鮮やかなもの

上野たすく

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「そういうダイエットもあるらしい」
「マジで? じゃあ、筋肉つくかな?」
「さあ?」
 俺達は狭いベッドでくっつき合って、天井を見つめた。
「保って、高校へ行っても、バスケやんの?」
「そのつもり」
「おお! んじゃ、俺もやる!」
 高校こそ、やりたいことを、やってやる!
 白石は微笑んだ。
「俺も庸輔と、バスケやりたい」
「じゃあさ、じゃあさ、同じ高校、行こうぜ。保はどこ受けんだ?」
「俺はX高校」
「へ?」
 X高校?
 αしか受験資格、もらえねぇとこ?
「なんで?」
 ヤバイ。
 声、震えんな。
「親がさ、せっかくなら、一番レベルが高いところを受けろって」
「……へえ」
 疎外感、半端ねぇ。
「いいんじゃねえの。保なら受かるっしょ。俺は凡人だから、F高。試合できたら、いいな」
 笑おうとするのに、泣けてくる。
 白石だけは、俺の傍にいてくれるものだと、信じていた。
 よりにもよって、俺が絶対に行けない高校を志望するなんて……。
 泣いているのを悟られたくなくて、白石に背を向けた。
「庸輔?」
 名前、呼ぶな。口開くと嗚咽が出る。
 白石の手が腹部へ回される。
「必ず、毎日、会いに来る」
 それは、初めて言葉にされた約束だった。
「保……」
 振り返った瞬間、細胞がうねった。
 スイッチが切り替わったみたいに、体がべとつく。
 息が乱れ、熱っぽい。
 なに? なにが起こった?
 体がおかしいんだ。苦しくて動けねぇ。
 うまく息ができない。助けて。熱い。苦しい。熱い。怖い。気持ち悪い。
 助けて……、保。
 そこにいるはずの親友を掴もうとし、撥ねのけられた。
 全身が熱いのに、心臓だけが凍り付く。
 白石は赤い顔で口を押さえ、ベッドから出ていく。
「た…………」
 行くな。
 保、お願いだ。
 独りは嫌だ!
 願うのに、白石は俺の部屋から逃げるように去って行った。
 俺は自室に仕舞ってあった薬をなんとか飲み、事なきを得たのだが、その日から、白石は俺の部屋へ来なくなった。
 俺のこのでたらめな体は、親友なんて幻想なんだ、と教えてくれたんだ。
 なのに、だ。
 どういう巡り合わせか、就職先で再会した。
 法律系の資格指導を食いぶちにする学校だ。
 白石は学生の頃からバイトをして、講師になったらしい。
 ちなみに、俺は新卒組。
 就職が決まらなくてジタバタしていたとき、母さんに勧められて受けたら、雇ってもらえた。
 出始めは、テキスト作りをしていたのだが、講師の人数が足りなくなったからってことで、今に至る。
 間に、五分休憩を二回はさんで、一回、五十五分の講義を三回する。
 講義がない時間は、カウンセリングや模試の作成、たまに振り分けられるテキストの執筆をしている。
 ライブ生ばかりでなく、通信で受けてくれている生徒もいるから、講義は録画され、ネットにアップされる。
 白石の野郎が、ぐだぐた言っていたのは、このことだ。
 思い出したら、また、苛々してきた。
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