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第2章

28話

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 そしてその上で、何とか今日一日だけ、この仕事をさせてもらえないか、スレイ君に頼み込んでみた。

「護衛が出来なくて申請書を出しに来たのはわかるよ。ただ、何でお嬢がこの格好よ?     しかも、ほぼ完璧じゃん。俺か団長じゃなきゃわからんぞ、たぶん」
「そもそもジェイクが悪いのよっ。私に第六の仕事させてくんないし。ちょっとくらい私だってお役に立ちたいのにさ」

 ぷうっと膨れて愚痴ってると、苦笑いしたスレイ君から「その顔やめろ、他の貴族から見えたらヤバい」と注意された。

 慌ててキリッとした顔で背筋を伸ばし、改めてスレイ君にお願いした。

「ねえ、今日だけだから。だってもう護衛の時間始まってるもの、ここで私が帰っちゃったら、逆に問題ありでしょ?     スレイ君が悪者だよ?     ところで、スレイ君こそ何でここに?」
「俺はアルベリアの使者とその取り巻きの状況確認だ。誰かと目配せしてたり合図を送ってたりしてないかのチェックだな。しかしなぁ、どうするか、これ」

 ええ、本気で私を返すかどうか考えてるワケ?    やっぱり見逃してはもらえないのかなぁ。たった一日だったのに……

 意気消沈していると、真剣な目つきのスレイ君から低く小さな声で言われた。

「いいか、よく聞け。俺はアルベリアの動きに集中しなければならない。だから王子のことは二の次になってしまう。これは王子も納得してる事項なんだけどな。もしもお嬢がニコラスの代わりでこの仕事を本気でやりたいなら、体を張って死ぬ気で王子を守れ。剣なんか抜かんでもいいからな。自分は刺されてもいい覚悟でだぞ?    それが嫌ならさっさと帰りな」

 中途半端な気持ちじゃいけないってことね。
 わかったわ、私も女よ!
 やってやろうじゃん!

 息を整えているのを見計らったスレイ君が私に声をかけた。

「いけるか?」

 私はスレイ君の、普段と違う低めの声とその迫力に若干気圧されながらも、コクコクと頷いた。

 今回は通常の外交とはちょっと違うらしい。先ほども釘を刺されたのだが、アルベリアの動きがあまり歓迎すべきものではないことに加え、それに刺激された反王家の貴族が、王子を狙ってくる可能性もあるというのだ。

 第一騎士団長には、一番責任感があって、尚且つ向こう見ずな者を、ということで人選をしてもらったらしい。

 なぜそんな人選?    と首を捻ってたら、仕事熱心で任務を遂行する者なら、身を呈して王子を守ることも厭わないだろう、という判断なんだそうだ。

 へえ、ニコラスってば、結構熱心さを認められているんだね。近衛の仕事が好きなのもわかるわ。なら、ニコラスの代わりに私が今日一日だけでも頑張らないとね。気を引き締めてしっかりと足を踏ん張った。

 私がシャキッとしているのに、スレイ君はぶつぶつと呟いている。
 全くいい歳した大人が、何不満を言ってるんだか……
 聞き耳をたてると、呟いてたのはこんな風なことだった。

「今日に限って何だってお嬢なんだよ。団長も首根っこ押さえとけってんだ。今日の分は絶対おごってもらうからな。でも、お嬢に怪我でもさせたら、俺おごられる前に死んでるかも……おお、こわっ!」

 やだなあ、スレイ君ってば。ジェイクはそこまで鬼畜じゃないわよ。
 確かに、ちょっとくらい、んー、結構な感じで鬼っぽいとこあるけど……

 考えたら、私もバレたらジェイクに絞め殺されそうな感じじゃん。ガクブルでスレイ君を見つめれば、向こうもかなり顔色が悪い。

「スレイ君、ジェイクには絶対バレないように今日一日を乗り越えようね?」
「当たり前だっ。お前より俺の命の方が風前のともし火なんだよっ。いいか、絶対に余計なことするなよな。ホントじゃじゃ馬なんだから」

 ひどいっ。じゃじゃ馬なんて表現、私に対して失礼でしょうがっ。

 スレイ君に向かって、プンッと拗ねてみれば「だからその顔をするんじゃないって」とまたまた怒られる。
 あら、ごめんなさい。自然に出ちゃうのよ、最近不満ばっかりだったからね。
 でも、ほんの少しだけドキドキワクワクしてることは隠しきれない。拳をギュッと握って、気合いを入れ直した。

 この場にいることにほんの少しだけ、後ろめたさもあったけど、やっぱりお仕事って楽しいな、と思っちゃうあたり、私って懲りない女だったんだなあ、と改めて自覚してしまった。
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