるいとか言ってんじゃなくて、こういうところって、人とのコミュニケーション能力が、必須な仕事だろ? Ω嫌いとか、平気で言っちゃえるこいつに、接客できんの?
「お客様、すみません。決まっていらっしゃらないなら、先に、こちらのお客様をお請けしてもよろしいですか?」
にこやかに言われたのに、背筋に悪寒が走る。
俺の横に、いつの間にか中年の女性が来ていた。
「はい」
俺は女性に場所を譲った。
如月は明るく対応している。
すげぇ、人って、ここまで演じれんの!?
女性が去り、如月がありがとうございます、と頭を下げ、数秒後。
「買わないんなら、帰ったら? 見世物じゃないんだけど?」
絶対零度の眼差し。
こえぇ。
さっきの女の人との温度差、ひでぇ。
おずおずとメニューを拝見し、女性に人気と書かれている、野菜が多そうな弁当が目にとまる。
てか、この手書きって如月が書いたんだよな?
「人気」の文字の隣にハートマークついてて、ちびりそうなんだけど。
「これを二つ」
「二つ、ですね」
俺の方が如月から、きっついこと言われてんのに、なぜ、そっちが不機嫌なんだ?
あ、Ωが嫌いだからか。
「作るんで。少し待ってな」
フライパンで、何かが炒められ、ふわっと、いい匂いの層が分厚くなる。
「五色の野菜弁当二つで、千二百円です」
千五百円を出し、三百円の釣を手渡される。
Ωが嫌いなのに、手、触るんだな。
「なにか、不満でも?」
ぼけっとしていたら、睨まれた。
射殺されそうだ。
「いや、なんでもないです」
弁当の入ったビニール袋をカウンターから、手にする。
「それだけじゃ、男は足りないだろ?」
白い紙の袋に、唐揚げが四個放り込まれる。
「サービスだ。お買い上げ、どうも」
弁当屋から離れて、電車に乗っても、心臓がバクバクいっていて、でも、ほかほかの弁当からは、いい匂いがしていて、早く白石と食べたいと思ってしまった。
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