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第1章

13話

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 酒場の中に入って驚いた。
 よく劇場でみるような、給仕の女性がメチャクチャ素敵なメリハリボディをしてるわけでもなし。赤ら顔のオッサンたちがテーブル汚しながら下品な笑いをしてるわけでもない。

「よかったぁ、酒場ってこんなとこなんだぁ……」

 と小さく呟き、慌てて口をふさいだ。
 ヤバい、今の声は小さかったから聞こえてないよね、集中集中。チラッと団長を見たけれど、私の言葉に反応するような仕草はなかった。ホッとひと息ついてから席に着いた。

「とりあえずメニューから手頃なコース料理を……」
「おい、お前なぁ、レストラン居るんじゃないからさ、コース料理とか無理だっつーの」

 あ、そうなんだ。ならどうすればいいんだろ?   顔中ハテナマークが飛び交ってる私を苦笑いしながら見つめ、代わりに団長が適当に注文してくれる。

 メニューからチラッと目だけあげ、隙間から覗くと、びっくりするくらい整った顔だってのに気づいてドキドキした。
 団長がこんな綺麗な顔してるなんて、あんまり見てなかったから気づかなかった……初日はモッサかったし、次の日からは書類と格闘しててそんなヒマなかったし。

 もしかして、私ってば、またまたラブの予感?
 無いわぁ、こいつイジメっ子要素満載だし。私ゃイジメられて喜ぶ体質でもない。まだスレイ君の方が、親しみ感じるわ。人懐こくって弟がもう一人増えたみたいだもん。あ、スレイ君って歳いくつかな?   聞いてみよっと。さり気なくだからまずは団長から聞かないとマズいのかな?

「あのー、団長は今お幾つになられましたか?あとスレイ君も」

 一瞬目つきが鋭くなったが、フッと笑って意地の悪い笑みを浮かべながら答えてくれた。

「なるほど、俺の歳もスレイの歳も知らないのか。知りたいのはそれだけか?   他に何か気がかりなことはあるのか?」

 あれぇ?   ずいぶんと協力的だこと。あ、なら第一騎士団長のことも聞いちゃうかなぁ。
 この際だから、と結構教えてもらった。王族や上級貴族のことだから渋ると思ってたのに、意外だわぁ。
 私は知り得た内容に満足してホクホク顔になった。家に帰ったらお父様とまた情報交換しなきゃね。

 団長とスレイ君は同い年で、今年二十二になんだそうだ。おっと、びっくり情報だったのが、スレイ君って副団長さんを任命してるんだって。二人ともすごいよね。私よりも二つ上なだけなのに、しっかり仕事してるんだよ。ニコラスも将来はこんな風に仕事するのかなぁ。

 ちなみに第一騎士団長は昨年結婚したばかりの新婚さんらしい。なーんだ、私のこと聞いてくるなら独身男性かと思ってたのに、残念だ。ラブポイント、はい、ひとつ消えたー。

 ということはだよ?   私について聞いてきたラングダウン公爵家が縁談話しを持ってくることが一番有力ってことになるね。
 きゃあ、私ってもしかしてスレイ君のお嫁さんになるのかしらん?

「俺もお前に聞きたいことが山ほどあるんだ」
「え?   何でしょうか?   私で答えられますかねぇ」
「簡単なことだが、この場だとちょっと。上に個室があるから、そちらで話そう。人にあまり聞かれたくないしな」

 ああ、確かに。貴族、しかも王子様ってバレたら今後のスパイ活動にも影響あるもんね。あ、でもスレイ君や他の人の報告とかどうなるんだろ?

 尋ねたら、スレイ君が窓口になって、団長に報告あげるのは明日まとめてするってことで折り合いがついてるらしい。
 なら安心だね。ちょっと心配だったから、スッキリした。
 そうして、私はのこのこと個室まで付いて行ってしまった。この時は何の疑問も感じなかったし、ピンチに陥るとも思ってなかったのだ。
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